2023年から2024年にかけて展開していたデビュー20周年にまつわるリリースやライブを経て、バンドとして新たなフェーズへと入ったASIAN KUNG-FU GENERATIONが、ニューシングル「MAKUAKE / Little Lennon」をリリースした。
表題曲の1つである「MAKUAKE」は、昨年8月にバンドの結成の地である神奈川横浜にある横浜BUNTAIで行われたアニバーサリーライブ「ファン感謝祭」で初披露された楽曲。作編曲家の小西遼(象眠舎、CRCK/LCKS)が管楽器アレンジを担当し、下村亮介が鍵盤で、谷口鮪(KANA-BOON)やAchico(Ropes)など総勢10名を超えるアーティストがコーラスで参加するなど、多くの仲間の力を得て完成した、晴れやかで祝祭感のある1曲だ。もう1つの表題曲は、“Born in 1976 ver.”として岸田繁(くるり)のプロデュースで再録された「Little Lennon / 小さなレノン」。なおメンバーと同世代の岸田もまた、アジカンとは深い縁を持つ“仲間”の1人である。
真面目に実直に、歩みを止めることなく音楽を作り続けてきたアジカン。彼らだからこそ生み出せたこの2曲はどのように制作され、完成に至ったのか? 「MAKUAKE」初披露の場となった「ファン感謝祭」(参照:アジカンの過去と現在が“誕生の地”横浜で交差、11年ぶり「ファン感謝祭」で高らかに響いた新旧27曲)について、メンバーに振り返ってもらうことから今回の取材は始まった。
取材・文 / 天野史彬撮影 / 山崎玲士
「とにかくいい曲を作って、お客さんを驚かせたい」
──ASIAN KUNG-FU GENERATIONは一昨年から昨年にかけてメジャーデビュー20周年を記念した活動も多かったかと思います。特に「Single Collection」のリリースや「ファン感謝祭」「ファン感謝サーキット」といったライブの開催は、バンドの歴史やファンの方々へ目を向ける機会になったのではないかと思いますし、そこで得た実感は新曲「MAKUAKE」にも色濃く反映されているのではないかと感じました。
後藤正文(Vo, G) 「MAKUAKE」はもともと横浜BUNTAIでの周年イベント(「ファン感謝祭」)のために書いた曲なんです。これはメジャーレーベルに所属するバンドのよくないところでもあるけど、どうしても普段はタイアップに追われてしまうところがあって、まっさらな、何にも縛られない状況で新曲を作り出すことが減ってしまう。そういう意味では、「MAKUAKE」はひさしぶりに何にも追われず、「アルバムの1曲を作らなきゃ」みたいな創作的な狙いもなく、「とにかくいい曲を作って、お客さんを驚かせたい」という気持ちで作った曲でした。思い起こせばライブハウスだけでやっていた、音源も自分たちでCD-Rに焼いていたインディーズの頃なんて、ライブの現場で新曲を卸して、その場での反応がよくないと曲自体が残っていかなかった。僕らの初期のアルバムにはそうやって残った曲ばかり入っていたんですよね。「君という花」も「遥か彼方」もそう。「MAKUAKE」はその頃のことを思い浮かべながら作りました。ライブに来た人に、「まだ音源になってないけど、めちゃくちゃいい新曲聴いたな」と思って帰ってもらえればよかった。
──実際、ライブで初披露したときの手応えはいかがでしたか?
後藤 「めっちゃいい曲だな」と思いながら演奏してましたね(笑)。普通に、本当に、いい曲だなと思って。しかも、初披露した場所が横浜でしたからね。今、BUNTAIがある場所って、僕らが一応通っていた大学の入学式の会場があったんです。その場所で「歩み抜いた道のりを思い起こせば」と歌い始めるのは、エモーショナルなことですよね。グッときました。僕の歌詞って、書き始めた頃はわりと抽象的な表現が多かったんです。「リライト」なんて、自分でも何を言っているかいまだにわからないですから。「消してリライトして」なんて、カラオケで歌ったって誰も「いい歌詞だ」なんて思わないだろうし。
喜多建介(G, Vo) (笑)。
後藤 でも「MAKUAKE」は、演奏しながら言葉が追いついてくるというか、歌っている内容を噛み締めながら演奏できました。演奏が終わってステージを降りてから、自分の言葉とメロディの距離が昔より縮まっているんだなって、しみじみしましたね。
──「MAKUAKE」の歌詞は、つづられている言葉自体はとてもシンプルですよね。
後藤 そうですね。てらいなく、まっすぐ書けているなと思います。
──喜多さん、伊地知さん、山田さんは、周年イヤーと「MAKUAKE」をBUNTAIで披露されたときのことについてはいかがですか?
喜多 僕もBUNTAIでは感動しながら演奏してましたね。そもそも「『ファン感謝祭』のために新曲を用意しよう」というのは、ゴッチの提案だったんです。その気持ちとか、曲を作り出す動機がすごく素敵だなと思って。最初のデモの段階では、Aメロがもうちょっとライトな、明るめの感じだったんですよ。僕はそっちも好きだったんです、アジカンにとって新しい感じで。でもいろいろと経て、今のような語りかける始まり方になってよかったなと思います。この始まり方じゃないと名曲にはならなかったと思う。
伊地知潔(Dr) レコーディング前の「MAKUAKE」をBUNTAIで初めて演奏したとき、まず歌詞が頭の中に飛び込んできて、すごくリアルに感じたんです。昔は、ゴッチの歌詞が自分のリアルとあまりつながらない曲が多かったんですけど、「MAKUAKE」は、演奏しながら自分たちが歩んできた道のりが思い浮かぶ。そういう経験をBUNTAIでしましたね。
山田貴洋(B, Vo) 周年に向けて作った曲のタイトルが「MAKUAKE」というのがいいですよね。BUNTAIで演奏したとき、モニターには巨大な「MAKUAKE」という文字が出たんですけど、それによって説得力も生まれたし、お客さんが曲を受け入れてくれたのもうれしかった。去年は「ファン感謝祭」と「ファン感謝サーキット」があって、本当にたくさんの人に支えられているんだなと実感した1年でしたね。特に「サーキット」はライブハウスツアーだったので、改めてファンの人たちと対峙できたのはよかったです。
生きるということは「今から何をするか」だけ
──「MAKUAKE」の歌詞についてもう少し伺うと、初期にあった観念的な歌詞の質感とは違う、しゃべっていることや目に入った景色がそのまま言葉になっているような内容だと思いました。そして、アジカンというバンドや後藤さんご自身の人生を歌っているようであり、この曲を聴いた1人ひとりの人生も重ね合わせることができるような歌だと思います。
後藤 「MAKUAKE」の歌詞の朝方や夕方の描写は、会社員をしながら音楽活動をやっていた頃の自分の原風景でしかないんですよね。でもこの曲はそれだけじゃなくて。最近周りで音楽をやっている人たちを見てると、精神的に参っている人がいたり、調子が悪くなっちゃう人もいて。彼らの背中を押したいという気持ちもありました。みんな過去の失敗にとらわれたり、捕まったりするものだと思うんですけど。僕もそういう思考に陥ってしまうことはあるけど、過去を書き変えるような形で何かを取り返すことは、本当にできない。結局は、人生は「今から何をやるか」でしかないんだよなって。だから、過去を嘆いて滅入ってしまっている人たちに、「大丈夫だよ」って言いたかったんです。生きるということは「今から何をするか」で、その積み重ねが自分たちの道筋になっていくわけだから、またそれを作っていけばいいんだよって。そんな歌になったらいいなと思ってました。聴く人たちが少しでも励まされるものであるならば、自分が音楽を作る意味はすごくあるなと思って。
──今おっしゃった未来への目線は、1月にリリースされたシングル曲「ライフ イズ ビューティフル」にもありましたよね。「ライフ イズ ビューティフル」では「未来は僕らの手の中」というTHE BLUE HEARTSの楽曲からの引用もありましたが、今の後藤さんが書く歌詞は、困難な現状や目を背けることのできない痛みを前提に、どうやって未来を見出していくか?という部分にフォーカスされているように感じます。
後藤 この混沌とした時代のことは、曲を作っていたら絶対になんらかの形では入ってきちゃうんですけど、そのうえで、「自分は何をすればいいのか?」と考えるんです。自分たちが楽しく音楽を演奏している間にも、パレスチナの人たちは虐殺されていて、戦争は終わらない。ハリウッド映画にしろロックにしろヒップホップにしろ、多くの日本人がアメリカの文化に憧れてきたけど、そのアメリカでは世界を混乱させているドナルド・トランプが大統領になっているような状況がある。……なんとも言えない気持ちになるんですよね。そういう時代に表現をするのであれば、自分は何を鳴らすのか?ということは、考えなきゃいけない。その気持ちは今の自分たちの曲にたくさん入っていて、「私は絶望しています」みたいな歌はもう、わざわざ歌わなくてもいいでしょって。絶望なんて、みんな感じてるんだから。そんな中で楽天的な歌は歌えないけど、それでも、生きていることや、未来とか社会に希望を見出していかないとやっていけないよなと。それを歌うことが、このクソみたいな時代に抗う1つの手段だと思って、最近は歌詞を書いていますね。
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齟齬が生まれていくところにバンドの魅力がある
🧠 編集部の感想:
ASIAN KUNG-FU GENERATIONの新曲「MAKUAKE」のリリースは、彼らの20年の歴史を振り返る良い機会となっています。ライブ初披露のエモーショナルな背景が曲に深みを与え、聴く人々に共感を呼び起こすことでしょう。「今から何をするか」というメッセージが、困難な時代に生きる私たちに希望を与えてくれます。
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