2025年は「鉄拳」シリーズ30周年を迎える大きな節目である。そして昨年発売された最新作「鉄拳8」は、新たな戦いのステージとなる大型アップデートを4月1日に実施。DLCキャラクター「アンナ・ウィリアムズ」が参戦したほか、既存のキャラクターには新技の追加や技性能の調整、強さを競うランクマッチでは新たな段位の追加などが行なわれ、「鉄拳8」の2年目シーズンの火蓋が切られた。

 だが、現在本作ではある1つの異変が起きている。シーズン2がリリースされた4月1日以降、Steam版「鉄拳8」のカスタマーレビューに「おすすめしません」が急激に増加し、閲覧できる最近の評価は「圧倒的に不評」となった。4月1日から投稿されている評価の好評と不評の比率を1日ずつ調べてみたところ、不評は常に90%を上回っている。昨年のシーズン1時点では、好評が低い時ですら25%前後は存在していた本作が、10%の壁すら超えられないのだ。本来ならば新しい戦いを楽しみ、好評が大きく現われるべき時期であるはず。なのだが、圧倒的な不評の嵐。この異常事態は何故起こっているのか? 今回はその原因と思われる要素を紹介していきたいと思う。

急転直下としか言いようのないレビュー。2枚目の画像を見ればわかるが4月1日を機に好評と不評の比率が圧倒的に不評へ偏っている。たった数日でこの変化は明らかに異常である

原因2.ユーザーと開発の需要と供給に齟齬が生じている

 「鉄拳8」のコンセプトは「アグレッシブ」であるというのは公式サイトでも強く打ち出されている要素だ。これは「鉄拳7」において多発した守り重視の「鉄拳」が、豪快さを打ち出している「鉄拳」とは真逆のコンセプトで不評であったところを受けてのものだろう。

 そのため本作ではとにかく過激に殴り合うゲーム性となったのだが、「7」で相手の攻撃を回避してその隙をつくといった戦法を会得したプレイヤーからは前作で培った技術を活かせないという反発が多くあった。

 また、「鉄拳」をやり込んでいくと投げ技の使用頻度が減っていく。ガードを崩す手段である投げ技が上級プレイヤー相手には容易に回避でき、ガード崩しとして機能することはほぼないからだ。そのため、投げ技の強化も今作の課題となっており、シーズン2では次のような変更点が追加された。

 1つは、しゃがみ状態からの横移動の方向制限の撤廃である。「鉄拳」では、自キャラがしゃがみ状態の際、画面手前への横移動が不可能だった。

【「鉄拳7」ではしゃがみ状態から手前への横移動は最速で行なえない】

【「鉄拳8」シーズン2からしゃがみ状態から手前への横移動が可能に】

 だが、同様の検証を「鉄拳8」シーズン2で行なったところ、一八の攻撃をガードしたことで強制的にしゃがみ状態になった麗奈が素早く画面手前にも奥にも移動できていることがわかるだろうか? 「7」、「8」のどちらの動画でも1P・2P側どちらからでも手前への移動がどうなっているかを確認していただきたい。

 既存作では強制的にしゃがみ状態になると、横移動に制限がかかっていたのだ。つまり1P側ではしゃがみ状態のキャラクターは右側へ、2P側ならば左側への横移動が不可能だった。

 結果として、既存作では強制しゃがみ状態にさせて、相手に手前移動を制限させて、反対方向には判定の強い技を用いるなど、この仕様を前提とした駆け引きが存在していた。それを緩和することで初心者には優しく、システム的にも防御が強化されたのだ。ただし、これは言い換えると熟練プレイヤーからすれば今まで培ってきたテクニックをなかったことにされたということである。

 また、防御面の変更としては投げ抜けの仕様変更も挙げられる。これは投げ抜けを行なった際、投げを放った側は体力可能体力を「1」回復、逆に投げ抜けを行なった側は体力回復可能だがダメージを「5」受けるというものだった。これにより投げの価値自体は高まる予定だった。が、これがコミュニティー内で反発を招き、投げ抜けを行なった側が受けるダメージはこれまで通り0となる処置を取ることがシーズン2開始前である3月29日に発表された。

 そして、前述の強すぎる技にも関連することだが、開発は今回のバランス調整の目的に戦術のワンパターン化を避けることを挙げている。シーズン1では体力が残り少ない相手に強力な攻撃システムであるヒートダッシュを用いて強力な択一攻撃の駆け引きを迫るのが定石化しすぎているため、それ以外の戦い方ができるような調整を行なうという内容だった。しかし、その結果キャラクターが一定時間強化され、通常より強力な攻めが展開できる一時的なバフであるヒート状態より強力で常時使える超高性能な技がいくつも誕生している。

 これらのことより、開発の意図がユーザーには理解できない、というのが全体的な騒動の問題ではないだろうか? 「強すぎる技や投げ抜けの件に関してはリリースする前からわからなかったのか?」といった声があったり、投げ抜けの仕様をリリース前に変更したことは即断即決でよいという反応もあれば、朝令暮改を行なうのは開発としていかがなものか、という意見も見受けられた。どちらにせよ、開発側のコンセプトに一貫性がない、と受け取られていることは共通しているように思える。

 また、「鉄拳」は時折明らかにゲームバランスを崩す様な強力すぎる性能のキャラクターがリリースされることがある。恐らく有名なのは「鉄拳7」での「ストリートファイター」からのゲストキャラクター豪鬼や「餓狼伝説」からのゲスト参戦かつDLCキャラクターであるギース・ハワード。そしてEVO Japanにおける語り草にもなった圧倒的な性能を誇るDLCキャラクター、リロイ・スミスなどだろう。

夢の対決が多く行なわれた「鉄拳7」。2D格闘ゲームの元祖「ストリートファイター」や「餓狼伝説」、「ファイナルファンタジー」などジャンルやメーカーの枠組みを超えた戦いが楽しめた。また、原作を意識したシステムを所有していたり、原作の操作感を3D格闘ゲームに落とし込むというチャレンジ精神あふれる作品でもある

 しかし、これは「鉄拳7」のみの話ではなく、それ以前にも「鉄拳6」無印におけるボブ、「6」のアッパーバージョンである「鉄拳6 BLOODLINE REBELLION」(略称鉄拳6BR。家庭用「鉄拳6」はこの「鉄拳6BR」がベース)にて追加されたラース・アレクサンダーソンなども登場時から突出した性能を誇っていたキャラクターである。今回の騒動は30年もの伝統を誇る格闘ゲームとして、過去から何度も同じ轍を踏み続けているのはいかがなものか? という古参プレイヤーが抱えていた長年の不満が一度に噴出してしまったようにも思える。

 だが、今回の調整が1から10まで問題だらけであったか? と言われるとそんなことはない。例えばWP同時押しが求められる投げ抜けはパンチボタン2つの同時押しがシビアで、かなり抜けることが難しかった。シーズン2ではこのパンチボタン2つの同時押しを緩和し、入力ミスが減るようになった。他ではラウンド開始時の先行入力を取り入れることで、ラウンド開始時から横移動をして攻撃を回避するというような行動が行ないやすくなり、駆け引きを楽しめる施策や、ランクマッチでは猛者プレイヤーのサブキャラクターとのマッチングを頻発させる原因であった鉄拳力を基準としたランクマッチのマッチングを撤廃。「鉄拳」の華とも言える同段位での段位を賭けた戦いを行ないやすくなるように改善された。シーズン2の調整内容は決して非難されるアップデートのみではないのだが、賛と否のうち、「否」の占めるインパクトが賛に比べて些か大きすぎたように感じられる。

「鉄拳8」に求められていることは?

 筆者は大学時代経営に関する講義で教授からこの様な話を聞いたことがある。「企業は50年で一度死ぬ」という強烈な言葉だった。これは企業を創業し、企業を成長させたメンバーが50年も経てばその座を退くため、新しい体制へ変化することを指すものだった。これは格闘ゲームにも起こっている変化ではないだろうか? 例えば「ギルティギア」シリーズは「ストライブ」にてガトリングコンビネーションというルートを一気に見直したり、画面端の扱いを一気に変化させた。3D格闘ゲームで「鉄拳」の好敵手とも言える「バーチャファイター」も、最新作でのテーマに「革新」や「刷新」、「新機軸」などを意味する言葉であるイノベーションを掲げている。

 これらは1990年代~2000年初頭のゲームであり、およそ30年の節目で当たらな変化を加えている。ゲーム内容だけでなく、会社のゲーム作りの現場においても「一度死ぬ」が発生しようとしている時期ではないだろうか? つまりシリーズ作品を支え続けていたメンバーが次の世代へ継承させる時期へと来ているのだ。

 「鉄拳8」はつまり新しいスタッフへ技術の継承と、次の30年を戦うための準備をしている。その過程の中で起きている問題だと筆者は考えている。

 ただ、技術は継承させつつも、結果は残さなければならない。本作が本来どの様な楽しみをユーザーに提供しようとしているのか、その軸をしっかりと示さなければならないだろう。「鉄拳8」は筆者がプレイしている限りでは、他のゲームに比べて一方的な勝利と敗北が多く発生する。それをアグレッシブの魅力として打ち出すのか、それとも「7」のように守ることが肝要なゲームとして打ち出すのか、その「作品のコンセプト」をしっかりと表現すべきではないだろうか? そしてこの困難を打ち破ることができれば、次の30年を戦えるようになるのではないだろうか? それを納得させるだけのものがあれば、ユーザーはついてきてくれるだろう。ただ、前述のように同じ轍を踏むようなことはあってはいけない。

 一度落とした信頼を取り戻すというのは、0の状態から信用を得るよりも遥かに難しい。三島一家が繰り広げている闘争のように、どんな苦境に立たされても再起を誓い、立ちはだかるものは粉砕する。筆者には彼らのような不屈の闘志が開発陣には求められているような気がしてならない。

筆者の好きな「鉄拳」シリーズのOPである「鉄拳4」のOPシーン。「鉄拳2」で死亡したと思われていた三島一八がまさかの復活。再び父・三島平八への反撃を開始する。この倒されても必ず立ち上がり、やり返すの精神を「鉄拳」チームにも見せてもらいたい



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