金曜日, 5月 16, 2025
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DeepSeekは一角、中国でAIスタートアップが進化の一途-米国に脅威 – Bloomberg


中国の人工知能(AI)スタートアップ、DeepSeek(ディーブシーク、深度求索)を創業した梁文鋒氏は細身の体つきと控えめな話しぶりから、会議では内気で緊張しているように見えることがある。言葉に詰まったり沈黙を長く続けたりすることも多い。

  しかし、いざ議論の細部を押さえれば、AIモデルの構造や計算コストなど、同社システムの複雑な部分について回答に窮するような鋭い質問を次々に繰り出してくる。

  従業員らは梁氏を「老板(ラオバン)」と呼ぶ。中国で上司に対して用いられる一般的な敬称だ。普通の上司と違うのは、若手研究者やインターンに対しても、大規模な実験的プロジェクトを任せるほど大きな裁量を与えている点だ。

  「彼は本物のオタクだ。時には、研究者以上に彼の方が研究を理解していると感じたことさえあった」とDeepSeekで働いていた1人は語る。この元社員を含め、多くの関係者が同社について公に話す権限を持たないとし、匿名を条件に取材に応じた。

  梁氏とその若き企業が国際的な注目を浴びたのは、今年1月だ。DeepSeekが発表したAIモデル「R1」は、まさに驚異的なブレークスルーのように感じられた。

  R1の能力は、AI性能を評価するため一般的に用いられる標準化テストの幾つかで、欧米の有力モデルを上回った。しかもDeepSeekはこのベースモデルを、米オープンAIの対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」を支える「GPT-4」の推定開発費の約5%で構築したと主張した。

  このDeepSeekショックは米株式市場で大規模なテクノロジー株売りを招き、AI分野での中国躍進を遅らせようと米国が進める輸出規制戦略の有効性に疑念が生じた。

  それまで中国AI業界は謎に包まれ、その脅威は誇張されていると見なされる傾向にあったが、実は米国が認めたくないほど手ごわいかもしれないとの見方が広がった。

  DeepSeekの登場前、米国の政策当局者や多くの企業は中国について、シリコンバレーに大きく後れを取っていると安心感を抱いていた。つまり、追い付かれるまでに米国には準備する時間がある、もしくは追い付かれるのを防げると考えていた。

  現実にはDeepSeekが本拠を置く人口1250万人の浙江省杭州市をはじめ、中国各地でAIスタートアップが次々と生まれていた。特にDeepSeekを含む杭州の新興6社は「杭州六小竜」と呼ばれ、注目を浴びていた。

  「MiniMax」や月之暗面(ムーンショットAI)といった中国のスタートアップによる高度なチャットボットは米国など海外でも急速に人気を集め、アリババグループの大規模言語モデル(LLM)「通義千問(Qwen)」シリーズは、グーグルやアンソロピックによる米国製モデルと並び、主要なランキングで常に上位に位置している。

制約

  最近の中国勢の台頭を後押したのは皮肉にも、中国製AIの進展を遅らせようとする地政学的な制約だ。

  調査会社カウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチのアナリスト、ウェイ・スン氏は米中間のAI格差は今や年単位ではなく、月単位で測られるとし、「中国勢には集団的な倫理観と、猛烈に働く意思があり、それが実行力の優位性につながっている」と指摘する。

  スン氏は米エヌビディア製半導体の対中輸出規制が新たなAIイノベーション(技術革新)を中国で喚起していると分析。「ダーウィンの進化論的圧力が生じている。少ないリソースで多くを成し遂げられる者だけが生き残る」と述べた。

  一方、米国では今なお不正行為を疑う声が根強い。米下院の中国特別委員会は今年4月、DeepSeekと中国政府との間に深いつながりがあるとする報告書を公表し、同社がオープンAIのデータを不正に盗み、米国の国家安全保障に対する「重大な脅威」になっていると結論付けた。

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アンソロピックのアモデイCEO

Photographer: Chesnot/Getty Images

  米新興企業アンソロピックのダリオ・アモデイ最高経営責任者(CEO)は、より強力な輸出規制の必要性を訴える。さらに、DeepSeekがエヌビディアの最新画像処理半導体(GPU)「H100」を含む大量のチップを密輸した可能性にブログ投稿で触れた。

  ブルームバーグ・ニュースは今年に入り、DeepSeekがシンガポールのサードパーティーを通じてエヌビディアの先端半導体を購入し、米規制を回避したかを米当局が調査していると報じた

  中国大使館は下院委員会の主張に「事実無根」だと反論。エヌビディアは、DeepSeekが使用する半導体は輸出規制に準拠しており、対中規制の強化はむしろ中国の半導体産業を利する可能性があると説明している。同社の広報担当者は、DeepSeekに中国製半導体・サービスの使用を強制すれば、「華為技術(ファーウェイ)や他の海外AIインフラ関連企業の支援につながる」と語った。

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梁文鋒氏(1月)

Source: Zuma Press

  DeepSeekはAIテクノロジーのオープンソース化に誇りを持っているが、同社の内情や方針は公開しておらず謎に包まれている。研究内容については公表論文で非常に細かい情報を共有する一方、AI開発の総コストやGPUの構成、データの出どころといった基本的な情報は提供していない。

  梁氏自身はもともと社交的でないと以前から知られ、一部の中国AI企業幹部は密かに「テック狂人(Tech Madman)」と呼んでいる。並外れた野心を持つ風変わりな起業家という意味だ。

  実際、過去10カ月間に一度もメディアのインタビューに応じておらず、その顔が初めて世間に知られたのは、中国の李強首相との最近の会議で撮影された眼鏡をかけた少年のような顔立ちを捉えた写真によってだった。

     この記事の取材に対しても、梁氏と同僚らは一切応じず、唯一返ってきたのは、ある女性従業員からの自動返信メールだけだった。そのメールには「お問い合わせありがとうございます。DeepSeekへのご関心とご支援に感謝します!」と記されていた。

  ブルームバーグ・ビジネスウィークはDeepSeekの実態と中国全体のAI戦略における役割を深く理解するため、元従業員11人のほか、中国のAI業界に精通するアナリスト、ベンチャーキャピタリスト、経営者ら40人近くを取材した。

  梁氏が公の場に現れないことで、アモデイ氏やオープンAIのサム・アルトマンCEOらからDeepSeekに対する批判は強まりがちだ。中国の技術を不透明な脅威と見なす米国世論もこれに同調する。

  とはいえ、DeepSeekの能力には向き合わざるを得ない。

  AI検索エンジンのスタートアップ、米パープレキシティAIのディミトリー・シェベレンコ最高ビジネス責任者は、同社でDeepSeek側の担当者と連絡を取れた人物はいないとコメント。それでも、相手の技術を取り入れ、欧米のサーバー上でのみ運用、中国共産党の検閲を示すようなデータセットを除去する再学習を行ったという。

  パープレキシティはこれを「R1 1776」と名付け、自由へのオマージュだと説明する。1776年は米国が独立を宣言した年だ。「DeepSeekの真の動機は分からない、ちょっとブラックボックスみたいだ」とシェベレンコ氏は話した。

クオンツ

  梁氏と仲間たちは、2000年代半ばに浙江大学で機械学習や信号処理、電子工学などを学び、楽しむために(もちろん金銭目的もある)株取引プログラムを開発した。金融危機時のころだ。

  卒業後の梁氏はクオンツ取引システムの構築を独自に続け、小さな財を築いた。その後、大学時代の仲間たちと杭州で幻方量化(High-Flyer Quant)として知られることになる企業を15年に設立。初期の求人広告によると、グーグルやフェイスブックから優秀な人材を集め、数学・コーディング好き「オタク」を募集した。

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DeepSeekの北京オフィス

Photographer: Peter Catterall/AFP/Getty Images

  幻方量化もDeekSeekのように謎めいた雰囲気を秘める一方、SNSの微信(ウィーチャット)では毎週金曜、ファンド10本の成績グラフを公開していた。このデータは16年夏には登録した投資家しか入手できないようになったが、それまでにリターンは年率で平均35%を記録した。

  やがて何十億ドルという資金が幻方量化に流入し、同社の投資・研究部門は100人超に拡大した。梁氏は19年、AI部門の本格採用を開始し、巨大なデータセットを活用して割安株の発見、高頻度取引での微小な価格差の検出、業界特化型の投資家が見落とすマクロトレンドの解析を目指した。

  新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まるころには、梁氏とそのチームは多数のプロセッサーを並列稼働させる高性能コンピューティングシステム(クラスター)を構築していた。

  幻方量化によれば、このクラスター向けにゲーマーや3Dアーティストにも使われるエヌビディア製半導体「2080Ti」1000個と同社初のAI最適化GPUであるVoltaシリーズの「V100」100個を調達。それまで2カ月かかっていた新しい経済分析モデルの学習が、新システムでは4日未満で完了するようになったという。

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ブルームバーグ・ビジネスウィーク

Illustration: 731

  それでも、これらの金融モデルは、オープンAIなど米国勢が開発した汎用(はんよう)モデルに比べればずっと小規模だった。梁氏はV100の後継である次世代GPU「A100」を用いた大規模なスーパーコンピューターの構築を推進した。

  このプロジェクトに携わった幻方量化の元エンジニアによれば、梁氏はディープラーニング(深層学習)に取りつかれているようだった。

  AIインフラに数億ドル規模の投資を行うのは、クオンツ企業にしては過剰だったかもしれないが、それを賄う利益は十分にあった。「当時の梁氏にとってははした金だった」と元エンジニアは振り返り、「計算能力を増やせば、モデルも良くなる。取引の利益も増えた」という。

  確かに、それが狙いだった。約141億ドル(約2兆円)を運用していた幻方量化は21年12月、成績不振について投資家向け書簡で謝罪したが、その理由にAIシステムを挙げた。銘柄選定には成功したものの、パンデミック下の市場乱高下の中で売り抜けるタイミングを適切に調整できなかったとした。

  同社は文字通り倍賭けする道を選んだ。22年1月になるとエヌビディアのA100半導体を5000個確保しているとSNSに投稿。1個数万ドルはするが、これを3月には1万個に増やした。その半年後、エヌビディアはこうした半導体を中国向けに輸出できなくなる恐れがあると警告した。

  23年春、つまりオープンAIがChatGPTを発表してから約5カ月後、梁氏はDeepSeekを独立した研究所としてスピンアウトさせた。杭州と北京の拠点では、金融はもはや焦点ではなかった。幻方量化はAI革命の最大の難関に取り組むと宣言。最終目標は汎用AI(AGI)だとうたった。

  梁氏は幻方量化からエンジニアを投入したほか、マイクロソフトの北京オフィスや中国の有力テック企業・大学からも人材を採用。DeepSeekの元研究者2人によれば、梁氏は早くからLLMを効率的に訓練・運用する手法「スパース(sparsity)」に大きく賭けていた。

  スパースは計算コストの大幅な節減につながるが、複雑さも伴う。質問が誤った領域に送られたりすると、回答の質が低下する。

  それでも梁氏は、グーグルやフランスのスタートアップ、ミストラルAIが23年12月に公開したスパースモデルなどの進展に着目。そして次々とブレイクスルーが生まれ、それらは全て公開され、やがて中国国内の競合の注目を集めるようになった。

哲学

  DeepSeekは24年終盤、「V3」という汎用モデルを発表。これは当時最大のオープンソースLLMだった米メタ・プラットフォームズのモデルよりも規模が約65%大きかった。

  グーグルやオープンAI、マイクロソフトの幹部らの関心を本当に引いたのは、その1カ月後に登場する推論モデルのR1ではなく、V3の研究論文だった。そこにはショッキングな数字があった。DeepSeekはV3の開発費がわずか560万ドルだったと示唆していた。

  恐らくこれは最終段階の学習にかかった費用(プロトタイプから最終モデルへの洗練プロセス)を指していたのだろうが、多くの読み手はプロジェクト全体の費用と受け取り、非常に安価だと驚いた。

  最先端モデルの累積学習費用は1億ドル以上となることもあるからだ。DeepSeek登場前だが、アンソロピックのアモデイ氏に至っては、次世代モデルの学習には100億-1000億ドルかかると予測していた。

  DeepSeekが急成長を遂げたのは、梁氏が「オープンソース」を自らの哲学の核心と考えていたからだ。同氏はテクノロジーを非公開にし上位モデルを有料とするオープンAIやグーグルなど米国勢の手法を、短期的な利益を優先するものと見なしていた。

  モデルを完全公開し、おおむね無償とすることが、その採用を加速させスタートアップや研究者によるさらなる技術進展につなげる最も効率的な方法だと梁氏は信じていた。製品の利用とフィードバックの好循環が生まれる期待があった。

  DeepSeekばかりが目立つが、中国には数多くのAI企業が存在する。今年4月の杭州蕭山国際空港では、動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」の字節跳動(バイトダンス)やアリババ、ファーウェイなどのAIサービスを宣伝するデジタル看板が到着客を出迎えていた。



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