
Mega Crit Gamesが生み出した『Slay the Spire』はデッキ構築ローグライトに金字塔を打ち立て、インディー・大手問わず多くのクリエイターに影響を与えました。
『Balatro』『Inscryption』『Vault of the Void』『Monster Train』『クロノアーク』など、すでに遊び尽くせないほどの傑作が並んでいる超豊作のジャンルですが、ここに新星が降り立とうとしています。
その名も『StarVaders』。インベーダーたちの侵略から地球を守るというオーソドックスなフレーバーながら、グリッドベースの移動システムや、コストの管理、多少の無理が効くデザインなど、あらゆる要素が綺麗に嚙み合い、何度も何度も遊び直したくなるような作品に仕上がっていました。
では、要素をひとつずつ見ていきましょう。
※レビューにあたり、Pengonautsよりキーを提供いただきました。

大量の敵をたった3(+1)枚で捌け! ジャンルの旨味が詰まった戦闘システム
本作いわゆるデッキ構築ローグライトです。毎ターンデッキから何枚かのカードを引き、マナ(本作ではコスト)やりくりしながらカードを使い、敵を全滅させます。同ジャンルの作品を一度でも遊んだ人なら「ああ、いつものアレね」とすぐに入っていけるでしょう。

本作ならではの要素はいくつかありますが、まずはグリッドベースのフィールドで戦うという点が挙げられます。エイリアンの侵略から地球を守るというフレーバーであり、プレイヤーは画面上部から一歩ずつ近寄ってくるエイリアンたちを銃器で撃ち倒していくことになります。
その様子はさながら往年の名作『スペースインベーダー』。そう、本作はデッキ構築ローグライトと『スペースインベーダー』の40年以上の時を超えた邂逅なのです!

……と、筆者の妄言はさておき、詳しく説明しましょう。まずカードは「アタック」「タクティック」「ムーブ」の3種類に大別されており、攻撃も補助も移動もすべてたった3コストのうちに行わなければなりません。初期デッキでは端から端まで移動するのも難しいでしょう。
それなのに敵はターン経過とともにウヨウヨと現れ、まるで間に合う気がしません。1ターンすら無駄にすることはできず、プレイ中はハラハラしっぱなしです(コストの上限を上げる方法もゼロではありませんが、同ジャンルの他作品に比べるとかなり少なく、難しいように感じました)。

もちろん、並みいる敵を順番に倒していくだけでは到底間に合わないので、敵を動かして同士討ちさせたり、ボムの爆風に巻き込んだり、画面外に押し込んだりして計画的にやっつける必要があります。このあたりはミニマルなターン制ストラテジーの傑作『Into the Breach』を思い起こさせます。
ただシビアなだけではなく(最初のガンナーというロボットを使用するうえでは)コストを使い切っても、オーバーヒートを起こして一度だけカードを無理矢理使用できるので、割と無理が効くデザインになっているのもポイントです。

また、意外とゲームオーバー条件もゆるく、画面下部の自陣に敵が入り込んできた1ターン後に「ドゥーム」というものを生成し、それが5つ溜まると敗北であり、敵の攻撃を受けてもデッキにお邪魔カードが増えるだけなので、そう簡単には終わらないルールになっています。
この仕組みによって、最大HPを増やしたり、蘇生アイテムを積んだりして一回のランをなるべく引き延ばすことが得策であるという勝ちパターンを排除し、ゲーム全体のサイクルをぎゅっと縮めてくれています。

さらにゲームを面白くしている要素が「コンボ」の仕組みで、1ターンのあいだに敵を倒せば倒すほど、戦闘終了後にもらえるコインの量が増えていきます。なので、多少のドゥームを受けてもいいからコンボを繋げるか、それとも安全にターンを終わらせるか……といった選択が常に発生します。
「クロノトークン」というものを支払えばターンのやり直しも可能です(何ならこのやり直しの回数すら気に留めておきたくなります)。

もちろん、この手のジャンルにあるあるのエゲつないシナジーを見つける喜びもありますし、ドゥームに侵されながらギリギリでラスボスを倒す楽しみもあります。
初期に解放されているガンナーのデッキの時点で、ROXY、NOEL、ZEKEの三人が遊ぶことができ、それぞれに特徴があります。特にZEKEは「オーバーヒート後にカードを分解して再利用する」というピーキーかつユニークな性能をしていました。
ちなみに、シビアなローグライトはちょっとしんどいという人向けにアシストモードも付いているので、誰でも安心して遊ぶことができます。

全体的に上手くまとまっている印象で、非常に優等生なローグライト作品ですが、そのなかでも筆者が特に気に入ったのは、テンポの良さです。
敵がバトルを長引かせたり、千日手のような状態を作ってきたりせず、どのバトルも「こちらが敵を殲滅するか、敵がこちらに侵入してくるか」というルールが守られています。
倒されるとドゥームを撒き散らすタイプの敵も出てきますが、会いたくないほど鬱陶しいものは少ないので、正々堂々フェアに戦い続けることができるのが素晴らしいと感じました。
なかなか見えてこないストーリーパートや、シンプルなアートスタイル……いくつかの気になる点
とはいえ、いくつか気になる点も存在します。
本作は各ランのラスボスを倒すことで、謎の巨人が現れてストーリーを語ってくれるのですが、その内容は断片的で、3キャラクターをクリアした時点ではそこまで見えてくるものはありませんでした。全貌が明らかになってから読み返したら気づきがあるかもしれませんが、ランの長さや難しさからして、前の内容をずっと覚えていることは難しく、この語り方はゲームループとは相性が悪いように感じられました。

また、このジャンルでは始祖である『Slay the Spire』がそうであるがゆえにあまり目立ちませんが、アートに関しては必要十分な出来といった感じで、愛着を覚えることはありませんでした。せっかくキャラクター性能やシステムがユニークなので、同じくらいデザインも尖っていてくれたら、と思ったのが正直なところです。BGMやSEについても、ゲームプレイの邪魔はしませんが、脳に刻まれるような快感は沸きません。
そして、ローカライズについても、文章を読む分には十分な品質なのですが、フォントサイズがバラバラなのが若干気になってしまいました。とはいえ、プレイに支障をきたすほどではないでしょう。

といった具合で、問題点も多少はありますが、デッキ構築ローグライトに必要な要素と『スペースインベーダー』的なシューティング体験、グリッドベースの位置管理など、新鮮さとレトロさが混在した作りは唯一無二であり、バランスの面においてもギリギリ勝てるかどうかの調整がなされていて、何時間もやり続けてしまう魔力を秘めていました。
群雄割拠のデッキ構築ローグライト界に遅れてやってきた鬼才『StarVaders』。ジャンルファンでも「これは一味違うな」と感心できること間違いなしなので、ぜひとも手に取ってみてください。

Game*Spark レビュー 『StarVaders』 PC(Steam) 2025年5月1日
遅れてやってきたデッキ構築ローグライトの良作
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GOOD
- 限られたコストやカードを運用するシビアなバランス
- 毎ターン考える余地のある戦闘システム
BAD
- ぶつ切りなストーリーテリング
- 没個性的なグラフィック
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