サムスンの開発/製造拠点「クミ工場」

 Androidスマートフォンでさまざまなラインアップの製品を開発しているサムスン電子。IDCが発表した2024年第3四半期のグローバルのスマートフォン市場の出荷台数調査では、シェア1位がサムスン電子となっているなど、世界で存在感を示している。

 今回は、韓国国内にあるスマートフォン製造工場と開発拠点である亀尾(クミ、Gumi)工場を訪問。スケールメリットを活かした製造工程や、さまざまな機能が開発されている様子を見てきた。

 なお、本稿の写真は、すべて「Galaxy S25 Ultra」を使って撮影した。

広大な敷地にさまざまな製造、研究拠点を持つ

クミ工場内の「Samsung Smart City」

 筆者が訪れたのは、クミ工場内の開発拠点「Samsung Smart City」。同社最初の携帯電話「SH-100」が生産された工場で、現在は同工場を含む世界8つの拠点でスマートフォンが生産されている。

 クミ工場では、全体の年間生産量の14%にあたる9億台が生産されているほか、工場で量産するための製造技術を開発している。

省力化を推進

 たとえば、新製品が開発される際に、それを効率よく量産できるのかどうか? という点や、生産に際し、より省力化・省人化できるよう、技術革新に向けた研究開発が進められている。海外工場の管理支援も行っており、同社のスマートフォン製造における中枢的な役割を担う。

 ところで、工場でのデバイス製造はどのような光景を思い浮かべるだろうか。ベルトコンベアーの上を製造中のデバイスが流れ、時には機械が、そして人が部品などを組み立てていき、最終的に製品ができると想像している人が多いだろう。筆者もその一人だったが、訪れてみると工程のほとんどで人の姿はなく、機械・ロボットが担っていた。

 機密情報が多いとのことで、工場内の撮影は叶わなかったが、工場内に人はまばらである一方、多くの機材が設置されており、通路には運搬ロボットが行き交う。

 工場担当者に聞くと、製造工程は8つのブロックに分けられており、手作業でしかできない工程と自動化できる工程をブロックで分け、自動化を推進しているとのこと。今回訪れた6~8つ目のブロックでは、わずか4人の作業者だけで組み立て作業をこなしていた。

ロボが運搬→機械が組み立て

 6つ目のブロックでは、まずほかの工場で製造された部品などが運搬ロボットで運ばれてくる。ロボットが持ってきた箱(通函)は、ロボットにより定位置にセットされ、そこから機械や多関節ロボットが1つずつ取り出して、ライン上に設置されてベルトに乗せられて運ばれてくる。

 人が部品をチェックしたあと、設置する部品をセットすると、次からは機械が自動でネジを締めたり、新たな部品を自動で設置する。

 機械内では、設置した後にカメラやレーザー光などで正しく設置できているかをチェックし、クリアしたものだけが次の工程に進める仕組み。

 中には、部品を保護するためのフィルムを自動で剥がせるものもあり、最終の製品チェックまで、人を介することなく製造工程が進んでいた。

 いくつもある工程の中には、検査で不合格になったと思われるものがラインから外れた場所にストックされている光景も見られた。担当者に「どれくらい不良が出るのか?」と聞いてみたものの回答は得られなかったが、ストックされると思われる場所は3つ程度しか用意されていなかったことから、かなり少ないように思えた。

保護フィルムの取り扱いにも工夫

 製造中の製品を保護するためのフィルムは、カメラ部分や外装部分などに備えられており、先述のように機械が自動で剥がしていた。

 人がフィルムを剥がすときでも、剥がした後のフィルムが指にくっついてしまったり、机の端や足の裏などに張り付いてしまったりと、処理に困ることが多い。

 工場内では、時には大きめのテープを使って回収したり、時には吸引して回収したりと、フィルムによって回収の仕方が工夫されていた。

最終検査

 最終的に組み上がった製品を検査するのも、多くを機械が行う。

 バイブレーションやスピーカー、Bluetoothレシーバーやモデムの機能などは音や電波が漏れない箱の中で自動チェックされる。ディスプレイ検査やカメラ検査などもすべて自動で行われる。

 検査に合格したものだけ、IMEI番号が書き込まれ、最後の最後に人の目で最終チェックされる。

 そして、製品が完成すると、画面の保護フィルムの貼り付けや、製品パッケージへ収める作業、パッケージのシール貼りなどまで機械が担う。

 それだけでなく、販売店へ出荷される段ボールの組み立てから製品パッケージを収め、封をしたり出荷先のシールを貼ったりするところ、そしてその段ボールをパレットに載せて運搬するところまでロボットが自動で担当する。

 ライン上に常時いるスタッフは検査工程の担当者だけ。機械でトラブルが発生したときには、エンジニアが急行するかたちをとっている。従来は1日3万台の製造だったが、現在は5万台まで拡大している。

製品を試験する「自動化ラボ」

 次に訪れたのは「自動化ラボ」。ここでは、製品の品質を上げるため、開発の段階から自動化を研究する施設だという。

 具体的には、新製品を開発する際に、たとえばスマートフォンであれば他社のWi-Fiアクセスポイントときちんと接続性を維持できるかをチェックする。

 また、スマートウォッチであれば正しく運動検知できるか、あるいは高い電池寿命を維持できるか、といった点をロボットや機械を使って長期間、多くの回数、テストを実施する。

 また、新しいファームウェアをリリースする際に、これまでの機器やアプリなどと互換性が維持されているか、といった内容もテストする。

ラボ内での試験

 ラボ内には、スマートフォンやスマートウォッチ、フルワイヤレスイヤホンなどさまざまな試験が実施されていた。

 たとえば、スマートフォンの試験では、さまざまな顔の模型が備えられた撮影ボックスの中でポートレート撮影のテストをしていたり、110種類の指紋を用意し、さまざまな温度と湿度の条件で指紋認証の試験を行っていたりする。

 変わったものでは、同社のテレビや照明などのスマート家電一式がセットされ、それを自動走行ロボットがあたかも1人のユーザーがさまざまな家電を操作して、それが正しく動作、連携するかを確認するコーナーも用意されていた。

 このほか、遠隔でソフトウェアのチェックができる「Smart Device Farm」(SDF)という施設も設けられている。1000台以上のスマートフォンが設置されており、スクリプトやシナリオをもとに24時間繰り返しテストが実施されている。

アプリ開発者が互換性をチェックできる仕組み

 また、アプリの互換性をオンラインでテストできる機能も備えている。同社製のアプリのほか、他社が開発するサードパーティーアプリの試験も実施できる。

 デベロッパーは、サムスン製スマートフォンの実機を保有せずとも、自身のアプリとデバイスとの互換性を遠隔で確認できる。

6カ月間のテスト

 さまざまな試験の多くは、互換性や耐久性、発熱や処理落ち(フリーズなど)の試験だった。

 担当者によると、新しい製品が登場するまでにおよそ6カ月にわたり、約3000台でテストが実施されるという。

 最近は、さまざまなAI機能が導入されるため、「不具合を発見するための試験」を探す試験も実施されている。

SIM博物館で通信の歴史を見学

 工場内には、同社の通信技術の歴史を知れる「Samsung Innovation Museum」(SIM博物館)が設けられている。ここでは、韓国の通信技術や同社のモバイル製品の歴史を学べる。

 まず登場したのは、韓国初の電話交換機「M10CN」。ベルギーの技術を活用して製造されたといい、これまでオペレーターを介して相手とつながっていた環境から、電子的に接続する革新的なデバイスが誕生した。

昔の電話機(左、サムスン製ではない)と電話交換機「M10CN」(右、こちらはサムスン製)

 そして、自動車電話(Car Phone)を経て同社最初の無線移動通信機「SH-100」が登場。価格は約30万円で、当時の国産車が1台買える価格だったという。

SH-100

 そして、1994年に同社の携帯電話ブランド「Any Call」が誕生。2002年には同社で初めて1000万台出荷した「SCH-X430」が開発された。

 さらに、2010年には世界のスマートフォン市場で1位を獲得。2019年のフォルダブルスマートフォン「Galaxy Flip/Fold」シリーズへとつながっていく。

 ミュージアムの中には、サムスン製のフィーチャーフォンからスマートフォンまでを一堂に展示しているコーナーも用意されている。

サムスン製のフィーチャーフォンからスマートフォンまでを一堂に展示

ソウル市内からクミ工場までは、バスで4時間ほど。ヘリコプターを使うと1時間もかからずに到着できる

工場内の食堂には、当然のようにキムチが用意されている。漬け具合などに応じて3種類ラインアップされている



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