Docker Desktopのライセンス料金を払いたくない企業エンジニア向けに代替ツールを比較してみた

はじめに

こんにちは。クラウドエースの荒木です。

2021 年 9 月に Docker Desktop の企業ライセンス有料化が発表されて以来 、多くの開発者や企業が代替手段を模索する状況が続いています。その発表から数年が経ち、代替ツールも成熟してきた今、「結局どれを選べばいいの？」という質問をよく見かけます。弊社でも Docker Desktop 利用に制約があるため、様々な代替ツールを試しました。

そこで今回は、2025 年時点での Docker Desktop 代替ツールを、実際の使用感も含めて比較検討してみたいと思います。

Docker Desktop の企業ライセンスについて

まず、そもそもなぜ代替手段が必要なのか、Docker Desktop のライセンス状況について改めて整理しておきましょう。

Docker Desktop は2021 年 9 月 1 日から企業利用が有料化されました 。具体的には、従業員数が 250 人以上、または年間売上が 1,000 万ドル以上の組織では、商業利用に有料のサブスクリプションが必要になっています。料金は 2024 年 11 月のプラン改定により、月額$5 の「Personal Pro」、月額$9 の「Team」、月額$24 の「Business」となっています 。

個人利用や教育目的、小規模組織では引き続き無料で利用できるのですが、多くの企業では有料プランの契約が必要になったため、代替手段の検討が活発化したという背景があります。

ただし、誤解されがちな点として、Docker Engine 自体は引き続きオープンソースで無料です。有料化されたのは「Docker Desktop」という GUI アプリケーションであり、コマンドラインでの docker コマンドの利用に制限はありません。問題は macOS や Windows では Docker Engine を直接インストールできないため、何らかの仮想化ソリューションが必要になる、という点にあります。

Docker Desktop のおすすめ代替ツール

それでは私が試した代替ツールの中から、おすすめを紹介していきます。

軽量さなら「Colima」

Mac ユーザーで軽量性を最重視するなら、Colima が最有力候補です。

https://github.com/abiosoft/colima

Colima（Containers on Lima）は、Lima VM 上で Docker や containerd を動かすためのツールです。私が実際に使ってみて感じた最大の魅力は、その圧倒的な軽量さとセットアップの手軽さでした。

brew install colima
colima start

もちろん、必要に応じて割り当てるリソースを指定することも可能です。

• 👍️ 良い点
  • メモリ使用量が少ない
  • 起動が高速
  • K3s による軽量な Kubernetes サポート
• 🤔 注意点
  • Mac ユーザー専用
  • GUI がない

私の個人的な評価としては、コマンドで操作するから GUI が不要で、Mac を使用しているという場合には、現時点で最も優れた選択肢だと感じています。私は Mac ユーザーなので、普段はこの Colima を使用しています。

本格的な Kubernetes 開発をするなら「Rancher Desktop」

Docker と Kubernetes を本格的に両方使いたく、かつ GUI での操作性も重視するなら、Rancher Desktop がおすすめです。

https://rancherdesktop.io/

Rancher Desktop は SUSE が開発するオープンソースツールで、Docker Desktop の真の代替として設計されています。このツールを入れておけば基本的に困ることはないでしょう。ただ、起動に時間がかかるのがストレスだったのと、毎回パスワードを求められて面倒くさかったというのがあり、私は Colima に移行してしまいました。

• 👍️ 良い点
  • Docker Desktop とほぼ同等の GUI 操作性
  • Windows/macOS/Linux で利用可能
  • K3s による軽量な Kubernetes サポート
• 🤔 気になる点
  • リソース消費量が大きい
  • 起動時間がやや長い
  • 初期設定で迷う場合がある

チーム開発で統一された環境が必要で、かつ将来的に Kubernetes も活用したいという場合には、現在最も包括的で安定した選択肢だと感じています。

Linux なら「Docker Engine」を直接インストール

Linux 環境であれば、そもそも Docker Desktop の代替を探す必要がありません。 Docker Engine を直接インストールすることで、最もネイティブで高性能な Docker 環境を構築できます。

curl -fsSL https://get.docker.com -o get-docker.sh
sudo sh get-docker.sh

特に、クラウドサーバーや CI/CD 環境との一貫性を考えると、Docker Engine 直接インストールは非常に合理的です。本番環境でも同じ Docker Engine が動いているため、「ローカルでは動くのに本番で動かない」といった問題が起きにくくなります。

• 👍️ 良い点
  • 最もネイティブで高性能
  • ライセンス問題は一切なし
  • 本番環境との完全な一貫性
• 🤔 注意点
  • GUI が標準では提供されない
  • 初期設定が手動

GUI が必要な場合は、Podman Desktop や Rancher Desktop など使用することで、Docker Desktop 同等の操作性を実現できます。

Linux 環境であれば Docker Engine 直接インストールを推奨します。他の代替ツールと比べて、オーバーヘッドがなく最も確実な選択肢です。

次に、最有力候補からは外れてしまうものの、ケースによっては選択肢に入るツールを紹介します。

番外編 ①：「Podman Desktop」

GUI とセキュリティを重視するなら、Podman Desktop も検討に値する選択肢です。

https://podman-desktop.io/

Podman Desktop は Red Hat が開発するオープンソースツールで、Docker Desktop ライクな GUI 操作性を提供しながら、企業利用でも完全に無料で使えます。

他の代替ツールにない特徴として「デーモンレス・ルートレス設計」があります。これは中央デーモンを必要とせず、root 権限なしでコンテナを実行できる仕組みで、セキュリティ面でのメリットがあります。Kind や minikube 拡張機能により、Kubernetes サポートも提供されています。

私が実際に使ってみて感じた最大の魅力は、そのGUI の完成度の高さと Docker Desktop からの移行のスムーズさでした。インストール後のセットアップ画面では親切なガイドが表示されるので、それに従って進めれば簡単に使えます。

• 👍️ 良い点
  • GUI 操作可能
  • Windows/macOS/Linux で利用可能
  • デーモンレス・ルートレス設計
  • Kubernetes サポート（拡張機能）
• 🤔 注意点
  • Docker との完全互換ではない
  • 他のツールと比較するとリソース消費が多い

今回のテーマである企業エンジニア向けの代替ツールとして考えると、日本では Docker がデファクトスタンダードになっていることもあり、互換性の面で懸念が残るため番外編として紹介しました。新しいプロジェクトや Docker との厳密な互換性を求めない環境であれば、非常に優秀な選択肢だと感じています。

番外編 ②：「OrbStack」

企業利用に該当しなければ Mac ユーザーにとっての最有力候補です。

https://orbstack.dev/

OrbStack は macOS 向けの軽量な仮想化ソリューションで、Docker Desktop の代替として評価を受けています。調査したベンチマーク結果によると、Docker Desktop と比較して約 1.3 倍高速で、リソース消費量も約 1.7 倍効率的という良好な性能を示しています。

OrbStack の特徴はネイティブ macOS 統合にあります。自動ドメイン名割り当て（container-name.orb.local）、HTTPS 証明書の自動生成、Finder からのコンテナファイルアクセスなど、便利な機能が提供されています。

また、Debug Shell 機能では従来の docker exec より多くの機能を提供しており、htop、curl、strace などのツールが最初から利用でき、dctl コマンドで追加パッケージのインストールも可能です。

• 👍️ 良い点
  • 高速かつリソース効率が良い
  • ネイティブ macOS 統合
  • 高機能な Debug Shell
• 🤔 注意点
  • 企業利用では月額 $8/ユーザーの有料ライセンスが必要
  • Mac ユーザー専用

機能面や使い勝手では非常に優秀なのですが、OrbStack は企業利用（従業員数 250 人以上または年間売上 $10M 以上）では月額 $8/ユーザーの有料ライセンスが必要になります。つまり、「Docker Desktop のライセンス問題を解決する」という本来の目的には全く適していません。

OrbStack は優秀な Docker 環境ですが、企業でのライセンス問題を解決したい場合は選択肢から除外せざるを得ないというのが現実です。個人利用や小規模チーム（無料範囲内）であれば、OrbStack も良い選択肢だと思います。

まとめと所感

これまで紹介した Docker Desktop の代替ツールを整理すると以下のようになります。

• Mac でシンプルに Docker だけ使いたい：Colima が最優秀
• クロスプラットフォームで GUI + Kubernetes も使いたい：Rancher Desktop
• Linux 環境：Docker Engine 直接インストール

これらの代替ツールはいずれも活発に開発が続けられており、今後さらに機能や安定性が向上していくことが期待されます。機能の追加や互換性の向上により今後の最適解が変わる可能性がありますので、今後も定期的にチェックしていきたいと思います。

この記事が皆さんの Docker Desktop の代替ツール選定の参考になれば幸いです。