米国株の投資家はトランプ政権と中国の通商協議から目が離せない。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)によれば、S&P500種株価指数の採用企業は平均で、売上高の6.1%を中国市場に依存。中国との完全なデカップリング(関係切り離し)は利益の大幅な減少をもたらしかねないとされている。
アポロ・マネジメントのチーフエコノミスト、トーステン・スロック氏は「米国が中国との関係を完全に断つ場合、S&P500種企業は中国市場を失い、収益は大きく減少する」と述べた。米企業の中国での収益は1.2兆ドル(約174兆円)にのぼり、財の貿易赤字の約4倍に相当するという。
中国製品を米国で販売する企業も、トランプ政権の関税措置にコストを押し上げられる。マテルは輸入玩具への関税賦課を理由に、2025年の増収見通しを撤回した。トランプ大統領は8日、マテルを名指しで批判し、国外に生産拠点を移せば100%の関税を課すと脅した。
アナリストらは貿易面での不透明感を理由に、S&P500社の利益見通しを今年約265ドルと、1月時点での273ドルから下方修正した。トランプ政権は4月2日に大規模な関税措置を発表。ほとんどの関税は90日間適用が保留されたが、中国に対する関税は145%に達し、極端に厳しい措置となった。中国側は報復として、米国製品に125%の関税を課した。
S&P500種株価指数は当初、年初来で15%下落したが、その後交渉への期待から一部値を戻し、歴史的なボラティリティー(変動率)を見せている。トランプ氏は英国との貿易協定が「第一弾」となり、後に多数の合意が続くと述べつつ、翌日には中国に80%の関税を課すことが「適切」とソーシャルメディアに投稿した。
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ブルームバーグがまとめたデータによると、中国市場への依存度が高い大手企業にはアップルや、エヌビディア、テスラなどがある。特にテスラは売上高の5分の1以上を中国で得ている。

半導体
半導体や関連機器の製造企業は中国市場への依存度が高く、通商協議の最前線に置かれている。BIの分析ではS&P500種企業ではモノリシック・パワー・システムズとKLA、ラム・リサーチ、クアルコムの対中依存が高い。
米国の対中輸出制限で、今年は15億ドルの売上高を失うとアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)は予想。中国を最大市場とするクアルコムは、控えめな売上高見通しを示した。同社はスマートフォン向け半導体の最大手。インテルの今四半期売上高見通しはアナリスト予想を大きく下回った。関税がリセッション(景気後退)につながれば、半導体需要が急降下すると警告した。
フィラデルフィア半導体指数は年初から9.7%下落。マーベルやテラダイン、ONセミコンダクターなどが特に下げている。
消費財
ナイキやエスティローダー、フィリップ・モリス・インターナショナルなどのエクスポージャーが特に高いと、ブルームバーグのサプライチェーンデータは示唆。スターバックスとマクドナルドはそれぞれ、中国内に数千規模の店舗を展開している。
アマゾン・ドット・コムは向こう数カ月は厳しいビジネス環境を覚悟していると述べた。
S&P500種の消費裁量指数は年初来で11%下落している。
自動車
BIのアナリストによれば、自動車部品はS&P500種のセクター別でも国外需要への依存が最も高い。特にボルグワーナーとアプティブは売上高の多くを中国で上げている。
ゼネラル・モーターズ(GM)とフォード・モーターは関税を理由に、通期の収益ガイダンスを撤回した。GMは昨年、5万5000台近くを中国から輸入した。ハーレーダビッドソンも通期見通しを取り下げ、米貿易政策の不確実性を指摘した。
S&Pコンポジット1500指数の自動車・部品セクターは、今年23%下落。中でもジェンサームとフォックス・ファクトリー・ホールディング、ウィニベーゴ・インダストリーズの下げが際立っている。
鉱工業
米国の鉱工業企業は世界的なサプライチェーンや市場と密接に結びついており、貿易戦争はすでに貨物運輸や機械大手に打撃を与えている。
キャタピラーは中国からの報復関税が最も強い打撃を及ぼすとの見方を示した。同社は4-6月(第2四半期)だけでも2億5000万ドルから3億5000万ドルのコストを推計している。コンサルティング会社が算出した対中リスクの大きい米企業リストで、ハネウェル・インターナショナルは8位にランキングされた。
鉱工業企業としては米国最大の輸出企業であるボーイングは、中国政府による報復をダイレクトに受ける。中国は先月、新たな航空機を受け入れないように航空各社に指示。今年予定されている約50機の納入が不透明になった。
UPSは通期ガイダンスを更新せず、状況が安定を取り戻せば従来見通しを維持すると述べた。ただ収益性の高い米中間の輸送需要は減少するとみている。同業のフェデックスは通期の業績見通しを下方修正した。
素材
化学や金属、鉱業などの資源産業も米中関係に大きく左右される。
イーストマン・ケミカルが先月発表した第2四半期の業績見通しは、市場の失望を誘った。同社は「米中間の関税」を含む複数の要素を挙げた。銅大手のフリーポート・マクモランは仕入れ価格を押し上げる最大の要因として、米政府が中国に課した145%の関税を指摘した。
間接的なショックが心配な企業もある。中国が穀物の仕入れ先を米国からブラジルなどにシフトするため、肥料大手のモザイクは需要に打撃が及ぶとみている。
原題:Traders’ Guide to US Stocks Most Affected in China Trade Talks(抜粋)
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