AYANEOの展開するポータブルゲーミングPC「AYANEO」シリーズはこれまでもさまざまな驚きを我々にもたらしてきた。そんなAYANEOが6月に発売予定の最新ナンバリングモデル「AYANEO 3」では、別売の「Magic Module」を使うことでコントローラ部分のカスタマイズが行なえるという、かなり画期的な機能が備わった製品に仕上がっている。
本体性能も抜群で、CPUには最新のRyzen AI 9 HX 370、またはRyzen 7 8840Uを搭載し、メモリは32GB以上、ストレージは1TB以上と申し分のないスペックとなっており、価格は16万8,000円から。別売のMagic Moduleは1万9,800円となっている。
注目度の高いMagic Moduleによるカスタマイズだが、実際にはどのような感触なのか。今回発売前の試用機をお借りしたので、その使い心地や、パフォーマンスなどについてチェックしていきたい。
Ryzen AI 9 HX 370搭載など、最強性能のポータブルゲーミングPC
試用機の基本スペックとしては、CPUにRyzen AI 9 HX 370を搭載し、メモリはLPDDR5X-7500で容量は32GB、ストレージは1TBのM.2 2280のSSDとなっている。購入可能なモデルとしては、CPUにRyzen 7 8840Uを搭載する下位モデルを用意するほか、メモリ容量が64GB、ストレージが2TB/4TBの上位モデルも用意する。
ディスプレイについてはリフレッシュレート144Hz対応、解像度1,920×1,080ドットの7型OLEDを採用するが、1モデルのみ、7型/1,920×1,080ドットの液晶ディスプレイを採用しており、こちらはネイティブランドスケープ対応で、VRR(可変リフレッシュレート)に対応するモデルとなっている。
ゲームコントローラ部以外のインターフェイスは、天面部に指紋認証センサー内蔵の電源ボタン、ボリュームスイッチ、外付けGPUなどと接続するためのOCuLink、USB PD給電/DisplayPort 1.4対応のUSB4を装備。底面部には天面部と同様のUSB4、microSD 4.0カードスロット、3.5mmヘッドセット端子を備える。
そのほか、LEDインジケータと並んで「コントローラーモード/キーボード&マウスモード切替ボタン」が用意されており、このボタンを押すことで、アナログスティックの操作でマウスカーソルが動かせるようになる。デフォルトではオートモードとなっており、PC上の動きを判断して、自動でマウスモードかコントローラーモードか切り替わるが、これを手動で切り替えられるボタンとなっている。
スピーカーは本体前面側の両端下部に搭載。無線LANはWi-Fi 6E対応、Bluetoothは5.3。バッテリ容量は49Wh、65WのUSB PD急速充電にも対応する。サイズは公称値で約289.8×115×22.4mm、重量は約690g。
同じ7型ディスプレイを搭載する「Steam Deck」や「ROG Ally」などと比較してみたが、全体的に大型ボディのSteam Deckと比べるとAYANEO 3はやや小ぶり、逆にコンパクトにまとまったROG Allyと比べると大きめに感じられるサイズ感となっている。
一方で、手に持つ際に掴む両端のグリップの部分が流線形で手になじむ形状になっているので、手に持って遊んでいる分にはあまり大きさは気にならない。
コントローラレイアウトを自由にカスタムできる「Magic Module」
ここで最も特徴的な「Magic Module」について触れていこう。ポータブルゲーミングPCに備えるコントローラは一部の製品では着脱可能なものもあるが、基本的なコントローラのレイアウトは製品ごとに固有の物が採用されており、変更できないのが一般的だ。一方で、世の中に出回っているゲームコントローラはさまざまなレイアウトのものが発売されており、十字キーの位置やアナログスティックの位置、ボタンの位置など挙げていくときりがない。
こうした多種多様なゲームコントローラのレイアウトになるべく合わせられるように、コントローラ部分を交換可能な設計にしたのがMagic Moduleだ。標準で装着されているものを含めると8種類のモジュールが用意されており、これらを上下左右、自由に組み替えることが可能となっている。同社ではこれらの組み合わせで56種類のカスタマイズが行なえるとしている。
標準装備のモジュールは左側が十字キーとアナログスティック、右側がA/B/X/Yボタンとアナログスティックのものだが、追加の6種類のモジュールはこれらと同じ構成のモジュールがそれぞれ1つずつに加えて、以下の4つが用意されている。
- アナログスティックと「Xbox Elite ワイヤレスコントローラー シリーズ2」などで採用されるDパッドのようなパッド(マイクロスイッチ採用8方向キー)のモジュール
- 円形のパッド(TouchTAPMagic)とA/B/X/Yボタンのモジュール
- TouchTAPMagicと十字キーのモジュール
- HORIのファイティングコマンダーOCTAシリーズのような、格闘ゲームなどで使用する6ボタンのモジュール
なお、十字キーとアナログスティックやパッドといった移動用キーのみのモジュールを両方に装備する、といった使い方はできず、エラーが出て使えないようになっている。ただし、A/B/X/Yボタンの付いたモジュールを左側に装着するというめずらしいレイアウトを構築することは可能だし、十字キーやボタン、アナログスティックをそれぞれ逆さに装着することも可能なので、かなりいろいろなレイアウトが実現できる。
なおアナログスティックの先端部は引き抜くことで着脱でき、形状の異なる4種類の交換用パーツと交換できる。A/B/X/Yボタンも同様に、アルファベットが印字されたキャップの部分のみを外して差し替えられる。というのも、ボタンを含むモジュールの装着時に、上下逆向きにつけた場合は、ボタンのキャップの配置は手作業で向きを変える必要があるからだ。
このボタンのキャップ部だが、着脱は比較的容易に行なえるのものの、作りがかなりシンプルなので、頻繁に着脱していると緩くなって簡単に外れてしまいそうに見える点がちょっと気になった。
モジュールの着脱はソフトウェアで制御されており、管理ソフト「AYASPACE 3」の「Smart Control」タブから、設定の変更やモジュールの取り外しが行なえる。設定画面内の「One-click Pop Up」ボタンを押すことで、モーター音が響き、ガショっと小気味の良い音とともにモジュールが外れる。ギミックとしてはとても気持ちがいい。
なお、外れる際には多少飛び出すような挙動となるので、本体を水平状態にして行なうのがいいだろう。立てた状態で外すと、モジュールが飛び出して落下してしまう可能性があるため、注意が必要だ。
装着時は、普通に上から押し込めばカチャっという音で装着されるのが分かる。もし、モジュールがカチッとハマらない場合は無理矢理押し込まず、向きを並行にするなど位置を微調整しつつ、すっとハマる位置を探すのが賢明だろう。
本体やモジュールの端子部を見ると、本体側にはモジュールの左右中央が接する部分に6ピンの端子がそれぞれ用意されており、モジュール側には裏側中央の右、または左のどちらかに同じ6ピン端子が備えられている。この端子の位置関係などから、モジュールの上下の向きを正しく認識できるようになっているのが分かる。
AYASPACE 3のSmart Control設定では、ほかにもジャイロコントロールの制御やボタンのカスタムや振動機能の調整、さらには動作するCPUコア数の変更や、コアの種類を選択できる機能など、かなりきめ細やかなセッティングが行なえる。
モジュールの着脱をソフトウェア制御にしたメリットは何といっても、起動したままで交換が行なえる点だろう。複数のゲームを入れ替えて遊ぶ場合など、プレイするゲームごとにレイアウトを変えたいような人なら、その都度、PCの電源をオフにすることなく交換ができるのはかなり利便性が高いと言える。
一方で、ソフトウェア制御に任せたことによる弊害もある。AYASPACE 3起動時にコントローラ着脱部からガショショといった感じで小さなモーター駆動音が鳴ることだ。また、本体の電源がオフの状態では交換できないので、それを不便に感じる場面もある。ただ、このあたりは仕様を意識して使うようにすれば問題ないレベルの些細な点ではあるだろう。
各ボタンのクリック感、パッドの操作感はどれも良好だ。なお、A/B/X/Yボタンと6ボタンとでは、使用している内部の機構が異なるのか、ボタンのクリック感が多少違いが感じられた。
また、モジュール以外のコントローラ要素としては、天面部に備えるLB/RBボタン、LT/RTトリガー、その奥にある追加のLC/RCボタン、背面に備えるLC1/RC1ボタンが用意されている。背面にはLT/RTトリガーのロックスイッチもあり、これらを切り替えることで、LT/RTトリガーをボタンのように使うことも可能だ。
高パフォーマンスでゲームも快適動作
ここからはベンチマークでパフォーマンスをチェックしていきたい。比較対象としては、筆者手持ちの初代「ASUS ROG Ally」(2023年夏発売)、AYANEO 3のローエンドモデルにも採用されるRyzen 7 8840Uを搭載する「ZOTAC GAMING ZONE」(2024年冬発売)となる。
AYANEO 3は、TDP最大35W設定時と、TDP 15W設定時の2種類のデータを用意して比較した。ただし、バッテリ駆動時は強制的にTDPが最大30Wとなるため、この項目のみデータも30W時のものとなる。なお、AYANEO 3のVRAM設定はデフォルトで4GBとなっていたので、こちらは8GBに変更してベンチマークなどを実行している。
ベンチマークで使用したのは「PCMark 10」、「3DMark」、「Cinebench R23」、「ファイナルファンタジーXIV 黄金のレガシーベンチマーク」、「サイバーパンク2077」。加えてファイナルファンタジーXIV ベンチマークをループ実行させて、バッテリ駆動時間のチェックも行なった。なお、ファイナルファンタジーXIVとサイバーパンク2077のベンチマークについては、AYANEO 3とROG Allyの2製品のみの結果となる。
いずれのテストも傾向としては、TDP 35Wで駆動させたAYANEO 3が高スコアを叩き出し、次いでZOTAC GAMING ZONE、TDPを15Wに抑えたAYANEO 3とROG Allyが近いスコアで下位に並ぶといったかたちとなっており、最新CPUであるRyzen AI 9 HX 370の性能の高さが実感できる。
バッテリ駆動時間については、TDP 15W設定では2時間近く動作し続けており、かなり優秀な挙動を見せた。一方で上限となるTDP 30Wの状態では、さすがに1時間未満で使い切ってしまった。
ゲームの動作については、ファイナルファンタジーXIVベンチマークのスコアは最高品質で「普通」、ノートPCの標準品質で「やや快適」という結果となった。
サイバーパンク2077ベンチマークについては、プリセットの「低」、「ウルトラ」、「Steam Deck」、「レイトレーシング:低」、「レイトレーシング:オーバードライブ」の5種類の設定において、デフォルトではオフになっていた「Frame Generation」(フレーム生成)を有効にした状態に変更して測定してみたところ、レイトレーシングなしであれば画質設定を気にせずに遊べるパフォーマンスを発揮した。レイトレーシングを有効にしたい場合「レイトレレーシング:低」であればギリギリ遊べる範囲のフレームレートとなっていたので、フレームレートを多少犠牲にしてでもビジュアル重視で遊ぶならこちらの設定もいけそうだ。
いずれにせよFrame Generationの機能はフレームレートの向上に威力を発揮するので、設定が有効にできるタイトルでは積極的に使っていくことで、より快適にゲームが楽しめるだろう。
なお1点だけ、サイバーパンク2077ベンチマークや、バッテリ駆動時間の計測時に感じたことなのだが、TDP 30W/35W設定でゲームなどを長時間プレイしていると、環境によっては冷却が追いつかずオーバーヒート気味になる状態が確認できた。
筆者の作業部屋の温度は大体30℃前後とやや高温ではあったものの、ゲームによってはパフォーマンスが低下したり、電源が強制的に落ちるような動きが見られる場面もあった。再現性が低く、ほかの要因があるかもしれないので断言はできないが、夏場の屋外など、温度が高い環境ではTDPを下げてプレイする方がよさそうだ。
最高性能と最高の操作体験なので、他環境でも同じコントローラを使いたい!
以上、AYANEO 3の性能面やユニークなギミックMagic Moduleの機能について簡単にチェックしてみた。
市場に出回るゲームコントローラのレイアウトが多種多様ある中で、それになるべく多く対応するべくMagic Moduleのようなカスタマイズギミックを用意したAYANEOには改めて大いなる敬意を表したい。
一方で筆者が個人的にちょっとだけ気になってしまったのは、6ボタンモジュールの存在意義だ。この6ボタンを格闘ゲーム以外で使うならそこまで気にしなくてもいいのだが、もし格闘ゲームをプレイする想定で用意したのだとすると、ちょっとした疑問が1つ浮かんでしまったのだ。
一般的に格闘ゲームをガッツリ遊ぶプレーヤーの場合、各々が専用の外付けコントローラを使用することが多いため、もしAYANEO 3で格闘ゲームを遊ぶプレーヤーがいたとしても、この6ボタンモジュールを使うかというとやや疑問だ。もちろんカジュアルにAYANEO 3のコントローラで遊ぶプレーヤーもいると思うが、そういったプレーヤーは恐らく普通のボタンや十字キーのモジュールで遊ぶと思うのだ。
また、すべてのゲームプレイをAYANEO 3に依存するようなプレーヤーがいたとした場合、AYANEO 3を単独のコントローラとして利用できないという問題もある。ガチでゲームプレイする人たちは、本気でやる人ほど普段使っているコントローラの慣れも重要視する。そのため、別の環境でもAYANEO 3をコントローラとして使いたいはずだ。
そのため、ここまでこだわったのならもっと突き詰めてもらって、AYANEO 3をほかのPCなどに接続し、単体のコントローラとして動くような機能も用意しておいてほしかった。せっかく着脱して自由に交換ができるのなら、あえてゲームパッドやボタンなしの、横長のタブレットとして使える「何もない」モジュールがあっても面白かったかもしれない。
それ以外にも、W/A/S/Dなどキーボード操作で使うキーのみを搭載したモジュールなど、無限の可能性が感じられるギミックなので、今後のAYANEOシリーズなどで採用する際には、このあたりの機能やモジュールについても検討してほしいところだ。
些細なところを気にしてしまったが、端的に言えば、せっかく自分好みにカスタムしたコントローラをほかの環境でも自由に使いたい!というのが正直な感想だ。
ポータブルゲーミングPCとしてのAYANEO 3のトータルの完成度の高さは圧倒的だ。今のタイミングで持ち運んでガッツリ遊べるポータブルゲーミングPCを買いたいと考えている人なら真っ先に選択肢に入れるべき製品なのは間違いない。
🧠 編集部の感想:
AYANEO 3は性能面で圧倒的なスペックを誇るポータブルゲーミングPCで、特に「Magic Module」によるコントローラのカスタマイズ機能が斬新です。68,000円からの価格設定は少々高めですが、自由なコントローラデザインを楽しむユーザーには魅力的でしょう。今後のアップデートで、他のデバイスへの接続機能が追加されることを期待したいです。
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