AK-69が代表曲「START IT AGAIN」の名を冠した初の著書を刊行。さらに同曲のリミックスを収めたアルバム「My G’s -Deluxe Edition-」をリリースした。
これまでに楽曲制作をしたことのないアーティストやプロデューサーとタッグを組んで作り出したコラボレーションアルバム「My G’s」を1月にリリースしたAK-69。「My G’s -Deluxe Edition-」はこのアルバムのデラックスバージョンであり、代表曲「START IT AGAIN」のリミックスでは、BAD HOPのリーダーであったYZERRを客演に迎えている。
BAD HOPのラストアルバム収録曲「SOHO」でも明かされている通り、YZERRとの間には特別なストーリーがあったというAK-69。音楽ナタリーでは、YZERRとのコラボや初の著書刊行の経緯について知るべく、彼にインタビューを行った。日本のヒップホップシーンがかつてない規模に成長する中、AK-69は何を感じているのか。シーンの現状と課題を熱く語った彼のメッセージに注目だ。
取材・文 / 渡辺志保
──まずは、今年の1月にリリースされたアルバム「My G’s」についても改めて伺えますか? Chaki Zuluがトラックを手がけたSEEDAとの表題曲「My G’s」や、dj hondaがプロデュースしたILL-BOSSTINO「道」といった象徴的なコラボ曲も話題になりました。
自分の中にずっとあるブループリントを形にしたという感じですかね。前回のアルバム「THE RACE」から3年半ぐらい経つんですけど、その間にも¥ellow BucksとのコラボプロジェクトAK¥Bだったり、新曲だったり、常に制作は続けていて。その中で、「自分のフルアルバムをあと何枚作れるんだろう」と思うようになったんです。ベスト盤を出すアイデアとかもあるんですけど、中長期的なプランを考えていく中で、今回は、今まで組んだことのないプロデューサーたちと組んで、新しい自分を引き出してもらいたい。そんな思いで作り始めた。「テーマありきじゃなく、ワクワクするから作りたい」という思いもあるし、「次のフルオリジナルアルバムが最後になるかもしれない」という思いもある。そんな流れを見据えながら、制作に向き合いましたね。
──アルバムの冒頭を飾るSEEDAとの「My G’s」では、いわゆる日本語ラップ界のレジェンドたちへのネームドロップが象徴的ですよね。MICROPHONE PAGERやSHAKKAZOMBIE、BUDDHA BRANDまで。正直、感慨深さと同時に意外さもありました。
SEEDAと一緒にやるとなって「何を歌おうか」と考えたとき、日本語ラップへのシャウトアウトみたいなものが自然に浮かんできたんです。俺自身、日本語ラップシーンで生きてきたわけですけど、かつては交わらなかったシーンとも、時間が経てば交わることが増えてきた。SEEDAとも、イベントで顔を合わせたり話したりはしてたけど、一緒に曲を作るテンションにはなかなかならなかったんです。でも、お互い時間をかけて歩んできたからこそ、今、交われたんだと思う。交わらなかったシーン、交わらなかった人たち──でも、みんなでシーンを作ってきた。そのことを、今は素直に感じられるようになったんですよね。Chaki(Zulu)くんとスタジオに入って話してたときも、「これは縁ですね」って言い合って。日本語ラップシーンでこれまで出会ってきた人も、まだ出会ってない人も、全部含めて俺を形成してくれたんだなって、改めて思ったんです。
──「My G’s」のフックは自然とできたものですか?
Chakiくんと一緒に、「じゃあ、みんなの名前並べてみようか」という流れで、語呂も考えながら並べていって。わりとすぐ形になりましたね。もちろん、リリックに入れたかったけど入れられなかった人もいる。でも、だからと言ってそこに何か意図があるわけじゃないし、MSCやSCARSは、当時直接絡みがあったわけじゃないんです。それでも、その人たちとの縁があって今の自分がいる、ということを伝えたかった。
──かつてのAKさんのスタンスとしては、あえて東京のシーンから距離を置くというか、地元・東海地方のシーンを中心に表現している印象もありました。なので、こうして具体的なネームドロップを交えて国内のシーンを総括するような内容が新鮮に思えて。
昔は「東京のシーンなんて関係ねえ!」と思ってた時期もありましたけど、今考えるとめちゃくちゃ関係ありましたね(笑)。いわゆる“ヒップホップ氷河期”を走り抜けてた頃、「東京なんかの世話にはならねえ」って思ってたけど、結局、めちゃくちゃ影響を受けていたんですよ。これって結局、人間の経験値みたいなものなんですよね。中途半端な時期って、あんまり“気付き”ができない。トップに上がっていくときに感じることとか、言い切ったあとで立ち返って思うこと、フェーズによって見えるものが違う。BOSSくん(ILL-BOSSTINO)との「道」という曲もそうで。彼とdj hondaさん、そして俺は両極端な存在だったと思うんです。ここに至るまで全然違う道を走ってきたけど、だからこそ、このタイミングで交差できた。実際にBOSSくんと対談してみて思ったけど、これまで違う場所にいたようで、実はすごく似た感覚を持って歩んできたんですよね。
“人気者になりたい”っていうフェーズはとっくに終わってる
──アルバムを聴いて、AKさんが伝えたいメッセージがよりシンプルで本質的なものになっているのかなとも感じました。1周回って、削ぎ落とされたメッセージが詰まっているというか。
今の若い子たちって「とにかくなんでもいいから名前を売りたい、SNSでバズりたい」っていう流れになっているように感じるんです。手段を選ばず、とにかく有名になりたいという。それ、めちゃくちゃよくないと思ってて。俺たちは、本質を突き詰めた先に評価を得たわけですよ。どういうことかと言うと、俺たちはアーティストだから、作品やライブを突き詰めた結果、地位や名声、そして結果的にお金もついてきた。最近はそうじゃない手段で名を上げようとする流れがあって、それがすごく残念だなと感じる。
AK-69
──確かに。
SNSでもそうで、フィルターをかけまくった写真の中の自分が“本当の自分”になってしまっているんじゃないかと思うんです。実際に会ってみると、まるで“フィルターがないと自分じゃない”みたいな、自信なさげな子も多くて。それってマジで現代病だと思います。俺自身のことで言うと、もう“人気者になりたい”っていうフェーズはとっくに終わってるんです。17歳で音楽始めた頃は、女にモテたかったし、街で声をかけられたかった。それはもう、達成している。そのうえで、インフルエンスを持った今、何をしたいか。ただフォロワー数が欲しいわけじゃない。俺は音楽に救われた人間だから、こういう世の中だからこそ、少しでも何かメッセージを届けたい。それを支えてくれる仲間たちと、人生を変えうるエンタメを放っていきたい。それが今、俺たちがチームでやってることなんです。
──「My G’s」にはベテランもいれば、若手アーティストらも多く参加している。幅広いゲストが集結したアルバムですが、リリース後の反響はいかがですか。
今回は、同業者とか昔から俺を見てくれている先輩たちとか、特に評価が厳しい人たちから、すごくいい反応がありましたね。「やっぱり、これだよな」っていう感想が多かった。ヒップホップのよさってこうだよな、という原点みたいなところを評価してくれているのかなと感じます。今の俺だからこそ言えることを曲に落とし込んでいる。だからこそ、どっしりしてるというか、「今のAKだから、このアルバムができたんだな」ってすごく言われますね。
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──今年は特に、日本のラッパーたちが日本武道館のステージでワンマンライブを開催することも増えましたし、大規模なヒップホップイベントも各地で行われています。こうした状況を、今のAKさんはどう捉えていらっしゃいますか。
よくも悪くも今、日本にはヒップホップ最大のブームが来ていて、しかも去りそうな雰囲気がある。ブームによる最後のボーナスがみんなに訪れているところで、この“ブームボーナス”がなくなったときに、問われるものがあるんじゃないかとも思いますね。例えばラッパーが初めて武道館に立つということは、それまでの活動の結果が1つ実ったということだけど、今のブーム的要素が重なって、こんなにたくさんのアーティストが同時期に武道館のステージに立つことができる状況になるんだな、と。でも、みんなに知ってほしいのは、「これが通常ではない」ってことなんです。ここからさらに武道館に立つヒップホップアーティストが増えると思いますけど、おそらく2025年の後半にもなると「また武道館か」という空気が生まれてくるんじゃないか。それはとても怖いことで、ブームが去った瞬間に問われるのは“本質”なんです。

AK-69
──なるほど。
例えば、自分のファン以外の人たちの前に放り出されて、ライブをやったときに『すげえな』って言わせられるラッパーが何人いるのかという話なんですよね。そこをクリアできなかったら、日本のヒップホップブームは終わっていくと思います。自分のことを上げたいわけじゃないですけど、俺はロックフェスのサブステージに出るときも、万全の準備をしてからライブをしてました。会場に着いたら走り込みをしてウォーミングアップをして、誰よりも用意してました。それくらい、自分のファンがいないところでもどれだけやるかを心がけていましたし、海外に行ったときはもっとそれを強く意識しました。S.O.B.’s(ニューヨークの老舗ライブハウス)でやったHOT97(ニューヨーク最大のヒップホップラジオ局)のイベントは黒人ばっかりのクラウドだったし、どうやって自分の曲で戦えばいいの?という気分でしたけど、そこは“人対人”として、エンタテイナーとしてどうやって人の心をつかむのか、本気で考えて挑んだんです。自分のことを知っていて「わー!」と騒いでくれる人の前でやるライブとは違う。そうした状況ももちろんありがたいですけど、そこだけを見ていても意味はない。これこそ、今のヒップホップの課題だと思います。
──そうですね。
来年、ヒップホップのライブ現場が閑散としているか、1つのカルチャーとして評価されるかはみんなの素養にかかっていると思います。アーティストとして、どれだけ鍛錬できるかということ。言葉を飾らずに言うと、レベルが低いんです。ファッション的なことでしかないというか。チートは全部抜かないとダメですね。
YZERRとは出会う前から、音楽でつながっていた
──このたび、AKさんが2012年にリリースした「START IT AGAIN」にYZERRさんを迎えたリミックスバージョンがリリースされました。オリジナルの楽曲は現時点でMVが1900万回以上の再生数を誇る代表曲ですが、なぜ、今この楽曲をリミックスすることになったのでしょうか。
書籍を出版する話が出たときに、ピンと来たんです。本のタイトルは「START IT AGAIN」にしようと。そして、書籍を通して若者──特に不良少年たちに向けて何か啓発できたら、という思いがあって。そこがスタート地点でした。でもやっぱり、俺にとっては音楽が基盤なんです。そして「START IT AGAIN」という曲は、俺のマスターピースだと思っていて。その曲がメインで、書籍はあくまで曲に“付いてくる”もの。「曲に書籍が付いてる」っていう形にしたかった。そこで、次世代の若者に向けるのであれば、その世代のカリスマ、かつ「何も持たなかった者が、何かを持てるようになった」というメッセージを象徴する人物と一緒にリミックスを作りたいと思った。そう考えたときに思い浮かんだのがYZERRでした。彼らの解散ライブのときにできた「SOHO」という曲もそうだし、俺はYZERRと出会う前から音楽でつながっていたんですよね。
──「SOHO」でYZERRさんがAKさんとの出会いを歌っていますよね。
自分で言うのもおこがましいですけど、あいつはもともと俺のファンでいてくれて、俺が以前やってたファン限定ブログを、毎日更新されるのを楽しみにしてくれていたらしいんです。兄のパブロ(T-Pablow)が「高校生ラップ選手権」で優勝したり、メディアで注目が集まり始めたときには、弟であるYZERRが地元のしがらみを背負うことになり、家にも帰れず、橋の下で寝泊まりしてた時期もあった。そんなときに「START IT AGAIN」を聴きながら泣いていたらしくて。それで彼がニューヨークに住むおばさんを頼ってアメリカに渡ったときに、現地で「イケてる日本人がいるな」と見ていたら、ニューヨークのソーホーを歩いている俺だったという(笑)。それを見て「俺もあんなふうになりてえ」と思ってくれたらしく。そんなふうに、俺と面識ができる前から音楽でつながってくれていた若者が、BAD HOPとして成り上がり、自分の夢を叶えた。「START IT AGAIN」のリミックスをやるなら、もう彼しかいないと思ったんです。実際、YZERRにこの話を断られたらリミックス自体、やらないつもりでした。
🧠 編集部の感想:
AK-69のインタビューを読み、彼の音楽に対する真摯な姿勢が印象的でした。特に、過去の出会いや経験が彼を形成してきたという考え方に共感しました。ヒップホップシーンのブームに対する冷静な視点も、アーティストとしての責任感を感じさせます。
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