
「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。
企業も人生も「ライフ・サイクル・カーブ」がある
企業や製品が導入期、成長期、成熟期、衰退期といった異なるステージを経るのと同じように、私たちの人生もまた異なるステージを遷移し、それぞれのステージで求められる思考・行動様式は変わってきます。
本節では、マーケティングにおけるライフ・サイクル・カーブの理論を人生の戦略に適用することを考えてみましょう。ライフ・サイクル・カーブとは、企業・製品・サービスが市場において、どのような推移を辿るかを示すもので、一般的には図2-1のように概念化されます。
導入期
製品が初めて市場に投入される段階。製品の開発コストやマーケティング費用が高く、利益が出にくい。また市場に受け入れられるかどうかについては、高度の不確実性が伴う。
成長期
製品・サービスが市場で受け入れられ、売上が急増する時期。競合他社が参入してくるため、差別化が重要となる。シェアは短期間で大きく変動し、価格競争が始まることもある。
成熟期
市場が飽和し、売上の成長が鈍化する時期。製品やサービスも完成・成熟しており、大きな変化が生まれない。市場が成長しないため、シェア争いが激化する傾向があり、往々にして価格競争も発生する。
衰退期
需要が減少し、売上が低下する時期。新しいテクノロジーの出現や消費者の嗜好の変化によって製品やサービスが陳腐化する。新規市場への進出やイノベーションが求められる状況。
人生には「春夏秋冬」がある
ここではまず、自分自身の人生をライフ・サイクル・カーブに当てはめて、人生の全体像を大掴みしながら、各年代のステージに応じて変化していくゲームをイメージしてみましょう。
「私たちはいつ死ぬかわからない」ですが、とはいえ、現在の日本を前提にすれば、私たちは平均で80歳+まで生きることになります。ということで、ここでは平均的な寿命を、いったん80歳+とおいて、先述したライフ・サイクル・カーブの概念に当てはめてみましょう。すると、おおよそ人生を次の4つのステージに整理できることがわかります。
ライフ・サイクル・カーブにおける「導入期」に該当するのが「人生の春」です。
子ども時代・学生時代から30歳前後くらいまでがこのステージに該当します。「人生の春」のキーワードは「試す」です。さまざまな物事に取り組む過程を通じて、自分は何が得意で何が不得意なのか、何に情熱を感じて何にシラけるのか、を理解し、次のステージにおいて追求するべき方向性やテーマを見つけるのが、この時期の主題ということになります。
次に、ライフ・サイクル・カーブにおける「成長期」に該当するのが「人生の夏」です。
年齢的には30歳前後から50歳前後くらいまでがこのステージに該当します。「人生の夏」のキーワードは「築く」です。「ここ」と決めた領域に自分の時間や労力といった資源をレーザーのように集光させ、その領域で知識・スキル・経験といった人的資本と、信用・評判・ネットワークといった社会資本を築いていき、人生の「秋」「冬」以降の下地をつくることが、この時期のテーマということになります。
次に、ライフ・サイクル・カーブにおける「成熟期」に該当するのが「人生の秋」です。
年代的には50歳前後から70歳前後くらいまでがここに該当することになります。「人生の秋」のキーワードは「拡げる」です。「人生の夏」において築いた人的資本と社会資本を足がかりにして、本業以外のさまざまな領域に仕事のポートフォリオを拡げ、次にやってくるステージである「人生の冬」へのトランジットをスムーズかつ実り豊かなものにするための仕込みをします。
最後に、ライフ・サイクル・カーブにおける「衰退期」に該当するのが「人生の冬」です。
年代的には70代以降がここに該当することになります。「冬」と聞けば、それはいかにも寒く、寂しいように感じるかもしれませんが、そんなことはありません。「冬」はとても美しく、また人の温もりが感じられる季節でもあります。「人生の冬」のキーワードは「与える」です。これまでの人生で培ってきたさまざまな経験によって結晶化された知恵を基に、後進にアドバイスを与え、活躍の機会を与え、成長につながるフィードバックを与える賢者のイメージです。
ステージは目安。「早すぎる」「遅すぎる」はない
ここでひとつ、注意を促しておきたいと思います。
この整理はあくまで凡例的なものであり、個人のライフ・マネジメント・ストラテジーによって各ステージの内容や年齢は大きく変わってくることになります。
例えば、30代の半ばまで、さして人生について考えることもなく生きてきた人が、あるタイミングで「生きることを考える」ようになれば、そのタイミングから「人生の春」を始めるということもあり得るでしょう。そうなれば、まずは本業としてなんらかの仕事に携わりながら、これからの人生で追求していくべきことを探索することが最初のステップとなるわけで、このようなケースでは年齢と各ステージの対応関係は標準モデルとは大きく変わってくることになります。
現実の世界では、例えばキャリアの前半期は金融の世界で活躍したのち、40歳を過ぎてからプロの画家になることを選んだゴーギャンのような人がいますし、キャリアの前半期は聖職者とオルガニストとして活躍したのち、40歳を過ぎてから医師としての活動を始めて巨大な業績を残したシュバイツァーのような人物もいます。
彼らが生きた時代は平均寿命が60歳に届かない時代でしたが、特に寿命が大きく伸長している現在のような社会では、ある程度の年齢に差し掛かってから「人生の春」をもう一度繰り返すという「人生の二毛作」のような生き方も十分にあり得ると思います。
ということで、繰り返せば、このライフ・サイクル・カーブによって提示されたステージと年齢の関係は、あくまで標準的な目安でしかなく、このフレームをもって「早すぎる」とか「遅すぎる」といったことを考えてしまう必要は全くないということです。
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