EUの行政執行機関である欧州委員会が、AppleとMetaがEUのデジタル市場法(DMA)に違反したとして、それぞれ5億ユーロ(約810億円)と2億ユーロ(約324億円)の制裁金を課すことを発表しました。調査は以前から進められていたものですが、関税問題を巡るトランプ政権との交渉に影響を与えないよう、制裁金を決定する委員会の開催が延期されていました。
Commission finds Apple and Meta in breach of the Digital Markets Act
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_1085
欧州委員会の発表によると、Appleの違反内容は「App Storeを介してアプリを配信するアプリ開発者が、App Store以外の代替オファーを無料で顧客に通知し、オファーに誘導して購入できるようにできるようにする」という義務を順守していないというもの。
Appleがアプリ開発者に対して多くの制限を課しているため、アプリ開発者は代替配信チャンネルのメリットを生かせず、また、代替オファーの直接通知をAppleが妨げているため、消費者が安価な代替オファーにより十分な利益を上げられなかったことが指摘されています。
一方、Metaの違反内容は、「サービス間で個人情報を組み合わせる場合、ユーザーの同意が必要。同意しないユーザーはパーソナライズされていない同等の代替手段にアクセスできる必要がある」という内容が守られていないというものです。
Metaが2023年11月に導入した「支払いか同意するか(Consent or Pay)」モデルは、FacebookとInstagramのユーザーに対して、無料で使用する代わりにパーソナライズされた広告表示のため個人データを組み合わせることに同意するか、お金を支払うことで広告なしのサービスを利用するかを求める内容でした。Metaは当該モデルについて消費者保護法違反の可能性を指摘されたのち、2024年11月に広告表示時に使う個人データの量を減らした選択肢を用意しています。
FacebookとInstagramの「支払いか同意するか」モデルが消費者保護法に違反する可能性があるとEUがMetaに通知 – GIGAZINE
Metaのジョエル・カプラン氏は欧州委員会の決定に対し、「欧州委員会は中国とヨーロッパの企業が異なる基準のもとで事業を展開することを認める一方、成功を収めるアメリカの企業に対してハンディキャップを課そうとしています。これは単なる制裁金の問題ではありません。欧州委員会によるMetaのビジネスモデル変更強制は、事実上、数十億ドル(数千億円)単位の関税を課すのと同等であり、質の低いサービスの提供を要求するものでもあります。また、欧州委員会はパーソナライズされた広告を不当に制限することで、ヨーロッパの企業や経済にも打撃を与えています」と、不満を表明しています。
Meta’s Statement in Response to the European Commission’s Decision on the Digital Markets Act | Meta
https://about.fb.com/news/2025/04/metas-statement-in-response-to-the-european-commissions-decision-on-the-digital-markets-act/
ホワイトハウスの報道官も「DMAは差別的です。アメリカは、このような新たな形の経済的恐喝を容認しません。特に、アメリカ企業を対象として、弱体化させ、イノベーションを抑え込み、検閲を可能にするような域外規制は、貿易の障壁であり、自由な市民社会への直接的脅威だとみなします」と、Metaと同様のコメントを発表しました。
US calls EU fines on Apple and Meta ‘economic extortion’ | Reuters
https://www.reuters.com/sustainability/boards-policy-regulation/us-calls-eu-fines-apple-meta-economic-extortion-2025-04-23/
欧州委員会の競争政策担当上級副委員長であるテレサ・リベラ氏は「この決定は強く明確なメッセージを送るものです。デジタル市場法は、デジタル分野の企業が競争可能で公平な市場で活動できるようにすることで、潜在力や選択肢、成長を引き出すための重要な制度です。ヨーロッパの消費者を保護し、競争条件を公平にするものです。AppleとMetaは、ビジネスユーザーと消費者のプラットフォーム依存を強めるような施策を行い、DMA順守を怠りました。その結果、我々は両社に対し、明確で予見可能なルールに基づき、断固とした、そしてバランスの取れた強制措置を講じました。EU域内で活動するすべての企業は、EUの法律に従い、ヨーロッパの価値観を尊重しなければなりません」とコメントしています。
なお、両社には60日以内の制裁金支払いが求められ、もし期限内に支払いが行われなかった場合、追徴金を求められる可能性もあるとのこと。DMA違反は重大なものだと「年間売上高の最大10%」の制裁金が科され、改善されない場合は「最大20%」が科されると定められていますが、今回の制裁金の額は両社にとっては年間売上高の1%に満たない額です。
こうした制裁金の額について、Googleの場合は2024年に合計で4000億円以上を科されているものの、売上高からみればごくわずかで、抑止力として機能していないという指摘があります。
Googleは2024年に総額4000億円以上の罰金を科せられたがわずか16日で稼げる額に過ぎないので意味がない – GIGAZINE
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