アメリカではショート動画共有アプリのTikTokが子どもに及ぼす悪影響が危険視されており、規制が進められています。TikTokの開発元であるByteDanceでも、TikTokが子どもに及ぼす深刻な影響について調査が進められており、公開されている既存の社内報告書から、TikTokの持つ魔性の力を社会心理学者のジョナサン・ハイト氏がまとめています。
TikTok Is Harming Children at an Industrial Scale
https://www.afterbabel.com/p/industrial-scale-harm-tiktok
アメリカのコロンビア特別区と13の州が、TikTokが故意に中毒性のある製品を作成して子どもたちを「デジタル・ニコチン」に溺れさせたとして、同社を訴えています。
TikTokが「デジタル・ニコチン」に相当し10代の若者を食い物にしているとして複数の州が告訴 – GIGAZINE
この訴訟の関連資料として、TikTokの従業員や経営陣から直接得た証言がまとめられています。この証言から、「TikTokは自分たちが引き起こしている害悪を正しく認識している」とハイト氏は指摘しました。
TikTokの最も広く報告されている害悪のひとつは、「若者を何時間も引き込み離さない能力」です。TikTokのアルゴリズムはユーザーをスクロールさせ続けるための最高のものであると広く認識されています。
ピュー研究所が2024年に公開した報告書によると、アメリカの10代の若者(13~17歳)の33%がソーシャルメディアプラットフォームを「ほぼ常に」利用していると回答しており、16%は「TikTokだけを利用している」と回答しました。2023年にはアメリカの10代の若者(13~17歳)の数が約2180万人と推定されているため、約340万人のアメリカ人の10代の若者がほぼ常にTikTokを利用しているという計算になります。
アメリカの若者の半数が「ほぼ常にオンライン」であるという調査結果、若者はどんなSNSやプラットフォームを利用しているのか? – GIGAZINE
TikTokの幹部と従業員は若いアメリカ人をターゲットにしていることを認めており、「若い人たち、特にアメリカの10代の若者がアーリーアダプターになる方が良いです。なぜでしょう?彼らには時間がたくさんあるからです」「アメリカのティーンエイジャーは絶好のオーディエンスです。中国を見れば、ティーンエイジャー文化が存在しないことがわかります。ティーンエイジャーは学校でテスト勉強にとても忙しく、ソーシャルメディアアプリで遊ぶ時間も余裕もありません」と語っています。
また、同社の幹部はTikTokが何百万人ものアメリカの子どもや若者の精神衛生に悪影響を及ぼしていることを認識しており、「製品自体に強迫的な使用が組み込まれています」「子どもたちがTikTokを見るのは、アルゴリズムが本当に優れているからです」「しかし、それが他の機会にどんな影響を与えるか、私たちは認識する必要があると思います」とも語りました。
2021年にTikTokが社内で実施したプレゼンテーションでは、「TikTokはスマートフォンを所有する17歳未満のアメリカ人ユーザー2970万人の間で飽和状態に達しています。これは、TikTokが若いユーザーをさらに獲得することはできないものの、競合プラットフォームからユーザーを引き離すことで、ユーザーひとりひとりの時間をより有効に活用できることを意味しています」と語られています。
2019年にTikTokが年齢別の使用状況をまとめた内部文書では、「予想通り、ほとんどのエンゲージメント指標において、ユーザーが若いほどパフォーマンスは向上しています」と記されています。TikTokに影響を与える問題を調査するTikTok社内グループのTikTankは、「TikTokは社会的報酬という形での強化に特に敏感で、効果的な自己制御能力がほとんどない若いユーザーに特に人気があります」と指摘しています。
さらに、TikTokの社内ガイドでは、アプリのプッシュ通知について「適切なコンテンツを適切なタイミングで提供することで、ユーザーを活性化し、エンゲージメントさせることで、アプリの起動回数を増やし、滞在時間を長くすることが目標です」と説明しています。実際、TikTokはさまざまなプッシュ通知を活用しており、例えばTikTokの「Interest Push」は、「ユーザーを活性化させ、アプリへの再訪を促すこと」を目的としたものです。
他にも、TikTokは社内でTikTok LIVEが未成年者にとって「残酷な」リスク(仮想アイテムへの依存や衝動買いを助長し、経済的損害につながり、未成年者を発達上のリスクにさらす)をもたらすことを認めています。それにもかかわらず、ユーザーがアプリに費やす時間と資金を増やすために、操作的な機能を使い続けています。
TikTokの驚異的な広告成功は、ユーザーが「他のプラットフォームと比べてTikTokに完全に没頭し、没入感を持っている」という事実に起因します。TikTokは「継続的なエンゲージメントサイクルを生み出すアルゴリズムと短めの動画フォーマット」が、TikTokを「情報密度のリーディングプラットフォーム」たらしめていると表現しました。
さらに、TikTokは自社の成功を「ユーザーの主体性を制限する強力なパーソナライゼーションと自動化」「無限スクロール、自動再生、継続的な通知」「スロットマシン効果」といった「操作的とみなされる可能性のある多数の機能」を含む「多くの強制的な設計戦術を活用した製品体験」に大きく起因しているとも記しています。
この他、ある内部報告書では、ソーシャルメディアが青少年に与える影響に関する学術文献を調査した結果、「TikTokはオンライン上の危害や強迫的な使用による悪影響を受けやすいとみられる若年層のユーザーに特に人気がある」ことも指摘されています。
TikTokユーザーへのインタビューに基づく内部報告書では、TikTokの過剰利用がユーザーの「ネガティブな感情」を引き起こし、「義務や生産性を妨げ」「睡眠不足、締め切りの遅延、学業成績の低下、遅刻など」を含む「生活への悪影響」につながることも判明しました。報告書には、「多くの参加者が、TikTokの使用が睡眠を妨げ、翌日の生産性とパフォーマンスを制限したと述べた」とも記されており、 「すべての参加者がTikTokでの時間管理は他のソーシャルメディアプラットフォームと比較して特に難しいと述べた」と報告しています。
TikTokのアレクサンドラ・エヴァンス氏は、幹部になる前に作成した報告書の中で、「説得的なデザイン戦略は、社交的で人気者になりたいという人間の自然な欲求を悪用し、社交的で人気者になれないことへの恐怖を利用して、オンライン利用を延長させます。若者にとって、アイデンティティは絶え間ない注意、キュレーション、そして刷新を必要とします。重要な発達段階において、仲間集団に受け入れられることは非常に重要な要素です」と、TikTokが若者に及ぼす悪影響について報告しました。
他にも、TikTokのデジタルウェルビーイングに関する調査報告書の中には、「狭い美の規範を永続させる効果を提供することは、私たちのコミュニティのウェルビーイングに悪影響を及ぼす可能性があります」と記されています。
TikTankでも「強迫的な使用は、分析力、記憶形成、文脈的思考力、会話の深み、共感力の低下、不安の増加など、精神衛生上の多くの悪影響と相関関係にあります」「強迫的な使用は、十分な睡眠、仕事や学校の責任、愛する人とのつながりといった、重要な個人的責任の妨げにもなります」と記されました。
TikTokのある従業員は、「自殺について言及する動画がたくさんあります」と報告しており、「誰も傷つけずに自殺できるとしたら、自殺しますか?」と問いかけるような動画も多数存在すると指摘しています。
TikTokは徹底したコンテンツ審査プロセスを持っていますが、モデレーションや削除されていない違反コンテンツの割合を示す「漏洩率」を公表していません。TikTokは社内でモデレーションプロセスから漏洩するコンテンツの種類別の割合を把握しており、その中には「小児性愛の正常化」コンテンツが35.71%、「未成年者への性的勧誘」コンテンツが33.33%、「未成年者への身体的虐待」コンテンツが39.13%、「未成年者をプラットフォーム外へ誘導する」コンテンツが30.36%、「未成年者への性的暴行の賛美」コンテンツが50%、「未成年者へのフェティシズム」コンテンツが100%含まれていることも明らかになっています。
TikTok LIVEにおける性的搾取と違法行為が「物議を醸している」こと、そしてTikTokの収益化スキームがこれをより悪化させていることを、TikTok自身も認めています。TikTokは「性的に示唆的なライブコンテンツが増加している」ことを認めていますが、TikTokは消費者にこれらの危険性について警告することを拒否しています。それどころか、TikTokは「ギフトやサブスクリプションといった収益化手段をより有効に活用して収益を得る」ことを計画しています。
多くのティーンエイジャーがTikTokの有害性を実感し、その中毒性や悪影響について不満を訴えているのに、なぜTikTokをやめられないのでしょうか。ハイト氏がニューヨーク大学のTikTokヘビーユーザーに対して同様の質問をしたところ、たいていの場合は「やめようとしたけどやめられない」「やめたらみんなが何を言っているかわからなくなるからやめられない」という回答が返ってきたそうです。
つまり、TikTokは行動中毒性と社会的中毒性の両方を持っているとハイト氏は指摘しています。Z世代のポエマーであるコリ・ジェームズ氏は、ソーシャルメディアについて「毒だとわかっていても、結局飲んでしまう」と語っています。
シカゴ大学の経済学者であるレオナルド・ブルシュテイン氏が主導した最新の研究では、1000人以上の大学生を募集し、「InstagramまたはTikTokのアカウントを4週間使用しないという契約を結ぶにはいくら支払う必要がありますか?」と質問しました。この質問に対して、学生は平均7100円(TikTokが平均8400円、Instagramが平均6700円)の支払いを求めています。次に、学生たちに「他のほとんどの人がTikTokやInstagramの利用をやめた場合、これらを使用しないという契約を結ぶのにどれだけの金銭が必要ですか?」と質問しました。この質問に対する回答は「0円」です。
さらに、ハイト氏はブルシュテイン氏の調査結果を検証し、発展させるために1006人のZ世代(18~27歳)の若者を対象に全国規模の調査を実施しました。この調査ではさまざまなプラットフォームや製品について、「発明されなければよかったのにと思うか」を尋ねています。調査では、NetflixやYouTubeに対して「発明されなければよかったのに」と思う人は比較的少なかった(20%未満)ことが明らかになっています。なお、「発明されなければよかったのに」と若者が特に思っているプラットフォームがInstagram(34%)、Facebook(37%)、Snapchat(43%)、TikTok(47%)、X/Twitter(50%)です。
100%安全な消費者向け製品は存在しません。毎年、1人か2人の子どもが突発的な事故で亡くなっていたとしても、その製品が完全になくなることはありません。しかし、TikTokの有害性は突発的な事故に限ったものではなく、13歳未満の子どもたちを含む多くの若者にとって、TikTokを通常通り使用するだけで生じる一般的な影響です。TikTokはアメリカ国内および世界中で何百万人もの子どもたちに危害を与えています。これは産業規模の害であるため、「TikTokはアメリカの子どもが利用できなくなるべきです」とハイト氏は記しました。
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