「会社だけは残してくれ」妻の実家を継ぎ“工具界のアマゾン”へと成長させた元リクルート夫の劇的奮闘写真はイメージです　Photo:PIXTA

変化する時代についていけず、会社を畳む老舗企業も多い。その中で、廃業寸前の会社を立ち直らせたのはが山田岳人氏だ。彼の会社再建劇の一部をお届けしよう。本稿は、山野千枝著『劇的再建　「非合理」な決断が会社を救う』（新潮社）を一部抜粋・編集したものです。

「娘はやるから会社を継いでくれ」
妻の実家の会社を継いだ「ジャック」

　株式会社大都の山田岳人社長。大都は「ホームセンターの巨人カインズが教えを請う工具界のamazon」「創業80年のベンチャー企業」などとメディアから注目されている老舗企業です。

　創業は1937年。最初はメーカーから仕入れた工具を金物屋さんに卸していましたが、先代（2代目）の時にホームセンターに卸すようになって会社の規模が大きくなりました。そして3代目の山田社長は、工具卸業からインターネット通販を通じたホームセンター事業へと業態を転換。大都はいまや、国内最大級の300万アイテムを扱う事業者向け通販サイト「トラノテ」と一般消費者向けの通販サイト「DIY FACTORY」を運営する会社に生まれ変わりました。

「日本の暮らしを変えていく」をコンセプトに、工具の通販という領域を超えて、DIYマーケットや住宅・インテリア産業を中心に新しいサービスを次々に展開しています。社員は28名、売上は70億円超え（2023年12月期）。

　ちなみに、大都では、社員は入社したら自分にイングリッシュネームをつけます。山田社長は「ジャック」。ここからはそう記すことにします。

　新卒で入社したのは株式会社リクルート。上司にも同僚にも恵まれて、とにかく毎日が充実した、楽しい社会人生活だった。5年目に入り、学生時代から付き合っていた彼女にプロポーズ。正式な結婚の申し込みをするために実家を訪れた。

　彼女は、大都の先代社長の一人娘だった。ご両親に向かって結婚させてくださいと言ったら、こう言われた。

「娘はやるから会社を継いでくれ」

　彼女の実家の家業のことなどほとんど知らなかったが、どうせいつかは起業しようと思っていたこともあって、その場であっさり快諾。そのことを報告した上司からはものすごい勢いで反対されたが、それでも迷わなかった。1年後にはリクルートを辞めて大都に入社。28歳の時だった。

不渡を食らって紙切れになる約束手形
「なんのために商売をしているのか？」

　初日、スーツを着てアタッシュケースを持ち、張り切って出社したら、いきなり怒鳴られた。

「そんな恰好でどうするつもり？」

　言われてみれば、社員はみんな作業着姿だ。慌てて着替えたら、4トンのトラックの運転をまかされ、工具を配達するトラックを運転するのが最初の仕事となった。トラックに乗るのも初めてなら、マニュアル車の運転も初めて。途中でエンストして、横に座っていた先輩社員のおっちゃんに「情けないやっちゃな」とぼやかれる。そんな日々が続いた。