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概要
RAKSULは、印刷・広告・物流といった伝統産業に対し、インターネットとソフトウェアを活用して業界を効率化するプラットフォーム型企業です。単なる製品・サービスの提供ではなく、事業者と顧客を結ぶ新しい仕組みを設計し、マーケティングにおいても効率化や自動化の導線を重視しています。このアプローチにより、特定分野の課題解決の象徴的なブランドを築き、社会全体の非効率や問題を改善することを目指しています。
要約の箇条書き
- RAKSULは印刷・広告・物流の伝統産業をデジタル化する企業。
- 主なミッションは「事業者と顧客を結ぶ新しい仕組み」を提供すること。
- マーケティング戦略は業務の自動化・効率化に焦点を当て、ブランド価値を高めている。
- 特定の領域での課題解決を目指し、カテゴリ支配型ブランディングを展開。
- 業界アナログ事業者をテクノロジーでつなぎ、需給のミスマッチを解消することに注力。
- RAKSULのビジョンは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」という理念に基づく。
- 2009年に創業し、印刷業界の非効率性に注目してビジネスを開始。
- RAKSULはパートナー企業との連携が必須だが、業界慣習などの壁に直面。
- BtoB市場の購買習慣に対する障害の克服が重要な課題。
- ブランドの横展開や「仕組みを商品化する」難しさも課題として存在。
RAKSUL(ラクスル)は、印刷・広告・物流といった“デジタル化が遅れがちだった伝統産業”に、インターネットとソフトウェアを持ち込むことで、業界構造そのものを効率化することをミッションに掲げる企業です。
その核心には「印刷物を安く・早く届ける」ことではなく、「事業者と顧客を結ぶ新しい仕組み=プラットフォームを提供する」という思想があります。
マーケティングにおいても、RAKSULは単に広告を打つのではなく、“顧客自身が業務を自動化・効率化できる導線”を設計し、それ自体がブランド価値となるよう構築してきました。
「印刷ならラクスル」「物流ならハコベル」「テレビCMならノバセル」といった具合に、特定領域の“課題解決の代名詞”になることを狙ったカテゴリ支配型ブランディングを展開。
その結果、スタートアップ・中小企業を中心に、高い認知と信頼を築くことに成功しています。
また、業界に点在するアナログ事業者(印刷会社・運送会社・放送局など)をテクノロジーでつなぎ、「需給のミスマッチをなくす」という社会インフラ的な視点を持ったマーケティング思想は、DXが進まない分野への応用としても大きな注目を集めています。
RAKSULのマーケティング戦略は、「商品を売る」のではなく「業界構造を変える選択肢を提示する」――そんな思想に基づいた現代的かつ実装力の高いプラットフォーム型戦略の代表例と言えるでしょう。
RAKSULとは?
RAKSULの事業内容
RAKSUL株式会社は、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」という理念のもと、伝統産業にテクノロジーを掛け合わせたプラットフォーム事業を展開するスタートアップ企業です。
主力の印刷ECサービス「ラクスル」では、全国の印刷会社の空き稼働をネットワーク化し、ユーザーが印刷物を手軽に安価で発注できる仕組みを提供。また、物流領域では「ハコベル」、テレビCM領域では「ノバセル」といったブランドを展開し、産業構造全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を牽引しています。
特徴的なのは、自社でモノを作ったり配送したりするのではなく、業界の“余剰リソース”をテクノロジーで再配分するという発想で、効率化と経済的価値創出を同時に実現している点です。
RAKSULが掲げるビジョン
RAKSULのビジョンは、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる(Better Systems, Better World)」という極めてシンプルかつ強力な言葉に集約されています。
これは、顧客や自社の利益にとどまらず、社会全体の非効率や機会損失を“仕組み”で改善し、構造ごとアップデートすることを目指す姿勢を表しています。
印刷業界の遊休設備、物流業界の空車時間、広告業界の非対称な情報…。RAKSULはこうした“目に見えにくい構造的ムダ”を見える化し、最適化するプラットフォームを次々と構築。
個別企業の業績向上だけでなく、業界全体の競争力や持続可能性までを視野に入れており、まさに「社会課題を事業として解くブランド戦略」の体現者といえます。
RAKSULの歴史
RAKSULは、2009年に松本恭攝氏によって創業されました。創業のきっかけは、印刷業界の非効率性と過剰設備に着目したこと。
当時の印刷業界では、大手企業が寡占状態を築く一方で、地域の印刷会社の稼働率は低迷していました。松本氏はここにビジネスチャンスを見出し、“印刷会社の空き時間を集約し、ネット注文で埋める”という発想で「ラクスル」をスタートさせました。
2013年には物流プラットフォーム「ハコベル」、2019年には広告運用支援事業「ノバセル」を開始し、印刷にとどまらない「仕組みの再構築」へと事業を拡大。
2018年には東証マザーズ(現グロース市場)へ上場し、その後もBtoB向けSaaS・広告テックの領域を強化。現在では“テクノロジーで産業構造を変える企業”としての認知を確立しています。
RAKSULが直面した課題
RAKSULは「仕組みを変えることで、業界を変える」というユニークなアプローチで成長を遂げてきましたが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。
とくに、BtoB市場特有の認知獲得の難しさ、業界慣習との摩擦、ブランドの横展開における課題など、成長企業ならではの壁に直面してきました。
ここでは、RAKSULが成長過程で乗り越えてきた4つの主要課題について分析します。
1. 「伝統産業の構造改革」に対する抵抗感とパートナー開拓の難しさ
RAKSULのビジネスは、既存の印刷会社・運送会社・広告代理店などと提携し、彼らのリソースを最適化するという構造に成り立っています。
しかし、こうした伝統的産業では、IT企業による介入に対して「価格破壊」「中抜き」「文化の破壊」といった強い拒否感が存在するケースも少なくありません。
RAKSULは提携先企業を“外注業者”として扱うのではなく、“ビジネスパートナー”としての関係を築くことを理念として掲げていましたが、
現場レベルでは「新しい仕組みを受け入れることによる業務変化」「受注単価の変動」「工程の可視化への心理的抵抗」など、提携拡大の障壁は根深く、拡大スピードに制限がかかる場面が多々ありました。
2. 顧客側の「BtoB購買習慣」へのハードル
RAKSULのサービスは、Web上での簡単なUI/UX設計が魅力ですが、印刷や物流、テレビCMといった領域は、電話・FAX・営業担当による関係構築が前提の“慣習型購買”が依然として主流でした。
そのため、特に地方の中小企業などでは「オンラインで簡単に注文できる」ことそのものが、むしろ不安材料として捉えられるケースもありました。
さらに、BtoBにおける購買は、稟議・承認・見積取得などが必要となるケースが多く、スムーズな導入までに時間を要するビジネス構造があります。
RAKSULはこの“業界特有の購買プロセス”を深く理解し、標準価格や納期保証などの安心材料を提示する必要がありましたが、導入初期にはCVR(コンバージョン率)向上に苦戦しました。
3. ブランドのスケーラビリティと“横展開”の難しさ
RAKSULは印刷領域で高いブランド認知を築きましたが、「ハコベル(物流)」や「ノバセル(広告)」といった新事業ブランドでは、RAKSULの名を知っていても、事業内容を理解されないギャップが問題となりました。
たとえば、「ラクスル=チラシ印刷の会社」と認識しているユーザーに対し、「テレビCMを最適化します」と訴求しても、ブランドの結びつきが弱く、信頼形成の再スタートが必要となるのです。
このような「母体ブランドの強みが、新事業に波及しない」問題は、横展開を図るプラットフォーマー全体が抱える共通課題です。
また、サービスごとにUIやブランドトーンが異なることで、RAKSUL全体としての統一イメージが構築しにくいという問題も併発していました。
4. “仕組みを売る”マーケティングの言語化と可視化の難しさ
RAKSULが提供しているのは、「チラシ」「配送車」「テレビ枠」といったモノそのものではなく、「余剰リソースを最適化する仕組み」です。
しかし、この“仕組み自体が商品である”という構造は、顧客にとって直感的に理解しにくく、説明に時間と教育が必要です。
たとえば、「なぜRAKSULの印刷が安いのか?」「なぜ配送が翌日できるのか?」「なぜテレビCMが費用対効果を見える化できるのか?」といった問いに、仕組みで答えなければならない。
これを単なる価格訴求にせず、“仕組みの価値そのもの”をマーケティングでどう伝えるかが、創業からの大きな課題でした。
特にサービスローンチ直後は、「新しいことをしているけど、何をやっているのか分かりにくい」という印象を持たれる傾向が強く、ブランドの早期定着に時間を要したのです。
RAKSULの挑戦は、単に業界に新しい技術を持ち込むだけでなく、「構造を変えるというコンセプトを、どう伝え、浸透させるか」という、深いマーケティング課題を内包していました。パートナー企業の開拓、BtoB特有の意思決定構造、ブランドの横展開、そして“仕組みを商品化する”という概念設計。これらにどう対処し、どのようにブランド価値を育ててきたのか。
次章では、その解決策とマーケティング的打ち手を5つの観点で掘り下げていきます。
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