新型コロナウイルス感染症のパンデミックが猛威を振るっていた2020年11月、ブラジル政府は物理的な接触をすることなく迅速な支払いが可能なデジタル決済システム「Pix」を導入しました。経済紙のThe Economistが、Pixの普及の状況や今後の展望についてまとめています。

Brazil’s government-run payments system has become dominant
https://www.economist.com/the-americas/2025/04/03/brazils-government-run-payments-system-has-become-dominant

以下は、ブラジル中央銀行のデータを元にThe Economistが作成した、同国における決済手段の内訳のグラフです。赤色で示されたPixは2024年までに現金やクレジットカードを超えてブラジルで最も人気の決済手段となり、取引件数は630億件、金額は26兆レアル(約640兆円)に達しました。


ブラジル政府が導入したPixは消費者なら無料、小売業者なら0.22%と非常に安い手数料で利用可能で、これは銀行が小売業者のカード決済処理に請求していた手数料の10分の1です。これにより、銀行は手数料を引き下げざるを得なくなりました。

また、2018年までブラジルでは6行の銀行が資産の82%、融資の86%を支配していましたが、Pixのおかげで多数の支店やATMを設置できない中小企業も金融市場に参入できるようになっています。

同様の取り組みとしては、インドが2016年に導入した統合決済インターフェース(UPI)が先行しており、QRコードでスキャンするだけで使える無料のUPIが成功を収めたことで、インドは世界有数の電子決済大国となりました。

いかにしてインドは電子決済大国へと変身を遂げたのか? – GIGAZINE

by Atul Loke for The New York Times

PixはインドのUPIや、メキシコ政府が2019年に導入した同様の電子決済システム「CoDi」よりも急速にブラジル経済に普及しており、他国もブラジルに追随しています。例えば、2025年2月には、コロンビアがPixの開発に携わったフィンテック企業と提携して開発された新しい即時決済システム「Bre-B」の導入を発表しました。

しかし、業界団体が運営しているUPIとは異なり、Pixはブラジル中央銀行によって完全に管理されており、ハッキングリスクの集中に対する懸念や集権的な体制に対する批判の声も少なくないとのこと。

匿名でThe Economistの取材に応じた有名フィンテック企業のトップは、「私たちの国は民主主義国家ですが、もしこれが独裁国家で、国民のあらゆるデータが政府に握られていたらどうなるか想像してみて下さい」と話しました。

また2025年1月には、政府が一定額以上のPix取引の開示を義務付けると発表したところ、「Pix課税への準備」というデマが流れて大規模な騒動へとエスカレートし、政府が発表の撤回を余儀なくされるなど、Pixにはその人気ゆえに悪いニュースが一気に大問題に発展するという側面もあります。


こうした問題をよそに、Pixはブラジルを超えて南米諸国に進出しており、ラテンアメリカ各国の決済代行業者が相次いでPixへの対応を開始しています。また、ブラジル中央銀行はブラジル人移民を多く受けて入れている国々と協議して、Pixを通じた送金を認めるように働きかけており、これにより高額な手数料を課す現地の送金業者の競争力がそがれることが予想されています。

Pixの普及はまた、ブラジルのデジタル通貨「Drex」の実現の下地にもなっており、ブラジル中央銀行はVisa、Mastercard、Googleなどと提携してDrexの試験運用を始めています。

この記事を話題にしたソーシャルニュースサイト・Hacker Newsのスレッドでは、長年ブラジルに住んでいるというHacker Newsユーザーが「Pixはブラジルでの取引方法に革命をもたらしました。私は小銭程度の支払いにPixを使っていますし、友だちはPixで家を購入しました。Pixはどんな金額でも問題なく動作し、とても簡単に使えます。しかもそのスピードや信頼性は驚異的で、ダウンタイムが原因でPixの支払いに失敗したことは1回もありません。Wiseでブラジルの口座にお金を引き出すと、Wiseの確認画面のアニメーションが終わる前にブラジルの銀行からプッシュ通知が届きます。まるで魔法のようです。今日のブラジルでは、Pixがあまりに広く普及しているので、誰がPixを使っているのかを気にすることさえなくなりました。タクシー運転手はもちろん、ホームレスの人たちも小銭の代わりにPixでお金を求めてきます。仮想通貨には勝ち目がないでしょう」とのコメントを投稿していました。

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