近年、「完全栄養食」という言葉を耳にする機会が増えた。1食で必要な栄養素をバランス良く摂取できる手軽さから、忙しい現代人のライフスタイルに合致する食品として注目を集めている。
しかし、その認知度とは裏腹に、実際の食卓への浸透はまだ限定的なのかもしれない。マーケティングリサーチ会社のマイボイスコムが実施した調査結果から、完全栄養食の利用実態と、普及に向けた課題や期待が見えてきた。
利用経験者は1割強、30代に支持される理由
マイボイスコムの調査によると、完全栄養食を知っている人は7割を超えるものの、実際に利用した経験がある人は全体の1割強にとどまる。
直近1年間での利用者に絞ると、その割合は約9%とさらに少なくなるのが現状だ。年代別に見ると、30代の利用経験率が2割強と他の年代より高く、比較的若い世代での関心の高さがうかがえる結果となった。
直近1年間の利用者が選んだ商品としては、日清食品の「完全メシ」シリーズ(冷凍含む)が最も多く18.6%、次いでBASE FOOD株式会社の「BASE FOOD」が10.1%という順である。これらのブランドは、テレビCMやSNSでの積極的なプロモーションも奏功している可能性がある。
では、利用者はどのような理由で完全栄養食を選んでいるのだろうか。
最も多かった理由は「時間がない時に手軽に利用できる」(25.3%)であり、次いで「健康維持・管理のため」「栄養バランス・栄養不足が気になる」が各2割弱と続く。特に、完全栄養食であることを意識して購入した層では、後者の「栄養バランス」や「健康維持」が上位を占めており、手軽さに加えて栄養面でのメリットを重視していることがわかる。
© マイボイスコム株式会社
昼食代替や非常食に期待、普及阻む「価格・味・安全性」の壁
今後の利用意向についてはどうだろうか。
「利用したい」「やや利用したい」を合わせた意向者は全体の2割弱。こちらも若年層ほど利用意向が高く、10~30代では3割前後に達する。一度利用した経験がある人は継続意向も高く、直近1年間の利用者の6割強が今後も利用したいと回答している。
利用意向者が完全栄養食を利用したいと考える場面は、「昼食の代わりに食べる」「栄養バランス・栄養不足が気になる」「小腹がすいたときや、おやつの代わりに食べる」がそれぞれ20%台で上位を占めた。
忙しい日中の食事を手軽に、かつ栄養バランスを考慮して済ませたいというニーズが強いようだ。また、「災害時・非常時の備え」として利用したいという声も多く、特に女性や高年齢層でその傾向が顕著である。長期保存が可能で栄養価の高い完全栄養食は、ローリングストック(日常的に消費しながら備蓄する方法)にも適していると捉えられているのかもしれない。
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一方で、利用したくないと考える層も存在する。
その理由として多く挙げられたのは「価格が高い」「おいしくない・おいしくなさそう」「原材料・添加物の安全性が不安」の3点だ。
手軽さや栄養バランスというメリットは認識しつつも、コストパフォーマンスや味への期待、そして口にするものの安全性に対する懸念が、普及のハードルとなっている様子がうかがえる。自由回答でも、「噛むことが少なくなりそう」「人によって必要な栄養は違うのでは」といった意見が見られた。
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今回の調査結果は、完全栄養食が持つ「手軽さ」と「栄養バランス」という二つの価値が、特に時間のない現代人や健康意識の高い層に響いていることを示している。昼食の代替や間食、さらには非常食としてのポテンシャルも秘めていると言えるだろう。
しかし、利用経験者がまだ1割程度にとどまっている現状を見ると、日常的な食事として定着するには、価格面でのハードルを下げ、味の多様性や美味しさを追求し、原材料や添加物に対する不安を払拭していく必要がある。
一般的に、厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準」に基づき、1食に必要な栄養素※をバランス良く含むとされる完全栄養食。その市場は今後も拡大が予測されるが、多くの人にとって身近な選択肢となるためには、利便性や機能性だけでなく、「食」本来の楽しみや安心感といった側面も満たしていくことが求められるだろう。
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