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概要
JR東海は、東海道新幹線を中心に広範なビジネスを展開する企業であり、ブランド価値を再定義し、「移動時間の価値化」に成功したマーケティング戦略を運用しています。従来の「移動=時間の浪費」という考え方から、「移動=価値ある経験の時間」としての新たな視点を提供することで、顧客の感情や体験に重きを置いたブランディングを推進しています。
要約
- 企業概要: JR東海は、東海道新幹線を主軸に様々な事業を展開。新幹線は日本経済の重要な輸送手段。
- ブランド戦略の転換: 移動を「無機質な時間の浪費」から「価値ある経験の時間」と再定義。
- キャンペーン例: 「会いにいこう。」や「そうだ 京都、行こう。」など、移動体験を情緒的に意味づけ。
- ビジネス利用者向けの改善: 「EX予約」や「スマートEX」でUXを向上し、時間を最大限活用できる空間を提供。
- 顧客の態度変容: 「早いから乗る」から「この移動で変われるから乗る」という意識のシフトを促進。
- 直面する課題: 移動体験の情緒価値の欠如や、従来のサービスの飽和、LCCとの競争が増している。
- 移動の意味の再定義: 利用者の動機を機能的なメリットから情緒的な価値へと転換する必要性が高まっている。
- ストーリーブランディング: 感情の旅として移動を設計し、新たなマーケティング戦略を形成。
このように、JR東海は顧客の移動体験をより豊かなものにするため、情緒的な価値の提供に注力しています。
JR東海は、東京〜新大阪間を結ぶ東海道新幹線の運営を主軸に、鉄道インフラ、駅ビル、不動産、ホテル、商業施設など幅広い事業を展開する巨大企業です。
その中核にある東海道新幹線は、単なる“移動手段”ではなく、「社会の時間軸を再設計する存在」として、ブランド価値の再定義に成功しています。
マーケティング戦略の大きな転換点となったのが、「移動=無機質な時間の浪費」という概念を、「移動=価値ある経験の時間」として描き直した点です。
たとえば「会いにいこう。」や「そうだ 京都、行こう。」といったキャンペーンは、乗車体験そのものを情緒的に意味づけ、旅をストーリー化するブランディングの代表例です。
ここでは、単に距離や時間の短縮ではなく、“心の距離が縮まる”体験として移動の価値を構築し、人の行動動機そのものに影響を与えました。
また、東海道新幹線のビジネス利用者に対しては、「EX予約」や「スマートEX」などのテクノロジーを用いたUX改善と、「時間を最大活用できる空間」としての設計を並行して進めています。
つまり、JR東海は「早いから乗る」ではなく、「この移動で、自分が変われるから乗る」という態度変容を誘発し、移動を“感情の変化”や“生産性向上”と結びつける新たなブランド価値の確立に成功しているのです。
JR東海とは?
JR東海の事業内容
JR東海(東海旅客鉄道株式会社)は、東海道新幹線を中心とした鉄道運行を主軸に、不動産開発、商業施設運営、ホテル、旅行サービス、駅構内店舗などを展開する、日本を代表する交通・インフラ企業です。
特に東京〜新大阪を約2時間30分で結ぶ東海道新幹線は、ビジネス・観光を問わず年間数億人を輸送する、日本経済の大動脈ともいえる存在です。
また、名古屋・品川間を結ぶリニア中央新幹線の開発も進めており、未来の高速交通網の整備にも注力。鉄道事業の範囲を超えて、都市開発やライフスタイル提案にまで事業領域を拡大し、「人の移動と時間の質を設計する企業」としての地位を確立しています。
JR東海が掲げるビジョン
JR東海の企業理念は、「安全と安定輸送の確保を最優先に、豊かな社会づくりに貢献する」ことです。
鉄道という公共インフラの信頼性を軸としながら、単なる移動の提供者ではなく、「時間と距離の価値をデザインする存在」として人々の生活に寄与することをビジョンに掲げています。
具体的には、快適な移動空間の創出、駅空間の活用、沿線地域の魅力発信、次世代交通インフラの開発などを通じて、移動が生み出す社会的・経済的価値を最大化しようとしています。
また、リニア中央新幹線を通じて、日本の地理的・時間的構造を根本から変える構想も進行中。これは、「移動が都市を変え、経済圏を再編する」未来を体現するプロジェクトであり、JR東海の挑戦の象徴でもあります。
JR東海の歴史
JR東海は、1987年に国鉄の分割民営化により設立された6つの旅客鉄道会社の一つとして誕生しました。
その前身である国鉄時代の「東海道本線」は、日本の高度経済成長を支えた交通インフラの中心であり、1964年に開業した世界初の高速鉄道「東海道新幹線」は、同社の最重要資産となっています。
民営化後は、東京〜名古屋〜大阪を結ぶ“国土軸”を武器に、収益性の高い経営構造を構築。鉄道業界では稀に見る自立した黒字経営を維持し続けています。
2000年代以降は、エクスプレス予約などのIT化推進、駅構内商業施設「JRセントラルタワーズ」などの都市開発、リニア中央新幹線の着工などを通じ、インフラ事業者から“移動価値の提供企業”へと進化を遂げています。
JR東海が直面した課題
JR東海は、東海道新幹線という世界に誇る高速交通インフラを有し、日本経済の根幹を支える存在です。
しかし、時代の変化とともに、「移動=時間短縮」だけでは顧客の満足や差別化が難しくなった現実に直面してきました。
スマートフォンの普及による情報環境の変化、LCC(格安航空)の台頭、新幹線のサービス飽和、そして社会全体の価値観の変化――。
これらの外部要因は、「早く、便利に移動できる」こと自体が、かつてほど大きな感動を生まなくなったという問題を浮き彫りにしました。
その中でJR東海は、「移動の意味をどう再定義するか」「顧客にどんな価値を感じてもらうか」というマーケティング的命題に本格的に取り組む必要が出てきたのです。
1. 新幹線ブランドの成熟による“感動の希薄化”
東海道新幹線は、日本の高速鉄道の象徴として50年以上にわたり進化を続けてきました。安全性、正確性、快適性、そしてスピードにおいて世界最高水準を誇り、多くの利用者にとっては「なくてはならない存在」です。
しかし、日常化・定番化が進んだ結果、「乗ること自体が感動だった時代」は過ぎ去り、“あって当たり前”“使えて当然”のプロダクトへと認識が変化してきました。
特に若年層にとっては、新幹線=「便利な乗り物」という機能的理解にとどまりやすく、「体験としての感動」や「ブランドへの愛着」が形成されにくい構造となっていたのです。
これは、移動体験における情緒価値の欠如とも言え、マーケティング視点から見れば“商品は優れているのにブランド体験が薄い”という状態に等しい課題でした。
2. LCC・他交通手段との競争激化
2000年代以降、日本国内でもLCC(格安航空会社)の本格参入が始まり、東京〜関西、東京〜名古屋といった路線でも価格競争が激化しました。
一方、新幹線は安全性や快適性、利便性で優位性があるものの、価格だけで比較されると航空機より高く見られるケースも多く、“時間の価値”をどれだけ明確に伝えられるかが、選ばれるか否かの分水嶺となってきました。
加えて、夜行バスやシェアライド、リモートワークの普及により、「そもそも移動しない選択肢」まで登場。
この変化は、JR東海にとって“競合の種類が増えた”というだけでなく、「移動自体の必要性が問われる時代」への突入を意味していました。
こうした背景から、「価格や速さだけでは選ばれない」ことが明らかとなり、“移動の意義をどう訴求するか”という新たなマーケティング課題が浮上したのです。
3. 東海道新幹線の路線上限による成長鈍化
JR東海の最大の収益源は東海道新幹線であり、事業の中核を担うこのインフラには物理的な限界があります。東京〜新大阪間という距離はすでに最短化されており、これ以上の高速化や新規路線展開は現実的には困難です。
つまり、「スピード」や「運行本数」といった従来の価値軸では、これ以上の差別化や市場拡大は困難という壁に突き当たっていたのです。
また、利用者数もある程度飽和状態にあり、これまでのように“物理的な成長”だけで企業価値を高めていくことには限界があると認識されていました。
このような状況下で重要になるのが、「既存ユーザー1人あたりのLTV(生涯価値)」の向上です。
すなわち、「乗って終わり」の体験を、「何度でも乗りたくなる体験」へと変えるためのブランディングとマーケティングが不可欠になっていたのです。
4. 「移動=義務」のイメージからの脱却
新幹線の利用目的は、通勤や出張といった“業務上の移動”が多くを占めています。
そのため、多くのユーザーにとっては「時間短縮」「定時運行」「車内での仕事」など、機能的なメリットが主な利用動機となりやすい構造がありました。
しかしこれでは、「乗って楽しい」「また利用したい」という情緒的なリピート動機が育ちにくく、ブランドへの感情的結びつきが生まれにくいというマーケティング上の欠点につながっていたのです。
特に観光需要の掘り起こしにおいては、“単に現地へ早く行ける”だけでは不十分であり、「移動する時間そのものが楽しい」「旅の一部として意味がある」というポジティブな価値を提供しなければ、リピーターや指名利用にはつながりにくい。
そのため、JR東海にとっては、“業務移動の手段”から“豊かな移動体験の提供者”へと意識を転換することが、次なるブランド戦略の鍵となっていました。
JR東海が直面した最大の課題は、物理的な完成度の高さがブランド体験の豊かさにつながっていなかった点です。
どれだけ速く、正確で、安全であっても、それが当たり前になれば、「感動」も「指名買い」も起こらない。
こうした“機能の先にある情緒的価値”をどう作るかが、同社の次なる挑戦の核心でした。
また、移動そのものの意義が社会的に揺らぐ中で、「この移動には意味がある」と感じさせるストーリーの設計と体験価値の再構築が求められていたのです。
次なる成長は、線路ではなく、“心の中に築く信頼のレール”によって拓かれる――それが、JR東海のマーケティング転換の出発点でした。
JR東海はどうやって課題を乗り越えた?
JR東海は、ハードとしての完成度を極めた新幹線サービスにおいて、“情緒的な価値”と“記憶に残る体験”をどう設計するかという新たなマーケティング課題に向き合いました。
その解決には、単に広告を打つだけでなく、「乗ることの意味」を再定義し、移動を“感情の旅”に変えるブランド設計が必要でした。
以下では、同社が行ってきた5つの代表的なマーケティング的アプローチを紹介します。
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