今から20年前、フジテレビが取材していた東京地裁前を歩く1組の親子。
都立の産院で赤ちゃんを取り違えられた結果、親子となった3人でした。
乳児取り違えの被害にあった母親（2005年）：
悔しい、悔しさ。取り違えられたっていうのがあるから悔しいのよね。
乳児取り違えの被害にあった父親（2005年）：
今でも息子は自分の息子だと信じてますから。
父親の隣に立つのが、産院で別の赤ちゃんと取り違えられた当人の江蔵智さん（当時46）。
江蔵智さん（2005年）：
（生みの親を）探すことに協力いただければ僕はそれでいいと思っています。
“生みの親を探す調査に協力してほしい”という東京都への訴えは、聞き入れられることのないまま20年の月日が流れました。
そして、2025年4月21日。
江蔵智さん：
今日の判決で僕が求めることを裁判所で認めていただいたことに感謝いたします。今日のこの結果を母に知らせても分からないだろうし…。
産院の取り違いに、その後の東京都の対応に翻弄され続けた江蔵さんの半生。
都への調査を命じる判決が出た後に単独取材に応じてくれた江蔵さんは、4月の誕生日で67歳になっていました。
江蔵さんは1958年、東京・墨田区で産声を上げました。
その施設とは東京都立の墨田産院ですが、今はもう存在しません。
江蔵智さん：
（Q.いつぐらいに閉院した？）昭和50年くらいだと思うんですけど、49年かな…。
墨田区の隣、台東区で育ったという江蔵さん。
母親が作る肉じゃがが大好物で、江蔵さんのあとに生まれた弟も含め家族で囲んだ夕食の時間が思い出と語ります。
江蔵智さん：
父は真面目な方だと思いますね。（Q.お母さんは？）勝ち気な方ですよね。
実の親子だと疑うことはなかった一方で…。
江蔵智さん：
周りからは（父と母の）どっちにも似てないねと。親戚から言われたことは何度かあります。
取り違えの疑いが浮上したのは、江蔵さんがすでに39歳の時。
体調不良の母を病院で診てもらったところ、親子の血液型の矛盾が明らかになったのです。
その後に行ったDNA検査で血縁関係がないことが判明。
江蔵さんは産院内で別の赤ちゃんと取り違えられていたと考えました。
江蔵智さん：
家族で話して、そういう結果になりましたね。病院の間違いしかないんじゃないかって。
江蔵さん親子は2004年、墨田産院を運営していた東京都を相手取り、損害賠償を求める訴えを起こしました。
江蔵智さん（2005年）：
（Q.本当の両親に会いたい？）はい。（育ての）母親の涙を見たときに、悲しい思い、つらい思いをさせたんだなって。
江蔵さんの育ての母（2005年）：
46年間分からなかったわけでしょ。余計悔しくて。
血縁関係がないことが判明しても気丈に接していたという育ての母親。
しかし江蔵さんと2人きりになった時に、おなかを痛めた実の子に会いたいと漏らすこともあったといいます。
この訴訟では、産院での取り違えを認定。
都に賠償を命じる判決が確定しました。
一方で、その後も生みの親の調査について、都の協力が得られることはありませんでした。
石原都知事（2006年当時）：
都が果たすべき責任があったら果たしますよ。しかし、それで取り戻せるものもないと思うし。取り違えられたAとBという方がいらして、BがAになっている場合、相手方の人生がかかってるわけですから、その判断っていうのは私だけじゃできませんね。
江蔵さんは独力で区役所の住民台帳などを調べましたが、有効な情報は得られず。
2021年に生みの親の調査を都に求める裁判を新たに起こしていました。
江蔵智さん：
なぜこんなに時間がたたなければいけないのか。その間、10年ほど前ですけど父が他界し、今、母は認知症を患っていまして、そういったことを自分自身で経験してみると、真実の両親とダブって（重なって）考えてしまって。
そんな中で、21日に東京地裁で出された、都に調査を命じる判決。
都側は「判決内容を踏まえて対応を検討する」とコメントしますが、江蔵さんは「一日も早く東京都には探していただきたいですよね。（Q.生みの親に会えたときに言いたいこと）それは会ってみないと何とも。目を見てお話しできれば、お話しして」と話しました。
67歳の江蔵さんの実の両親であれば、若くても80代後半。
残された時間は限られています。
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