Seagate Technologyは、COMPUTEX TAIPEI 2025に出展して同社の最新技術などを展示している。その中で、インターフェイスとしてNVMeを採用したHDDのデモを行なった。
PCIeの物理層の上で、ストレージ向けのプロトコルとして定義されているNVMeは、これまでNANDフラッシュベースのSSDに利用されてきたが、今後はHDDにも採用される見通しだ。
SSDとHDDを棲み分けてきた時代の終わりの始まり
今回Seagateは、NVMeに対応したHDDを試作し、それを同社ブースでPoC(Proof of Concept、そのコンセプトが実現可能であることを証明する試作)を公開した。
これまでのHDDは、SATAやSASなど、従来のインターフェイスが利用されてきた。PCユーザーにとって馴染みが深いのはSATAで、現在でもデスクトップPC用のマザーボードなどにはSATA端子が用意されており、HDDが接続できるようになっている。
それに対してSSDは、登場当初はSATA接続のSSDも存在していたが、今はPCIeが接続するのが主流だ。物理的にはPCIeだが、その上でのデータのやりとりをするためのプロトコルはSSD用に策定されたNVMeになっている。
Seagate Technology カスタマーサクセス部門責任者 コリン・プレジー氏によれば、「既に我々のHDDコントローラにPCIeをネイティブ統合した」と述べ、HDDの基板に搭載されているHDD自体の制御と外部との通信を行なうコントローラに、PCIe/NVMeのネイティブ統合を実現したという。
PCIeのコントローラは、それなりにトランジスタなどを消費するので、コストアップの要因となる。それを覚悟の上でそうしたことを搭載したことは、同社がHDDにおけるPCIe/NVMeのサポートを真剣に検討していることの表れだ。
プレジー氏によれば、今回同社が試作したNVMe対応HDDには、SASとNVMeの2種類のコネクタが搭載されており、移行期にあたってどちらも選べるような設計になっているという。
NVMe対応HDDは、別に同社のプロプライエタリな規格ではなく、NVMeで規格化されているものを採用している。NVMeは当初はSSD専用の規格として作られたが、後にHDDのディスクをスピンアップ(休止しているディスクに、回転の開始を指示すること)命令などが追加されており、既に規格としては出来上がっているという。今回Seagateはその規格に基づいてこのNVMe対応のHDDを試作した。
HDDがNVMeになるメリットは、SDDとHDDの共通化
NVMeに対応したHDDのメリットに関してプレジー氏は「性能面でのメリットはほぼない、最新のSASで十分な性能を発揮できているし、それがNVMeになったからといって大きく改善するというものではない。しかし、SSDと共通化できるというのがメリットであり、それがNVMe HDDのメリットだと考えている」と述べ、性能面よりも、SSDと共通のインターフェイスを利用できるようになることがメリットだと説明した。
たとえば、ソフトウェア面での互換性のメリットは小さくない。PCでも、SATAにはSATAのドライバが、NVMeにはNVMeのドライバが必要で、両者の間に互換性がない。同じことは、データセンターでも起こっており、SSDの場合にはNVMeでアクセスできるのに、HDDの場合はSASやSATAのドライバ、あるいはソフトウェア側のサポートが必要になる。
しかし、SSDとの共通のNVMeが利用できれば、NVMeの手順を利用して、HDDにもSSDにもアクセスできるので、それらを分けてソフトウェア側でサポートする必要がなくなり、よりシンプルな設計にすることができる。
COMPUTEXでデモしたシステムでは、2つのシステムの間を高速なEthernetで接続し、その上をNVMe-oF(NVMe over Fabric)と呼ばれる手法で、異なる物理層(この場合はPCIeとイーサネット)の上をNVMeのプロトコルを流すことで、少ないオーバーヘッドで異なるストレージに効率よくアクセスできる様子がデモされた。
また、今後システム側(具体的にはサーバーCPU用のチップセット)でSATA/SASのコントローラが減らされていくことが予想されている。PCでIDEからSATAへの移行が発生したときも、段階的にSATAポートが増やされ、IDEは減らされて最後はなくなっていった。今後それと同じようなことが発生する可能性があり、そうしたことを想定してもNVMeに対応したHDDは大きな意味があると考えられる。
こうしたインターフェイスの移行というのは、1年や2年で急速に進んでいくものではない。場合によっては5~10年単位で進んでいくものだと考えられる。PC向けのチップセットでも今後段階的にSATAが減らされていく可能性はあり、そうしたことを見すえるとPCユーザーにとってもNVMe対応HDDは要注目だと言える。
🧠 編集部の感想:
Seagateが展示したNVMe対応HDDは、ストレージ技術の新たな転換点を示しています。これまでのHDDとSSDの境界が曖昧になり、統一されたインターフェイスが実現することで、ソフトウェア面での利便性が向上するのは嬉しい進展です。今後のデータセンターやPC市場での広がりが期待されます。
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