トランプ米大統領との交渉戦術に頭を悩ませる世界の指導者にとって、上乗せ関税発表後で初となる英国との貿易枠組み合意は、トランプ氏がどの程度譲歩する用意があるかを示すいくつかの手がかりを提供する。
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今回の合意では、トランプ氏は貿易交渉が最終的な妥結に至っていなくても進展を祝う用意があることを示した。それは政権にとって政治的な得点稼ぎにもなり得る。
また米国の関税が引き下げられる余地があることも示されたが、これが他国・地域のひな形にはならない可能性があるとの見方が出ている。
T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフ・ストラテジストは、米英が合意を発表しても楽観はできないと指摘。米国は英国との間で貿易赤字を抱えておらず、合意は比較的容易だったと述べる。
日本、ベトナム、韓国など、米国との間で多額の貿易黒字を抱えるアジア諸国は早々に協議に乗り出したが、進展の兆しは乏しい。
ラトニック米商務長官は8日、「日本や韓国との間では多大な時間が必要で、取引は早急にはまとまらないだろう」とブルームバーグテレビジョンで発言。また、インドが次に合意に達する国・地域の一つとなる可能性は「確かにある」としつつも、「非常に多くの作業を要する」と述べた。
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欧州連合(EU)もまた、米政権との交渉が難航している。これはその規模の大きさにも起因すると、コンサルティング会社フリント・グローバルの国際貿易実務統括者サム・ロウ氏は指摘する。
「英国は経済規模が小さく、実質的に報復するという選択肢がない。だがEUは関税などを通じて米国に一定の打撃を与えることができる」とロウ氏。「そのため対米交渉をより優位に進めることができる半面、合意に要する時間も長くなるだろう」と続けた。
英国との合意で注目点の1つは、自動車関税が年10万台を上限に27.5%から10%に引き下げられたことだ。
日本と韓国から米国に輸出される自動車はいずれも英国の10倍以上で、両国の対米輸出全体の約3分の1を占めている。
今回の米英合意は、日韓製自動車に対する25%の関税が引き下げられるとの一定の希望を抱かせる内容だ。
ただ、日本側は完全撤廃を求めている。対米交渉責任者の赤沢亮正経済再生担当相は、自動車、鉄鋼・アルミも含めた一連の関税措置に関し、日本として「見直しを求めるという立場に変わりはない」との姿勢を重ねて表明。日米両国の関税交渉では可能な限り早期に合意し、首脳間で発表できるよう目指すとの認識で一致しているとの認識を示した。
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米国がすべての国・地域に適用している10%の基本関税は、ほぼ固定された水準とみなすこともできるとの指摘も出ている。英国はこの上乗せ関税の見直しについて引き続き交渉を続ける意向を示している。
例外の1つとして、英国は米国から課されていた25%の鉄鋼・アルミニウム関税の撤廃を勝ち取った。ただ、米英の合意によって他国・地域に課されている鉄鋼・アルミ関税にどう影響を与えるのかは現時点で不明だ。
今回の枠組みでは、米国が重視している規制や補助金といった非関税障壁に関する具体的な手がかりはほとんどなかった。英国は牛肉などの米農産品への関税を引き下げる一方で、食品輸入に関する安全検査の基準は緩和しない方針だと述べている。
また米英の合意枠組みに中国に関する記述が一切なかった点も注目に値するとの声が上がっている。背景には、トランプ政権関係者が中国への圧力を強めるため、英国など同盟国に協力を求める考えを示唆していた経緯がある。

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Source: Bloomberg
原題:Trump’s First Trade Pact Offers Faint Glimpse on Art of the Deal(抜粋)
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