10代を中心とする若年層から支持を集める、3対3のリアルタイムオンライン対戦ゲーム『#コンパス 戦闘摂理解析システム』(以下、#コンパス)。
キャラクター周りのクリエイティブを、ニコニコ動画で活躍するイラストレーターやボカロP、動画師たちが担当していることも人気を後押しした。一部キャラクターについては、モーションアクターを踊り手が担当している。
たとえば「Voidoll」というキャラクターは、イラストをちゃもーいさん、テーマ曲「ダンスロボットダンス」をナユタン星人さんが担当。
このようにキャラクターそれぞれが持つテーマ曲をボカロPが担当していることで、ボカロカルチャーと共栄する形でプレイヤーに受け入れられてきた側面がある。
そんな『#コンパス』がこの春、満を持してアニメ化を迎える。その名も『#コンパス2.0』。ED主題歌「ハートエイク」の歌唱を担当するのは、『#コンパス2.0』でメインキャラクター・塵(ジン)を演じる声優・内田雄馬さん、同曲を書き下ろしたのは、ボカロP・バルーン(須田景凪)さんだ。
同い年ということもあり、今回の楽曲制作を機に仲良くなったという2人。その友人関係は、『#コンパス2.0』で描かれるプレイヤーとヒーローの相棒関係にも通ずる。今回は対談を通して、アニメの見どころや、「ハートエイク」がつないだ彼らの絆に迫った。
取材・文:ヒガキユウカ 編集:恩田雄多
バルーン×内田雄馬、レコーディングで意気投合 行きつけの蕎麦屋へ
──アニメ『#コンパス2.0』は、異世界から集められたヒーローと、プレイヤーである人間のパートナーが共に過ごす戦闘摂理解析システム「#コンパス2.0」の世界を舞台にした物語です。まず、バルーンさんはどんな思いを持ってED主題歌である「ハートエイク」の制作に臨みましたか?
バルーン 制作にあたってかなりボリューミーな資料をいただいたんですが、大事にしてほしいポイントとして「最高のパートナーに出会える場所」「その場所を守るという決意」というものが書いてありました。
僕はこれまでの楽曲でも「自分にとって大切な場所や存在を守る」というコンセプトを意識した作品を多くつくっています。そうした僕自身の作家性ともリンクしそうだなと最初に感じたのを覚えています。
僕はもともと作詞と作曲を同時に進めることが多くて、今回もそのパターンでサビからつくっていきました。
内田くんについての資料ももらっていて、彼はライブをするときに「誰も1人にしない」というテーマを大事にしているそうなんです。それは『#コンパス』のメッセージともつながるので、きちんと歌詞に込めて届けたいなと思いました。
バルーン(須田景凪)さん
──内田さんは2023年リリースのアルバム『Y』に収録された「旅路」で、作詞作曲に初挑戦されました。当時のインタビューで「すごく大変だった」と振り返っていましたが、今のバルーンさんのお話を受けていかがですか?
内田雄馬 須田くん(バルーンさんのこと)と一緒にお蕎麦を食べに行ったときにもちょっと話したんですけど、僕一曲つくるのに10ヶ月くらいかかったんです(笑)。
バルーン その話ははじめて聞いた!
内田雄馬 そんな自分からすると、歌詞と曲をつなげながら同時につくっていくというのがもうすごいことですよね。その上でどの楽曲でも、芯の部分に須田くんとしての個性が込められている。今回の曲もまさにそうで、僕としては歌わせてもらえてすごく嬉しかったです。
内田雄馬さん。アニメ『#コンパス2.0』でメインキャラクター・塵(ジン)を演じる
──事前にかなり仲が良いとうかがっていましたが、一緒にお蕎麦屋さんに行かれたんですね。
バルーン 2024年の夏頃、「ハートエイク」のレコーディングではじめてお会いして、すぐに打ち解けたんですよね。でもお互い忙しくて、ようやく一緒にご飯に行けたのが2025年に入ってからでした。内田くんが行きつけのそば屋で(笑)。
内田雄馬 もう何年も通ってます。
バルーン お店の人ともめっちゃ仲良くて、なんか俺だけ一人な感じでした(笑)。
内田雄馬 ぜひ通ってください(笑)。
──最初に「ハートエイク」の音源を聴いたとき、内田さんの印象はいかがでしたか?
内田雄馬 須田くんの仮歌が入ったデモを聴かせていただいたんですけど、すごく衝動的で、心を掻き立てられるサウンドだと感じました。
『#コンパス』の物語も踏襲してくれていて、心が動くフックが散りばめられている楽曲だなと。「この曲で表現がしたい」と思わせてくれました。
歌を歌う時、その曲の物語に自分を重ねてアプローチすることはあまりありません。普段声優として演じているからか、「この歌の主人公は何を思っているんだろう」と考えがちなんです。「ハートエイク」は歌詞にも物語性があって、聞いていると情景が見えてくるような楽曲なので、すごく自分にとって相性がよかったと思います。
バルーン ずっと心情を吐露しているような歌詞だもんね。
内田雄馬 だからなのか、気づかないうちに、この歌の世界に引き込まれていく感じがするんですよ。
仮に『#コンパス2.0』の主題歌じゃなかったとして、歌う人によってまた別の意味が生まれる。本当に解釈の幅が広くて、そういう曲をつくれることが素直にすごいなと感じます。
バルーン「内田雄馬は良い意味でフェアにしゃべれる存在」
──たしかに、内田さん演じる塵視点で聴いてみた後、また別のキャラクター視点で聴いてみると、違ったメッセージが楽しめそうですね。レコーディングの雰囲気はいかがでしたか?
バルーン はじめましての瞬間は、結構固い感じでしたね(笑)。休憩のときにいろいろしゃべって、年齢が同じだとか、自分が曲を初投稿した時期と彼が声優をはじめた時期が近いだとか──共通点がたくさん出てきたんです。そこから一気に距離が近くなりました。
同い年で同じような時代背景で育ってきた仲間って、自分には珍しくて。もちろん学生時代の同級生はいますけど、お仕事でそういう人に会うことはこれまであんまりなかったんです。
──同業者でもですか?
バルーン 同業者ではたまにいるんですけど、まったく同じような仕事をしていると逆に心を開くことに慎重になってしまうというか(笑)。
内田雄馬 ライバルになっちゃうからね(笑)。
バルーン そう。同じような文化圏にいながらも、お互いに仕事は違うから、内田くんのように良い意味でフェアに話せる存在はすごくありがたいですね。
内田雄馬 めちゃくちゃ嬉しい。
TVアニメ『#コンパス2.0』キービジュアル
──交流も深まりつつ、「ハートエイク」のレコーディングでは、バルーンさんから内田さんへはどんなディレクションがあったのでしょうか?
バルーン 事前に内田くんの音楽をいろいろと聴いて感じていたのが「声でお仕事されていることもあって、なんでもいけちゃう人なんだろうな」ということ。
だから曲を書いているときから、「こういうのは内田くんには合わないんじゃないか?」と立ち止まることはありませんでした。
レコーディングでもその“なんでもいけちゃう感”を実感しました。主にニュアンスや感情の部分でディレクションさせていただいたんですけど、どれも即座に反映してくれたんです。
声優さんへの書き下ろしははじめてだったんですが、シンガーさんとは表現の仕方がまた違うんですよね。内田くんは心情から演じるように歌ってくれていて、それがすごく新鮮で楽しかったです。
内田雄馬 僕も歌っていてすごく気持ちよかったですね。これまで歌を録るときは、「もっと子音を立ててみよう」など、技術的なディレクションを受けることが多かったんです。
もちろんそれも大事なんですけど、須田くんは心情の部分をかなりフィーチャーしてくれて。ふだん僕がお芝居のときにしているような思考の仕方を、すごく大事にしてくれたように感じています。
内田雄馬さん演じる塵(ジン)。「#コンパス2.0」の世界に来たばかりの新米プレイヤーだが、バトルへのセンスは光るものがある。パートナーとなるヒーローとして13(サーティーン)が気になっている
バルーン 僕のデモでは入っていなかったフォール(発声後に音程を少し落としていく歌唱方法)が、内田くんの歌唱では入っていたんですよ。
それはきっと、歌詞の意味をしっかり考えてくれたからだと思う。そういう歌い方の工夫を随所でしてくれていて、嬉しかったですね。
『#コンパス』はボカロ文化が広がったきっかけの一つ
──2016年にゲームからはじまった『#コンパス』ですが、当時すでにボカロPとして活躍されていたバルーンさんはどんな印象をお持ちでしょうか?
バルーン 当時のボカロシーンをリアルタイムで経験していく中で、初音ミクを起用したゲームはあれど、ボーカロイドカルチャーをすくってゲームとして広げていく取り組みってあまりなかったんですよね。ボカロ自体も、今のように誰もが知るような存在ではなかった。
『#コンパス』がはじまって、僕の友人の作家もキャラクターのテーマ曲を書き下ろしたりしていましたが、楽曲が広まった結果、動画のコメント欄などに「『#コンパス』から来ました」というコメントがつくようになったんですよ。
バルーン それは1人のボカロPとしても嬉しかったですし、いまやボカロといえばビルボードにチャートがあることも当たり前の存在になったけど、当時は間口が広がるきっかけの一つになった存在だと思っています。
だから今回は、アニメ主題歌としてだけでなく、ゲームだけだった頃の『#コンパス』の記憶も辿りながら、両方のファンを大事にしたいなと考えていました。
──一方の内田さんは、アニメ『#コンパス2.0』への出演にあたり、作品の世界観をどのように捉えていますか?
内田雄馬 アニメで描かれる「#コンパス2.0」の世界は、日常から少し離れた場所だからこそ、どんな人も受け入れてくれて、拡張を続けていく、可能性の塊のような場所だと思っています。誰かといることで生まれる無限の可能性、それが「#コンパス」の世界そのものなんじゃないかなと。
今だとメタバースもそうですけど、新しい世界でポジティブな気持ちを生み出すものって、やっぱり人と人の繋がりじゃないですか。「#コンパス」の世界ではゲームをプレイするプレイヤーがいて、相棒として実際に戦うヒーローがいます。その相棒関係がたくさん存在しているので、いろんな「関係性」が見られる場所でもありますね。
それから「#コンパス」って、とにかくたくさんのキャラクターが登場するんですよ。
バルーン たしかに多いよね。驚いた(笑)。
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