月曜日, 5月 19, 2025
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SLEEP TOKEN: 現代の闇を反映する神スリープと下僕ヴェッセルの”有害な”関係夏目進平

🧠 概要:

概要

SLEEP TOKENは、神秘的な覆面バンドであり、現代の恋愛関係や有害なダイナミクスをテーマにした音楽を制作しています。音楽はプログレッシブ・メタルやポップ、R&Bを融合させ、多様なスタイルで知られています。彼らの曲は「スリープ」という古代の神への奉納であり、リーダーのヴェッセルはその神秘的な存在の下で音楽を創作しています。

要約(箇条書き)

  • バンドの起源: SLEEP TOKENは2016/17年に登場、プログレッシブ・メタルとポップ/R&Bを融合。
  • 神秘性: メンバーは匿名で、インタビューはほとんど行わない。ファンは彼らの詩やビジュアルに隠された意味を探求している。
  • 音楽のテーマ: スリープという神への奉納を主題とした楽曲は、夢と現実の関係や有毒な人間関係を表現している。
  • ファン文化: Discordコミュニティが形成され、ファン同士が情報や解釈を共有し、親密さを感じる場となっている。
  • SNSの影響: 音楽がTikTokなどのプラットフォームで拡散し、新規ファンを獲得。
  • 音楽スタイル: ヘヴィ・ミュージックからポップな要素まで広範囲にわたり、ジャンルを融合させる。
  • 心理的な側面: 有害な関係のテーマが多くの共感を呼び起こし、現代社会の影響を反映している。
  • 新作アルバム: "Even in Arcadia"がリリースされ、物語とビジュアルアイデンティティが引き続き重要視されている。
  • 心理の象徴: 有害な関係を描写することで、現代のトラウマ・ボンドに関する文化的な話題とリンクしている。

このように、SLEEP TOKENは独自の音楽スタイルとテーマを持ちながら、聴衆との深いつながりを構築しています。


時折、ヘヴィ・ミュージックの世界では突如として大化けするバンドがいますが、覆面で覆われた謎のバンド SLEEP TOKEN の短期間での大化けぶりはこれまでに記憶がないほどの “バイラル” です。しかし、なぜこれほどまでに皆が彼らのことを話題にしているのでしょうか?

青天の霹靂のように称される SLEEP TOKEN ですが、実は彼らの成功は何年もかけて作られたもの。2016/17年にプログレッシブ・メタル/Djent とポップやR&Bといった多様な影響を融合させたモダン・メタルで初めて登場し、”Fields Of Elation” や “Nazareth” は耳の早いリスナーたちの注目を集め始めます。しかし、このユニークで謎に満ちた集団が本当に軌道に乗り始めたのは、バンドがデビュー・フル・アルバムからの新曲を垂れ流し始めた2019年になってからでした。


SLEEP TOKEN を “ミステリー・バンド” “エニグマティック” と呼ぶのは、彼らに関する情報があまり出回っていないから。メンバーは儀式的な仮面をつけ、服装も隠しているため、その素性は明らかにされてはいません。加えてメディア向けのインタビューもほとんど行いません。わかっているのは、バンドのリーダーがヴェッセルという名前で活動していることと、これまで “Sundowning”(2019), “This Place Will Become Your Tomb”(2021)”Take Me Back to Eden” (2023) という3枚のフルアルバムがあること。

「SLEEP TOKEN の背後にある真のアイデンティティは重要ではなく、究極的には無関係だ」とリーダーのヴェッセルが語るように、バンドの残りのメンバーは、ドラマーII、ベーシストIII、ギタリストIVという記号でしか知られていません。

SLEEP TOKEN が作る楽曲は、古代の神スリープへの捧げものであり、スリープは夢の中でヴェッセルの前に現れ、彼の全面的な献身と引き換えに真の栄光を約束したといいます。その昔、スリープは古代文明に素晴らしい夢を与えたり、悪夢で呪ったりしていたのです。錬金術のシンボル、オカルト言語、北欧やヒンドゥー教のシンボル、そして彼らのロゴは、世界最古のルーン文字であるエルダー・フザークを参照しているとファンの間で信じられています。極端な言い方をすれば、まるで彼らのすべては古代の遺跡のように研究が進められているのです。

SLEEP TOKEN のアイデンティティ、その神秘性と、複数の異なるスタイルの音楽を融合させた非効率性と異常性の両方を利用したことは、成功の助けとなりました。なぜなら、そうして複数の市場からの注目を集めることは、新人バンドにとって名声を得るための最も手っ取り早い方法のひとつであり、匿名性はファンによる “詮索” というアミューズメントを生み出します。


デジタル時代には匿名性の美しさがあります。私たちの多くは、知り合いが1~4つの SNS で常につながっていて、恐ろしいほどの勢いで切り替えながら憧れのセレブリティや、架空のヒーローについてあらゆることを学びます。私たちは、消費するために情報をノンストップで消費し、自分の行動を疑うことはありません。


SLEEP TOKEN の信奉者たちは、その手がかりを探し求めています。コヴェントリー在住のファン、クリスが立ち上げた Discord サーバーで、彼らはバンドの歌詞、アートワーク、MV、グッズを丹念に調べ、ダ・ヴィンチ・コードのメタル版といった風態で隠れた意味を読み解こうと試みているのです。


「ウェブサイトで ヴェッセルのインタビューを読んで、もっと知りたくなったんだ。Reddit でバンドのコミュニティがないか見てみたんだけど、当時はなかったから作ることにしたんだよ」


現在、そのメンバーは900人を超え、バンドが残した暗号を読み解くことに必死です。Tシャツのデザインに描かれた数字列が、鯨の死骸が海底に落ち、生態系全体の栄養源となる “鯨落ち” の座標であることを発見しました。


「バンドが提示する隠されたアイデンティティと世界観が好きだ。音楽だけでなく、全体的な体験ができるんだ」

アルバム “This Place Will Become Your Tomb” は、腐敗した鯨とそれを餌とする動物たちのヘヴィなイメージを象徴としています。死の中の生、つまり Vessel が頻繁にリリックで取り上げるトピックと永遠の繰り返しを表現しています。
Discord は、バンドがその芸術を通して何を探求しているのか、あるいはしていないのか、魅力的な洞察を与え続けています。


「何事も永遠には続かない。それまで我々は崇拝するのだ」とクリスは淡々と語ります。

神話に関する議論とは別に、Discord は人々を結びつける社交クラブにもなっています。「Discordのコミュニティは素晴らしい」と、ニューヨーク在住のファン、BluKittie ことヴェロニカは言います。


「世界中にファンがいて、バンドに対する同じ愛と情熱を分かち合っている。私たちはいつもお互いに助け合っているの。昨年、私の父が亡くなったんだけど、その辛い時にコミュニティのメンバーが助けてくれたし、今でもそうよ。そこで仲間に出会えたことが、とにかく幸せなの」


つまり、SLEEP TOKEN は、その秘密主義にもかかわらず、というよりも秘密主義であるがゆえに、急速にカルト的なセンセーションを巻き起こしつつあるのです。伝説の中心はヴェッセルですが、SLEEP TOKEN は常に自分たちを “集団” と表現し、経験豊富なミュージシャンたちの共同作業を示唆し、全員が芸術に貢献していることを語っています。


SLEEP TOKEN のケースでは、SNS上の反応の大きさも手伝って、新曲は TikTok で爆発的にヒットし(TikTokは彼らが前作をリリースしたときよりも巨大なプラットフォームとなっている)、バンドが SNS で常にトレンドとなることで、見ず知らずの人たちがその騒ぎを目にしてファンとなる雪だるま式の効果もありました。

インターネットと様々なソーシャルメディアの力によって、無名のバンドが一夜にして一般大衆に浸透する時代になったことは間違いないでしょう。SLEEP TOKEN を新しいバンドだと思い込んでいるメディアもあるかもしれません。しかし重要なのは、多くのバンドやミュージシャンがそうであるように、この新たな成功は何年もかけて作られたものなのです。結局、時代がどう変わろうと、バンドをどのように発見するかはあまり重要ではないのかもしれませんね。昔からのファンであろうと、SLEEP TOKEN の活動を初めて知った人であろうと、バンドが成功を収めることは常にクールであり、新しくてユニークな体験とサウンドを提供するバンドであれば、なおさら嬉しいことですから。

では、SLEEP TOKEN について、人々は何をもって特別だと言っているのでしょうか?ヘヴィー、ソフト、メロディック、アトモスフェリック、エクスペリメンタルなど、様々なスタイルの曲を巧みに作り上げる彼らの能力に興味を持った人が多いようです。複数のジャンルや従来とは異なるやり方を取り入れることを恐れない。まさにモダン・メタルの雛形だと言えます。加えて、彼らの苦悶するほど生々しい感情と、もはや根源であるメタルをも道具の一つとして扱う音楽への大胆なマルチジャンル・アプローチ、そして匿名性によって芸術を作り手のアイデンティティや意図から根本的に切り離そうとすることで、彼らはこう問いかけているのです。”アートは個人の解釈にすべてを委ねるほうがいいのではないか?” もっといえば、推し推されという有害な関係をファンと構築したくないからこそ、彼らは一方通行なのかもしれませんね。

「SLEEP TOKEN は2020年代のメタルのあり方を体現している」と、ブラック・メタルの伝説 EMPEROR の共同創設者であり、このバンドと同じレーベルに所属しているアヴァンギャルドなメタル・アーティストのパイオニアである Ihsahnは語ります。ます。「初めて聴いたときから、完全に興味をそそられたんだ。モダン・メタルの要素と非常にダークなムードを混ぜ合わせながら、非常にクリアでモダンなR&Bスタイルのプロダクション・バリューもあるんだからね」

SLEEP TOKEN は決してメタル界初の匿名集団、マスク・ド・メタルではありませんが、彼らのシンボルをあしらったマスク、ダークなボディ・ペイント、北欧のルーン文字からヒンドゥー教のシンボルまでを使用したアートワークは、メタル・ファンやミュージシャン仲間の好奇心を十二分に刺激しています。

「ブラック・メタルと似ていて、マスクと謎めいた雰囲気が全体を引き締めているんだ」と Ihsahn は説明します。「そうしたシアトリカル、演劇的な要素がなければ、EMPEROR は今のような大きな存在にはならなかっただろうからね。そうやって、芸術とアーティストの間に明確な距離と空間が生まれる。デヴィッド・ボウイのインタビューを見ても、我々は彼を知っているようにはまったく感じられない。彼の作るアートはただ提供されるものであり、我々はそれを理解しようとするだけでよかったのだよ」


謎解きといえば、SLEEP TOKEN が次にどのような方向に進むのか、誰も知らないし、教えてくれようともしない。しかし、それはこのバンドが常にそうであったように、リリースのたび、ファンはその謎を解く楽しみを持つことができるのです。


「2ndアルバムを聴いたとき、彼らがどこへ行こうとしているのか全くわからなかったから、私の中では発展の種がたくさん生まれたんだ」 と Ihsahn は目を細めます。「今はより成熟し、明らかに彼らが目指しているものがある、でもそれが何であるかは言えないんだ……」

ライブでサポートを務めた AA Williams も SLEEP TOKEN に心酔する一人です。SLEEP TOKEN と同様、彼女の音楽はオルタナティブ、ポップ、ソウル、メタルと多岐に渡りますが、メタル世界にも受け入れられています。


「私たちはとてもうまく調和していると思うわ。ポップな音楽とヘヴィな音楽の両方を、どちらかに偏ることなく追求できるアーティストを見るのは素晴らしいこと。ライブでは、そのダイナミクスに命が吹き込まれ、観客はまるで教会に行っているような気分になる」


SLEEP TOKEN の正体を明かそうとした人はいるのでしょうか?


「彼らのプライバシーを侵害しないように、また、アートを特定の方法で表現するという選択を尊重するようにしたいもの。もし、誰ですか?と聞かれたら、ロバート・デ・ニーロと答えよう」
Redditでは、このバンドの登場を GHOST に例えている人もいます。


「SLEEP TOKEN は新世代の GHOST のようなものだと思う。GHOST が過ぎ去った世代のメタル・スタイルと今の世代のポップセンスを融合させたように、SLEEP TOKEN は今日のメタル・サウンド(主にメタルコアやDjent)と近年流行しているポップ・サウンドを見事に融合させたんだ。そして、それがとてもクールなんだよ。だって、机の上ではうまくいかないはずなのに、実際にはうまくいくんだもの」

事実、”The Love You Want” や “Alkaline” に封じられた EDM とシンフォニック・メタルコアの婚姻は10代のTikTokユーザーにとってたまらない取り合わせでしょう。 ポップなフックを持つヘヴィ・ミュージックは確かに新しいものではありませんが、SLEEP TOKEN は誰よりも大きな力でジャンルの境界を溶かしています。そして、ヒップホップからプログ・メタルまであらゆるものを取り入れ、すぐに愛されるシングルをサプライズ的に散りばめながら、最も予想外の場所に力を見出す反抗的なメタルの旗をかざしているのです。

「私のお気に入りの90年代のアルバムは、FAILURE の “Fantastic Planet” だ。 壊滅的なまでに荒涼としていて、私たちの最も深い部分にまで響いてくるような作品なんだよ」

ヴェッセルのこの選択には深く頷かざるを得ません。なぜなら、彼らもあのスペース・グランジと讃えられた FAILURE 同様に、暗く重くスペーシーな雰囲気の中にハッとするようなキャッチーさを湛えているから。そして、彼らのジャンルを壊し、捻じ曲げ、コラージュする習慣は、次の曲が前の曲とまったく違うサウンドになることを意味します。 きらめくようなラジオ・ポップが、その後に続く燃えるようなオルタナティブ・メタルと同じアルバムに収録されるなんて、ほとんど信じられません。 そしてまた、彼らの曲は最初から最後まで、サウンドが完全に変容していきます。どんなにソフトな楽曲でも、最後のコーラスでギターが炸裂し、巨大な盛り上がりを見せることが少なくありません。


Redditの別のユーザーは、”The Summoning” に “衝撃を受けた” と述べ、このリスニング体験を”クソ超越的な経験” と驚きをあらわにします。また、ヴェッセルが少し変わったボーカルアプローチをとっていることを指摘し、彼のスクリームを賞賛する人も多いようです。


「コーラスのバックで鳴っているあのうっすらとしたビープ音は、私を必要以上に幸せにしてくれる」と、別のファンはRedditで “Chokehold” について言及しています。

「このバンドの、純粋なヘヴィ・ミュージックも好きだけど、ダークでポップな “ベイビー・ミュージック” を作ったときに本当に輝きを増すんだ」


SLEEP TOKEN を “Worship” “崇拝” するファンにとって、ライブはまさに “Ritual” “儀式” だと言えます。静まり返る会場で、バンドの神秘性の裏にあるメッセージや隠された意味、どんなサインでもいいから受け取りたいと、全員の目が仮面とマントをまとったシンガーに注がれます。ヴェッセルは言葉というゴスペルの代わりに感謝の印に両手を合わせ、何も語らないことで全てを語ろうとし、皆の心を揺さぶります。
かつて ヴェッセル は自分たちの音楽はすべて “スリープ” 、つまり何世紀も前にルーツを持つ眠りについた謎の神への奉仕であると語っています。


「我々がどうやってここに来たかは、我々が誰であるかということと同じくらい無関係だ。重要なのは音楽とメッセージだ。我々はスリープに仕え、彼のメッセージを映し出すためにここにいる。バンドの未来?何もない。永遠に続くものはない」

しかしバンドは終わることなく、今回もまた、SLEEP TOKEN から私たちにありがたきお布施がもたらされました。”Even in Arcadia”。もちろん、この新世界の緑豊かな庭園への道は、イースター・エッグ、隠喩、伝承といった謎多き石畳で舗装されています。謎なくして SLEEP TOKEN のストーリーは始まらないのですから。

まず、”アルカディア” について紐解きましょう。ビジュアル的にも、SLEEP TOKEN は私たちを大理石の建物、緑豊かな下草、ピンクの花が咲き乱れる異世界に連れていってくれます。この場所こそが明らかにアルカディアであり、おそらくそれ自体が伝承の一側面なのでしょう。ギリシャ神話によれば、アルカディアとは遠く離れた至福の牧歌的な領域を指し、2023年の “Take Me Back To Eden” でヴェッセルが切望していたエデンの新たなバージョンの可能性があるはずです。あるいは、SLEEP TOKEN が到達した成功の高みを体現しているようにも思えますが、フロントマンがこの場所にたどり着いたとしても、彼の混乱は終わったわけではなく、変容しているのです。

アルバムからの新曲が登場する前に、SLEEP TOKEN は “見よ、これが分断だ” と宣言しました。その分断とは、ワード・スクランブル (単語をシャッフルしたパズルゲーム) を解いたファンを2つの派閥、ハウス・ヴェリディアンとフェザード・ホストに振り分けることでした。ベッセルは、”Look To Windward” の中で、”私は羽によって生き、剣によって死ぬ” とこの2つのの部族を名指ししていて、神スリープから離脱した後に直面する分かれ道を表しているようです。一方は生存と恵みを、もう一方は暴力、危険、毒性を表しているのかもしれません。

“Even In Arcadia” は SLEEP TOKEN の3部作以外では初のアルバムです。トリロジーではヴェッセルと、彼が忠実な下僕として仕える神スリープの間の波乱に満ちた歪な関係、権力闘争を探求しました。”Take Me Back To Eden” の結末でヴェッセルは、自分自身を解き放ったように見えました。しかし、彼がスリープに語りかけるのと同じ言葉を想起させる曲もいくつかあるようで、特に “Dangerous” では、スリープが彼を訪ねてくる時のことを指して “君は僕に寝言 (Sleep) を言わせた/まるで僕の夢を征服するかのように” と歌っています。一方 “Gethsemane” では、ヴェッセルとスリープの間の感情的な絆がほころび、彼がしばしば直面する感情の墜落にも読めるでしょう。スリープが復活し、ヴェッセルを再び二人の有害な絆に誘惑しようとしているのでしょうか?もしくは過去を振り返りながら癒そうとしているのでしょうか?結局は同じ道を繰り返しているのでしょうか?

SLEEP TOKEN の曲はすべて、特定のテーマでリンクされた独自のビジュアル・アイデンティティを持っています。2019年のデビュー作 “Sundowning” の各曲は錬金術の紋章によって象徴されていました。2021年の “This Place Will Become Your Tomb” では、海の生き物。”Take Me Back To Eden” はアバターでした。”Even In Arcadia” も同じ。それぞれのシングルのアートワークは、異なる種類の花で飾られた盾の上の武器からなる異なる紋章を特徴としていて、ハウス・ヴェリディアンとフェザー・ホストはそれぞれの紋章を手に入れました。武器や花の意味をよく見てみると、それぞれの曲のテーマが見えてくるかもしれませんね。”Emergence” の紋章の薔薇は、”私はあなたが再び手放した薔薇です” というセリフを連想させますし、”Look To Windward” の紋章の百合の花は、再生のアイデアを暗示しているのかもしれません。

また、ピアノも間違いなく SLEEP TOKEN の音楽の心臓部です。アルバムの発表に先立ち、彼らはそれを尊重し、ファンがより深いレベルでピアノに触れられるような方法を作りました。数ヶ月前、ファンは謎めいた楽譜を入手することができました。その楽譜は、発表されるアルバムと明らかに関係があって、タイトル曲と一致することが判明したのです。一聴しただけでも部分的に聞き覚えがあったかもしれませんね。

今回、いくつかの楽曲は、構築された物語から完全に逸脱して、個人的なテーマを扱っているように見えます。 “Caramel” と “Damocles” は壁を破るような曲であり、仮面の男の個性に最も近づいた曲かもしれません。前者では、ヴェッセルは熱狂的なファンに自分の正体を探られ、境界線を越えられることへの不満(そしてそれが自分を恩知らずな人間にしているのではないかという心配)を吐露し、後者では、SLEEP TOKEN のゴールドラッシュ、人気がやがて尽きることへの不安を告白しています。こうしたより個人的な瞬間は、まだ伝承と結びついているのでしょうか?結局のところ、ヴェッセルはスリープに献身を誓えば究極の栄光を約束されたはずであり、それでも芸術へと身を投じた彼は自分を取り戻そうとしているのかもしれません。

SLEEP TOKEN は、歴史的に錬金術や古代のアルファベット(彼らのロゴは古代のルーン文字を参照している)、さらには何世紀も前の魔術に関する書物の要素を取り入れた、深い言及を行うバンドです。”Even In Arcadia” でもそれは続いています。”Look To Windward” はT.S.エリオットの詩 “荒地” の一節を引用し、アルバム・タイトルやダモクレスの剣の神話という形でギリシャ神話を暗示しつつ、聖書にも言及しています。”Gethsemane” はその象徴で、キリストの受難のエピソードを引用して、イエスが十字架にかけられる少し前に深い苦悩の中で神に祈りを捧げた “園の苦悶” と、ヴェッセルが今いる領域でのの苦しみを並行して描いている可能性が高いといえます。

SLEEP TOKEN が参照するのは文学だけでなく、自らの音楽にも関係し、歌詞を以前のアルバムの他のセリフに結びつけるやり方はよく知られています。”Even In Arcadia” でもそれは同じ。例えば、 “Emergence” の “私はあなたが再び手放したバラ” というセリフは、”Aqua Regia” の “バラを捨て、剣を取る” を呼び起こすかもしれません。一方、”Damocles” の “海に落ちるような感じ” という水のイメージは、”This Place Will Become Your Tomb” の物語に織り込まれた感情的な苦悩を再び呼び起こします。

SLEEP TOKEN はここしばらくの間、”The Teeth Of God(神の歯)” について言及してきました。これは昨年の全米ツアー名であり、その数ヵ月後に発表したグラフィック・ノベルのタイトルでもあります。そして、アルバムを締めくくる “Infinite Baths” では、このフレーズが再び登場します。”神の歯、人の血/私は私であることを貫く” というフレーズは、”Take Me Back to Eden” 時代のマーチャンダイズに印刷されていた、ファンには “狩猟の詩” として知られる詩、”私は境界線。 私は神の歯である” を思い起こさせます。これはこれからも繰り返し出てくるモチーフなのでしょうか?それは、神スリープのみが知っています…。

ヴェッセルとスリープの関係は特に相互的なものではありません。スリープが手に入れ、ヴェッセルは手に入れられないままであるという感覚があるようにも思えます。だからこそ、ヴェッセルははスリープに何かを返してほしい、自分を知ってほしい、もっと近づいてほしいとかつては懇願し、今は叶わぬ恋愛のように少し距離を置こうともがいているようにも感じられます。しかし、スリープは決してヴェッセルを手放しはしません。結局、いつもヴェッセルが至福と感じるのも束の間、スリープとの関係は再び枯れて、ヴェッセルは寂しく孤独に取り残されていくのですから。

つまり、SLEEP TOKEN の物語は神話的ですが、ある意味人間的でもあります。誰でも、ヴェッセルとスリープの関係の少なくとも一面を経験したことがあるでしょう。例えば、DVが酷いのに離れられない。例えば、お金を貢がされるのに離れられない。恋愛だけではなく、社会という枠組みの中で立場を利用されて無駄に囚われる、時間や尊厳を奪われる…そう、”有害な人” から距離を置くことは実は簡単ではありません。もしかしたら、執拗で酔わせるような欲望を抱かせたり、嘘で心を惑わせたり、暴力や暴言で支配したり。これは心理学で加害者との感情的なつながりとして知られるトラウマ・ボンドにほぼ類似しています。ここ数年、有毒な人間関係が文化的な話題の中心になっていることを考えると、SLEEP TOKEN の歌詞の内容やその存在自体が、彼らがこれほどまでに人気を高めた理由の、ひとつの側面なのかもしれません。そして、”推し” などという気味の悪い仮面の言葉ですべてが許されるこの歪な現代社会において、私たちは誰もが “有害な人” になり得るし、”有害な人” の下僕にもなり得るのです。

参考文献:



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