はじめに
たびたび話題になるExcelスクショ問題。きっと皆さんも実際にやったことはなくても、小耳に挟んだことはあると思います。
誰もが好きでやってるわけでもなく、ない方が良いと分かっていても、残り続けるExcelスクショ。なぜExcelスクショが必要とされるのか?なくすために何が必要なのか?
結論から言うと、SIerがテスターを信頼できれば 廃止できます。
本稿では、Excelスクショエビデンスの本質を整理していきたいと思います。
お断り
- あくまで一般論で、Excelスクショを廃止すべきではないエッジケースはきっと存在します
- Excelスクショが完全自動化されていて、コストに跳ねないなら無くさなくていいんじゃね?
- テスター100人3カ月で集めてこい!みたいなプロジェクトは本稿の対象外です
- UIは存在するが、人手によるテストがない、完全に自動化された環境は想定外です
また異論反論は大歓迎ですが、「Excelスクショしたくなければ、テストを自動化したらいいじゃない」みたいなマリー・アントワネット発言はご遠慮ください。
Excelスクショの効果
さて、Excelスクショを無くすには、どんな効果があって、それをどう代替すればよいのか考えれば答えは出ます。
Excelスクショを確認することで、つぎのことが判明します。
- 実はテストを実施していない「っぽい」
- テストを実施していた「っぽい」
- 実施時、確かに正しく動作していた「っぽい」
- 実施時にもエラーになっていたが、見落としていた「っぽい」
実は確定した事実は何一つ分からないんですね。これらから、いったいどんな効果が期待できるでしょうか?
期待される効果
さぼり防止
スクショの捏造は、現実的に労力が釣り合わないので、これは「おおむね」期待できます。
これだけ。
え?これだけ?ほかにあるでしょうって?では、期待できない効果を考えてみましょう。
期待できない効果
プロダクト品質の向上
「テストは品質を向上させない」論は一旦置いておいて、ソフトウェア開発プロセス全体で品質の向上を図るとき、少なくともテストは品質評価の一つの視点となるでしょう。
ただし、同じテストをしていれば、スクショを取ったかどうかは本質的には関係ないはずです。
スクショが寄与するのは、テスターが信頼できないときくらいでしょう。
障害報告時の原因追及
絶対にないとは言いませんが・・・みなさんは障害報告があったとき、どう行動しますか?私だったら
- 障害の再現確認
- 発生原因の特定
- 障害対策
という優先順位で行動するでしょう。
これらが全部終わって(もしくは暇にしている人がいれば)、なんでテストしたのに見つけられなかったのか?本当にテストしたのか?確認しますが、その際も別にスクショエビデンスは必ずしも必要ありません。これについては別途後述します。
顧客説明資料
「ほらほら、ちゃんとテストもしたし、エビデンスもあるんです!」なんて、障害報告書持っていったらぶっ殺されると思いますけどね・・・
「本当にテストしたのか?」と聞かれることもあるかと思いますが、その質問の本質は「テストしたのに本番で発生したのはなぜか?」を聞かれているのであって、テストした証跡を見せろと言われているのではないことを理解すべきです。
契約上必要だから
ほぼすべての場合、幻想だと思うなぁ・・・
私は20年近く、誰もが知ってる銀行・証券・生保・損保・公共の仕事をしてきましたが、RFPの納品物に定義されているのを見たことがありません。あってもエッジケースでしょう。
顧客に必要なのは適切な品質であって、スクショエビデンスではありません。
契約に含まれている場合、RFPに対する品質担保の手段として、受託側が提案した結果が多いのではないでしょうか?
自動化されていない場合、相応のコスト増になりますし、なくて同じ品質を保てるならない方が良いです。そしてそれは実現可能です。
それでも、なぜExcelスクショが必要とされるのか?
端的に言えば 「テスターが、本当にテストを実行するかどうか、信用できないから」 です。
それはSIerの業界構造が大きく関与していると、私は考えています。多くの場合、単純化すると次のような構造が多いと思います。
SIerの大規模案件となれば(私はそんな規模は経験したことないですが)、100人を3カ月で集めてテストチームを作るみたいな案件もあります。
そうなったら、まぁ基本パスはテストしても、めんどくさいエッジケースのテストをさぼる人は必ず紛れ込みます。
むしろ5~10人程度のチームでも、昼間っから昼寝してたり、トイレでソシャゲやってる人が混じったりもするわけで、ちょっとぐらいテストをサボっても・・・と考える人には、そこそこ遭遇します。
私には目に浮かびます。
- 上司:なぜテストが漏れたんだ
- 部下:テストさぼってる人がいました・・・
- 上司:再発防止策を取れ!
- 部下:はい、エビデンスを取得させます
そして年月が経ち、社内(や部内)標準化されちゃうんですね。悪夢です。
SIerとSESの間は、準委任契約です。善管注意義務があるとはいえ、テストに関しては「テストをすれば」OKなことが拍車をかけています。
ほとんどの場合、Excelスクショは「SIerとSESの間に信頼関係が構築されていない」ために必要とされます。
顧客とSIerの間はたいてい請負契約であり、契約不適合責任を問えるので、本質的にエビデンスなんて必要ないんですよね。
Excelスクショを必要としているのはSIerと、まぁ社員を信頼していないSESの経営サイドでしょう。
Excelスクショを廃止する、たったひとつの冴えたやりかた
さぁ、もう皆さんも大筋は読めたんじゃないでしょうか?
Excelスクショを無くすには、SIerがテスターを信頼できる環境を構築できれば良いことになります。
具体的には、つぎの通りです。
- 再現性あるテストケース設計を心掛ける
- テストを小さなサイクルで回し、短期間で複数人によるテストを実施する
テストデータなども事前に準備し、決められた手順で実施することで、テストの再現性を担保します。
テスト結果には再現性があるのですから、エビデンスは不要です。
その状況下でも、やってないのにやったと言い張る人は、2によって早期に可視化し是正を図るか、繰り返すなら交代なり善管注意義務違反を問えばよいのです。
そうすることで、早期に信頼できるチームを構築できるようになるはずです。
100人3カ月で集めてこい!みたいなプロジェクトでは徹底困難でしょうけど、経験上20~30人程度のチームであれば有効です。
おわりに
私はSIerですが、このやり方で社内を説得し、金融案件からスクショエビデンス文化を廃止しました。
社内の特に管理職から大きな抵抗がありましたが、上記を切々と訴えて説得しました。
逆に顧客は契約段階で何も言いませんでしたし、テスト計画でそこを指摘もされませんでした。
あれから15年超でしょうか?一度も顧客から求められたことはありません。
ぜひ皆さんも、「テスターとの信頼関係を構築する方法」を探ってみてはいかがでしょうか?
おしまい。
Views: 0