「さっき見てた商品の広告が、別のサイトにも出てきた…なんで?」
そんな経験、一度はあるのではないでしょうか。
ネットを使っていると、まるで誰かに見られているかのように、自分の行動が広告やコンテンツに反映されることがあります。最初はちょっと便利だと感じても、あまりに的確すぎると、少し不気味にすら感じることもありますよね。
この“見られている感覚”の裏側には、Cookieという仕組みだけでなく、LocalStorage、ブラウザフィンガープリント、アクセス解析ツールなど、さまざまな追跡技術が関わっています。そしてそれらの一部は、ユーザーが意識的にブロックしても簡単には防げないものだったりします。
こうした技術の仕組みを理解することで、「なぜこんな挙動になるのか?」といった疑問に答えられるようになったり、ユーザーに配慮した設計や実装のヒントが得られることもあります。特にフロントエンドやWeb系の開発に関わる方であれば、一度立ち止まって整理してみる価値はあるはずです。
では、Cookieを入り口に、Webの“見られ方”について見ていきましょう。
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ユーザーの行動を“見える化”する技術の代表格といえば、やはりCookieでしょう。
この章では、Cookieがそもそもどんな仕組みで、どんな場面で使われているのか、そして追跡にどう関わっているのかを整理します。
あわせて、「1st Party」と「3rd Party」の違いや、近年問題視されている背景についても見ていきましょう。
Cookieとは?
Cookieとは、Webサイトがユーザーのブラウザに保存させる小さなテキスト情報です。1つのCookieのサイズは4KB程度と非常に小さいですが、Web上でのユーザー識別や状態の保持など、さまざまな目的に使われています。
代表的な用途には以下のようなものがあります。
- セッション管理
- ログイン状態の維持
- ユーザー認証
- フォーム送信後の「この操作をしたのはあなたですか?」などの本人確認
- パーソナライズ
- 言語設定、テーマカラー、地域情報などの保存
- 行動記録
- どのページを見たか、いつ見たか、などの分析用データ
Cookieは、「この人は前にもこのサイトに来た」や「このユーザーはログイン済み」などの状態を、Webサーバーが把握するための手がかり になります。
自分のブラウザに保存されているCookieを見てみよう
「Cookie」と聞いても、なかなか実感がわかないかもしれません。
でも実は、あなたのブラウザの中にも、今まさにたくさんのCookieが保存されています。
Chromeで確認する方法:
1. 任意のWebサイト(例:Googleなど)を開く
2. 画面上で右クリック →「検証」を選択または F12 キーを押す(Macなら「Command+Option+I」でも可)
3. 上部メニューから「Application」タブを開く
4. 左のサイドバーで「Cookies」をクリックすると、現在のサイトが保存しているCookieの一覧が表示されます
値や名前のほかにも、Domain, Path, Expires, HttpOnly, Secure
といった項目が並んでいます。
何気なく見ているだけのWebページでも、実はこうした情報がブラウザに書き込まれ、次回アクセス時には自動的に送信されているのです。
⚠ Cookieの中には、ログイン状態を維持するためのトークンや識別子が含まれていることがあります。
これをうっかり他人に見せたり、SNSなどに貼ってしまうと、なりすましやアカウント乗っ取りのリスクにつながる可能性があります。
特に session_id や auth_token といった項目が含まれている場合、それを他人が使えば、あなたになりすましてサービスにアクセスできることもあります。
実験するときは あくまで自分の環境内で確認し、内容をコピー・共有するのは避けるのが安全です。
キャッシュとの違い
Cookieと混同されやすい技術にキャッシュ(Cache) がありますが、両者は目的も仕組みもまったく異なるものです。
Cookie | キャッシュ | |
---|---|---|
保存場所 | ブラウザ(テキストデータとして保存) | ブラウザ(画像やCSSなどのリソースを保存) |
主な用途 | 状態管理、ユーザー識別、セッション維持 | 表示高速化、通信量削減 |
読み取り対象 | サーバーまたはJavaScript | ブラウザ自身(自動処理) |
通信への影響 | リクエストのたびにサーバーへ送信される | リソースの再取得を省略できる |
データの種類 | キーと値の組み合わせ(文字列) | HTML, CSS, 画像, JavaScriptなどのファイル |
有効期限 | 明示的に設定(セッション単位や数日~年単位) | ブラウザやサーバー側のキャッシュ設定に従う |
ユーザー識別への利用 | 可能(トラッキングやパーソナライズ) | 基本的に不可(単なるリソース最適化) |
例1:Cookieの使われ方
たとえばECサイトで商品をカートに入れたあと、ページを移動してもカートの中身がそのまま残っていたとします。
これはCookieに「カートに入っている商品のID」が記録されており、それがサーバーに送信されて「まだ未購入だな」と判断されているケースです。
例2:キャッシュの使われ方
同じECサイトのトップページのロゴ画像が、1回目の表示は少し時間がかかったけれど、2回目以降は一瞬で表示されたとします。
これは、ロゴ画像がブラウザにキャッシュとして保存されており、再びサーバーからダウンロードしなくても表示できたという仕組みです。
1st Party Cookie と 3rd Party Cookieとは
Cookieについて調べていると、「1st Party Cookie」と「3rd Party Cookie」という言葉を目にすることがあります。
これらはどちらもCookieではありますが、“誰が発行しているか”という点で明確に異なっており、利用目的や規制状況にも違いがあります。同じ「Cookie」という言葉でも、1stと3rdでは成り立ちも目的も規制の対象もまったく異なるという点はしっかり押さえておきたいところです。
それでは、それぞれのCookieの仕組みと、使われ方の違いについて見ていきましょう。
1st Party Cookie
1st Party Cookieとは、ユーザーが今まさにアクセスしているWebサイト自身が発行するCookieのことです。
たとえば、example.com
にアクセスしたときに、同じ example.com
ドメインからレスポンスとともに送られるCookieがこれにあたります。
実際の用途としては以下のようなものがあります。
これらは、そのサイト内での利便性を高めるためのユーザーの状態管理として利用されており、ユーザーにとっても比較的わかりやすい使い方です。
また、1st Party Cookieは基本的に同じドメイン内でしか送受信されないため、ユーザー行動が他のサイトに渡って追跡されることはありません。そのため、ブラウザ側の規制やユーザーの警戒も比較的緩やかで、今後も多くのWebサイトで使われ続けると見られています。
3rd Party Cookie
3rd Party Cookieとは、アクセスしているWebサイトとは異なるドメインによって発行されるCookieのことです。
たとえば、あなたが news.example.com
にアクセスした際、そのページに埋め込まれた広告タグが ads.tracker.com
から提供されていれば、その ads.tracker.com
ドメインがブラウザにCookieを保存させる可能性があります。このとき発行されたCookieは3rd Party Cookieとして扱われます。
また、3rd Party Cookieの最大の特徴は、異なるWebサイト間でも同じユーザーを識別できる点にあります。
複数のWebサイトにまたがって同じ広告タグ(= 同じドメイン)が埋め込まれていれば、Cookieを通じて「この人はAサイトにもBサイトにも訪れている」と外部の広告ネットワーク側で判断できます。この仕組みによって、ユーザーの行動履歴を蓄積し、リターゲティング広告やユーザープロファイルの作成が可能になります。
図解:3rd Party Cookieによる識別の流れ
上記は、3rd Party Cookieを用いてユーザーが異なるWebサイト間で同一人物として識別される流れを示した図です。
- 1.ユーザーがAサイトを訪れる
- ページ内に埋め込まれた ads.example.com の広告タグが読み込まれ、3rd Party Cookie(user_id=abc123) がブラウザに保存されます。
- 2.数日後、同じユーザーがBサイトを訪れる
- そこにも ads.example.com の広告タグが埋め込まれている場合、ブラウザは先ほどのCookie(user_id=abc123)を同じく ads.example.com に送信します。
- 3.広告ネットワーク側は、両方のアクセスが「同一ユーザー」であると判断
- 「Aサイトで見た商品を、Bサイトの広告欄で再表示する」といったリターゲティング広告が可能になります。
この一連の流れは、ユーザー自身が意識しないまま裏側で行われるものであり、利便性とプライバシーのバランスが常に問われてきた分野でもあります。
Cookieによる追跡の仕組み
Cookieはもともと、ユーザーの利便性を高めるために使われてきました。たとえば、ログイン状態を維持したり、買い物カゴの中身を記憶したりといった使い方が代表的です。ただ、その仕組みを少しだけ掘り下げてみると、実はユーザーの行動を追跡することにもつながることがわかります。
というのも、Cookieは一度発行されると、同じドメインに対するリクエストのたびに、ブラウザが自動でその内容を添えて送信します。ユーザーが特別な操作をしなくても、サーバー側には「この人は前回と同じ人だな」という情報が届くわけです。
このような仕組みのおかげで、Webサイトは“同じユーザーからのアクセス”として振る舞いをひも付けることができます。ログインしていなくても、どのページを見たか、どれくらい滞在したか、といった行動履歴が自然と記録されていきます。
Cookieはこうした「個人をまたいだ情報の蓄積」を可能にする、Web上で最も基本的な識別手段のひとつです。ただし、ここまでで紹介した仕組みは、あくまで一例に過ぎません。実際のWebでは、Cookie以外の方法を使ってユーザーを識別するケースも増えています。
次の章では、そうしたCookieを使わない追跡の仕組みについても見ていきましょう。
「Cookieをブロックしておけば、もう追跡されない」
そう考えている人も少なくありません。でも実際には、ブラウザにはCookie以外にもユーザー情報を保存できる仕組みがいくつか用意されています。そしてそれらも、使い方によってはユーザーの識別や追跡に使われることがあります。
LocalStorageとSessionStorage
この2つは、「Web Storage API」と呼ばれる仕組みで、JavaScriptを使って簡単にデータを保存・読み取りできるようになっています。どちらもブラウザの中にデータを保持するという点ではCookieと似ていますが、いくつか重要な違いがあります。
LocalStorage
LocalStorageは、データを永続的に保存する仕組みです。
明示的に削除されない限り、ページを閉じてもブラウザを再起動しても、そのデータは残り続けます。保存容量もCookieに比べてはるかに大きく、画像のURLやトラッキング用の識別子、ユーザーの行動履歴といったデータを保持しておくことも可能です。
追跡目的で使う場合、「このユーザーは前に何をしていたか」を思い出すためのメモのように使われることがあります。
SessionStorage
一方、SessionStorageはブラウザのタブ単位で有効なストレージです。
同じページ内での移動には使えますが、タブを閉じるとデータは消えてしまいます。そのため、追跡の用途というよりは、ページ遷移中の一時的なデータの保持などに使われることが多いです。
ただし、特定のセッション内での行動を記録したり、ユーザーの流れを把握するために使われるケースもあります。
IndexedDB
IndexedDBは、より高機能で柔軟なWebストレージです。JSONデータや画像ファイルといった、複雑で容量の大きな情報を保存できるのが特徴です。ブラウザの中に“簡易的なデータベース”を持つようなイメージに近く、オフライン対応やパフォーマンス改善に利用されることが多くあります。
問題は、こうした仕組みがトラッキング用途にも使えてしまう点です。
Cookieと違ってサーバーへ自動送信されるわけではないため、表面的には見えづらく、セキュリティソフトやプライバシーブラウザでも検知が難しいことがあります。
CookieやLocalStorageのように、ブラウザに「何かを保存しておく」ことでユーザーを識別する仕組みはすでに多くの人に知られています。ですが実は、ユーザーの側にデータを保存しなくても、その人を特定できてしまう方法が存在します。
つまり、見えないところで静かに識別されている可能性があるのです。ここでは、そうした「保存しない識別技術」として代表的なものを紹介していきます。
ETagとキャッシュの悪用
ETag(Entity Tag)は本来、Webページの表示速度を最適化するために使われる仕組みです。
サーバー側が、ファイルのバージョン識別子のような値(例:xyz123
)をレスポンスヘッダに付けて返し、ブラウザ側がこれを保存しておくことで、次回のアクセス時に「このファイルは変わっていない」と判断できるようになります。
しかしこのETag、本来の用途とは別にユーザーを識別する手段として悪用されるケースがあります。たとえば、初回アクセス時に user-id: abc123
のようなETagが付けられると、次回以降のアクセス時にもそのIDがリクエストに含まれます。つまり、サーバー側から見れば「これは以前来たabc123さんだな」とわかってしまうわけです。
この方法はCookieのように目に見える保存ではなく、キャッシュの仕組みに紛れて行われるため、気づきにくく、ブロックもしづらいのが厄介な点です。
フィンガープリント(Fingerprinting)とは?
もう一つ、ユーザーの環境情報そのものを“指紋”のように扱う技術があります。
これがフィンガープリントと呼ばれる識別手法です。
人によって使っている端末やブラウザの構成は微妙に異なります。以下のような情報を組み合わせることで、その人固有の特徴が浮かび上がってくるのです。
-
使用しているブラウザ(User-Agent)
-
画面の解像度
-
使用言語(navigator.languages)
-
インストール済みのフォント
-
Canvas や WebGL の描画結果 など
こうした情報の組み合わせによって、Cookieなどを使わずに、その人をかなりの精度で識別できるようになります。
フィンガープリントのコード例と仕組み
実際にフィンガープリントがどのように行われるのか、簡単な例を見てみましょう。たとえば、以下のような情報はJavaScriptで簡単に取得できます。
javascript
console.log(navigator.userAgent);
console.log(screen.width + "x" + screen.height);
console.log(navigator.languages);
これだけでも、使っているブラウザや言語設定、画面サイズなど、ユーザーの環境に関する基本的な特徴を把握できます。一見すると些細な情報に思えるかもしれませんが、これらを組み合わせていくと、
「その人らしさ」= 識別のヒント
になっていきます。
そして、こういった情報を自動で収集・分析し、ユニークなIDとしてまとめてくれるライブラリも存在します。中でも有名なのが FingerprintJS です。
このライブラリを使えば、npmでインストールして数行のコードを書くだけで、以下のような処理が簡単に実現できます。
-
ユーザーのブラウザやOS情報
-
CanvasやWebGLの描画差異
-
インストール済みフォントやプラグイン
-
その他、環境に依存するあらゆる“癖”
つまり、特別な知識がなくても、誰でも指紋のような識別子を生成できてしまうというわけです。
実際に自分の指紋的情報がどれほどユニークかを試してみたい方は、FingerprintJSのライブラリを確認してみるのも面白いかもしれません。
ここまで、Cookieやそれに代わる技術によって、ユーザーの行動が「識別」されていることを見てきました。では、実際にそれらはどんな場面で使われているのでしょうか?
この章では、実際のトラッキングツールがどのようにユーザーの行動を収集・分析しているのかを簡単に覗いてみましょう。
Google Analytics(GA)のしくみ
Google Analyticsは、Webサイト上のユーザー行動を幅広く記録するためのツールです。
ページの閲覧(ページビュー)はもちろんのこと、クリックやスクロール、ページ遷移の流れなど、サイト上の動きをイベントとして追跡できます。
従来のUniversal AnalyticsではCookieに依存していましたが、現在主流となっているGA4では、Cookieが使えない状況でも“ユーザーらしさ”を推定する機能が強化されています。
これにより、規制が強化される中でも、ユーザーの行動を継続的に把握する設計がされています。
Client ID と User ID の違い
GAなどのツールでは、「誰が何をしたか」を識別するために、複数の識別子を使い分けています。その中でも特に重要なのが、Client ID と User ID です。
Client ID
Client IDは、ブラウザごとに割り当てられる匿名の識別子です。通常はCookieを使って保存され、再訪問時にも同じ人物だと識別するために使われます。
ただしこのIDは「ブラウザごと」に発行されるため、同じ人でも端末が変われば別人扱いになります。たとえば、PCとスマホで同じサイトを見ても、それぞれ異なるClient IDが発行されます。
User ID
一方、User IDは、Webサービス側がログインユーザーに対して独自に発行するIDです。これにより、異なる端末でも「同一人物」として扱うことができます。
たとえば、Amazonのようなログイン型サービスでは、スマホからアクセスしてもPCからアクセスしても、すべてが同じユーザー行動としてひとまとめにされるわけです。
つまり、Client IDは端末単位、User IDは人単位という違いがあります。
Meta PixelやMixpanelなどの他ツール
Google Analytics以外にも、ユーザーの行動を把握するためのツールは多く存在します。
例えば、
これらも基本的には JavaScript 経由でユーザーの操作を取得し、サーバーに送信して行動履歴を蓄積するという構造になっています。
さらに最近では、セッションリプレイと呼ばれる新しいアプローチも注目されています。これは、ユーザーのスクロール、クリック、入力などをそのまま録画するように記録し、あとから「再現」できるというものです。
「このユーザーはなぜ途中で離脱したのか」「どこで操作に迷っていたのか」といったことを、まるでその場にいたかのように後から確認できるのが特徴です。
ツールごとの目的や粒度に差はあれど、「あなたが何をしたのか」をできるだけ正確に知ろうとする点では共通しています。
これらのツールでは入力内容のマスキングなどが施されていることが多いですが、ユーザーとしてもそうした仕組みがあるという前提で行動する意識は持っておいて損はないかもしれません。
ページ遷移でも情報は伝わるReferer
ユーザーの行動が記録されるのは、トラッキングツールを使っているときだけとは限りません。
実は、ページを移動しただけで「どこから来たのか」が相手に伝わっていることがあります。
これは Referer(リファラ) と呼ばれる仕組みによるものです。Webブラウザは、あるページから別のページへリンクをクリックして移動する際、元のページのURLをHTTPリクエストに含めて送信する仕組みになっています。
たとえば以下のような形です。
Referer: https://example.com/article/ai-tracking
この情報を受け取った側では、「どのページにリンクがあり、どこから訪問があったか」を把握できます。リンク元のURLに検索ワードやユーザーIDなどが含まれていた場合、それらが意図せず共有されるリスクもあります。
もちろん、すべてのケースで悪用されるわけではありませんし、マーケティングや分析のために使われていることが多いですが、予期せぬ情報漏れが発生する可能性があることは知っておいたほうがいいでしょう。
ここまで、ユーザーの行動がどのように収集され、識別されているかを見てきました。では、こうした追跡技術に対して、社会やテクノロジー側はどのように対応しているのでしょうか?
この章では、世界各国のプライバシー保護に関する法制度と、主要ブラウザによる技術的な対応を紹介します。
世界のプライバシー規制
近年、個人の行動データをどう扱うかについて、世界的に規制の動きが強まっています。
GDPR(EU)
EUの一般データ保護規則(General Data Protection Regulation)は、「個人が識別されうるあらゆるデータ」に対し、本人の明確な同意がなければ収集してはならないと定めています。
Cookieの使用も対象となり、多くの欧州サイトで「Cookieを許可しますか?」と尋ねられるのはこの影響です。
CCPA(米)
アメリカでは州ごとに法律が異なりますが、カリフォルニア州のCCPA(California Consumer Privacy Act)では、ユーザーが自分の情報収集に対してオプトアウトできる権利が保障されています。
企業は「このサイトはあなたの情報を収集しています。拒否しますか?」といったリンクを表示する義務があります。
日本の個人情報保護法
日本でも近年改正が行われ、Cookieのように個人識別性を持つ情報が「個人関連情報」として明記されるようになりました。本人同意のない第三者提供は禁止され、情報の扱いに対する透明性が強く求められるようになっています。
ブラウザの追跡対策
こうした法規制の流れに呼応するように、各ブラウザも独自の追跡防止機能を実装しています。
Safari:ITP(Intelligent Tracking Prevention)
AppleのSafariは早期からプライバシー保護を重視しており、ITP(インテリジェント・トラッキング・プリベンション)という仕組みにより、3rd Party Cookieを自動的にブロックしています。
一部のCookieは24時間で削除されるなど、非常に厳格な制限を設けています。
Firefox:ETP(Enhanced Tracking Protection)
Mozilla FirefoxもETPと呼ばれる保護機能を搭載しており、既知のトラッキングドメインやフィンガープリントを検出して自動で遮断する機能が有効になっています。
デフォルトでONになっている点も特徴です。
Chrome:2025年に3rd Party Cookie廃止予定
市場シェアが最も高いChromeも、2025年中に3rd Party Cookieを段階的に廃止する方針を打ち出しています。ただし、完全な代替手段が未整備であることから、広告事業者などとの調整を図りながら慎重に進められています。
FLoCやTopics APIといった新しい仕組みの提案もなされていますが、プライバシーと利便性のバランスは今なお議論の的となっています。
⚠ 技術の進化と並行して、法制度やブラウザの仕様も大きく変わりつつあります。これまで当たり前のように使われてきたCookieベースの追跡手法は、徐々に制限されていく方向にあると言えるでしょう。今後のWeb開発では、ユーザーのプライバシーとサービスの利便性、その両立をどう実現するかがより重要になってきそうです。
ここまで見てきたCookieやトラッキングスクリプトは、基本的にWebブラウザ上での動きを対象にしています。しかし、ユーザーの行動を追跡する手段は、それだけにとどまりません。
たとえば、メールを開封したかどうかを知るための手法や、Webサーバーが自動で記録する情報など、ブラウザの外側でも行動が観測されていることがあります。
ピクセルトラッキング
メールの本文に、見た目にはわからない1×1ピクセルの透明画像が仕込まれていることがあります。
これが読み込まれると、その時刻や使用している端末情報、メールを開いたIPアドレスなどが送信元に伝わります。
HTMLメールを有効にしていると、特に気づかないうちに情報が取られていることも。
ビジネス用途ではメールマーケティングに使われることが多いですが、ユーザーの意図しないトラッキングにあたるため、プライバシー的にはややグレーゾーンとも言えます。
リダイレクトURLでリンククリック
メール本文中のリンクが、実は tracking.example.com
を経由するようなリダイレクト形式になっていることもあります。クリック時に一度トラッキングサーバーにアクセスさせることで、
-
どのリンクをクリックしたか
-
クリックした時間帯やIPアドレス
-
使用端末やOSの種類
といった情報が記録されます。
この方法はピクセルトラッキングと組み合わせて使われることも多く、開封・クリックの両方を可視化できます。
アプリ内のトラッキング
スマートフォンアプリにおける行動もまた、さまざまなツールで記録されています。
代表的なものとしては以下のようなものがあります。
これらのツールでは、アプリ内の画面遷移・ボタンのタップ・課金イベントなどを細かく取得可能です。
さらに、Cookieが使えない代わりにデバイスID(例:IDFA、AAID)やOSの情報などを用いたトラッキングが行われるため、Webよりも制限が少なく、正確な識別が可能な場面もあります。
Wi-Fiログ
リアルな場所でも、思わぬところで自分の行動が記録されていることがあります。たとえば、カフェや駅、ショッピングモールなどで提供されているフリーWi-Fiを使うと、接続ログに以下のような情報が残ります。
この情報は主に店舗側のマーケティングや混雑分析、再来訪率の測定などに使われますが、Web上の広告やキャンペーンと連携して活用されるケースもあります。
サーバーログからの情報取得
Webサーバーにアクセスすると、そのリクエスト情報がサーバーログとして記録されます。
たとえば以下のような項目が含まれます。
-
IPアドレス(どの地域・ネットワークから来たかの目安になる)
-
User-Agent(OSやブラウザの種類)
-
アクセス時刻、リファラ、アクセス元のページ など
これらはブラウザの設定で遮断することができず、基本的には常に送信されている情報です。
もともとサーバー運用やセキュリティ分析のために使われる情報ですが、組み合わせ次第ではユーザーの行動パターンや身元の推定にも使えてしまうため、扱いには慎重さが求められます。
ここまで、CookieやWebストレージ、フィンガープリント、さらにはメールやアプリに至るまで、私たちの行動がいかに追跡されているかを見てきました。
では、少しでも「見られにくくする」ためには、どんな手段があるのでしょうか?
大事なのは、完全に追跡されないを目指すよりも、どこまで許容するか、何を防ぎたいかを意識することです。
拡張機能の導入
まず手軽にできるのは、ブラウザの拡張機能を導入することです。代表的なものをいくつか挙げます:
- uBlock Origin
- 高機能な広告ブロッカーで、広告だけでなく多くのトラッキングスクリプトも遮断してくれます。
- Privacy Badger(Electronic Frontier Foundation提供)
- サイトごとの挙動を自動で学習し、「怪しい通信」だけをブロックしてくれるツールです。
- DuckDuckGo Privacy Essentials
- 検索エンジンで知られるDuckDuckGoが提供しており、追跡防止に加えHTTPS接続の強制やプライバシースコアの表示機能もあります。
こうしたツールを使えば、広告とともにCookie・スクリプト・リダイレクト経由の追跡などを一括で制限することが可能です。
ブラウザ選びと設定
使っているブラウザの種類や設定も、プライバシーに大きく関わります。
例えば、
- Brave
- トラッカーや広告をデフォルトでブロックしてくれるブラウザ。速度も速く、近年人気が上昇しています。
- Firefox(Electronic Frontier Foundation提供)
- 標準で「強化型トラッキング防止」機能があり、特にETagやフィンガープリントの対策にも力を入れています。
- Safari(Apple)
- Intelligent Tracking Prevention(ITP)により、3rd Party Cookieを制限する機能を持っています。
また、各ブラウザの設定で「Do Not Track(トラッキング拒否)ヘッダ」の送信を有効にすることもできます。ただし、これは“お願いベース”の仕組みであり、すべてのサイトが従うわけではない点には注意が必要です。
それでも残る限界
ここまでの対策でかなりの追跡は防げますが、完全に匿名化されるわけではありません。その理由は主に2つあります。
- フィンガープリントのような識別技術は、そもそも防ぎにくい
- ブラウザの種類や端末のフォント、画面サイズ、描画能力などの組み合わせは一意に近く、拡張機能でも完全に隠すのは困難です。
- 匿名であっても行動履歴は蓄積されていく
- たとえ個人名がわからなくても、「この人はこういう傾向がある」「この時間帯にこのサイトを訪れる」といった情報は十分に意味を持ちます。
⚠ つまり、「匿名だから大丈夫」ではなく、「どの程度まで見られるか、そしてそれを自分が許容できるか」が重要な視点になります。
「Cookieをブロックしておけば安心」
そんな認識ではもう不十分かもしれません。
今回紹介したように、私たちがWeb上、そしてそれ以外の場所でも、さまざまな形で“見られている”という現実があります。ただ、ここで言いたいのは「監視されていて怖いね」という話ではありません。
むしろ重要なのは、自分の行動がどのようにデータ化されているのかを知っておくことだと考えています。
そのうえで、自分は何を許容し、何を制限したいのか。
技術的にできることと、自分が納得できることのバランスを見つけていくことが、これからますます重要になっていくでしょう。
この記事が、プライバシーやトラッキングについて「ちょっと立ち止まって考えてみる」きっかけになれば嬉しいです。また、この機会に、フロントエンドやプロダクト設計において、こうした知識をどう活かせるかについても考えてみてはいかがでしょうか。
弊社Nucoでは、他にも様々なお役立ち記事を公開しています。よかったら、Organizationのページも覗いてみてください。
また、Nucoでは一緒に働く仲間も募集しています!興味をお持ちいただける方は、こちらまで。
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