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2025年5月19日,NVIDIAは,5月20日から23日にかけて台湾・台北市で行われる大規模展示会「COMPUTEX 2025」に先駆けて開催した基調講演で,NVIDIAのCEOであるJensen Huang(ジェンスン・ファン)氏が登壇して,同社の取り組むAI技術と関連するサーバー製品について紹介した。
ゲーマー向けGPUに関する話は,ほとんどなかったが,本稿では,基調講演でHuang氏が語ったことの中から,読者の関心が高いであろうテーマを抜粋してお届けしよう。
人類にとって新しいインフラ産業となったAI
講演冒頭でHuang氏は,NVIDIAの歴史と役割を語り,それが「人類文明の発展と変遷に深く関わりがある」という,壮大なメッセージを披露した。
19世紀中期から20世紀初頭にかけて,人類は得体のしれない新技術に直面した。それは何かというと,「それは電気(Electricity)だ」とHuang氏は述べる。
当時は得体のしれない存在だった電気も,20世紀には人類にとって必須なエネルギーのインフラストラクチャ(以下,インフラ)として浸透した。
そして20世紀後半,新たな得体のしれない技術に人類は触れる。それは「情報だ」とHuang氏。曰く,1990年代から始まったインターネットの普及で,情報産業は人類にとっての新しいインフラに発展したというわけだ。
Huang氏は,「2006年に,NVIDIAがCUDAを世に送り出して,GPUコンピューティングを提唱したとき,多くの人々は,その重要性を理解できなかった」と語る。
その10年後の2016年,「NVIDIAが,初代のGPUベースのスーパーコンピュータ『DGX-1』を発表したころには,人々はAIの重要性に気が付き出す」と述べたうえで,Huang氏は,自信たっぷりに,目前の聴衆へ問う。「そして,2020年代の現在はどうなった?」
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笑い声が会場に響く中,Huang氏はすぐさま,「AIが21世紀の新しいインフラになりつつある」と答えるのだった。
2000年代に突入してから,新しい情報のインフラ設備としてのデータセンターは,情報(データ)の集積や配信を目的として広く設置が進んだ。しかし,2020年代からのデータセンターは,「今後はAIデータセンター,言い換えればAI工場(AI FACTORY)と呼ばれるものになっていくだろう」と,Huang氏は語気を強める。
「人類にとって,AIが新しいインフラになることとは,どういうことか。それは知性(Intelligence)がインフラになることを意味するのだ。AIデータセンターは,知性を生み出す工場となる」とHuang氏の熱弁は続く。
たしかに現在は,空前のAIブーム。このAIブームの立役者は,NVIDIAが始めたGPUの汎用用途ソリューション「GPUコンピューティング」(GPGPU)だ。NVIDIAは,GPUというプロセッサの開発企業として30年近くトップランナーを走り続けているが,AI分野の業界トップに君臨してからも,すでに約10年が経過している。
「AIインフラ企業のリーダーとしての使命を感じて,随分前から,NVIDIAは,半導体企業としては珍しいことを始めている。それは,かなり先までの未来のロードマップを明言することだ」とHuang氏は述べた。
インフラ産業は,世界各地にその普及を拡大,発展させていく義務があるため,この分野の従事者に対して,未来への見通しを提供しなければならない。Huang氏は,「だから我々は,Blackwellを数世代かけて進化させ,次世代GPUアーキテクチャのRubenへつなげていく方向性を明言してきたのだ」と語り,そのうえで「そのスケジュールは順調。予定どおりだ」と,冒頭のメッセージを語るパートを締めくくり,来場者からの拍手を受けた。
NVIDIAが発表した新ソリューションの数々
続けてHuang氏は,NVIDIAの現行製品の紹介と,登場したばかりの新製品のアピール,そしてCOMPUTEX 2025で発表となる製品や技術の紹介へと進んだ。
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ソフトウェア面では,「CUDA-X」と呼ばれる,NVIDIAのGPUプラットフォーム上で動くGPUコンピューティングライブラリの現状が紹介した。もともと科学技術支援分野で強みのあるCUDA-Xだが,近年では医療分野,そして半導体開発事業分野にもカバー範囲が広がったと,Huang氏は紹介していた。
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最新世代GPUであるBlackwellのエンタープライズ市場向けバージョンでは,膨大な数のBlackwell GPU同士を,超高速ネットワークに接続して,まるごとひとつの大きなGPUとして活用できるGPUスイッチソリューションを,NVIDIAは提供中だ。その中核となっているのが,高速インターコネクト技術「NVLink」だ。
NVLinkのBlackwell対応の最新版が「NVL72」となるのだが,今回のCOMPUTEX 2025では,他社が開発したさまざまなプロセッサやアクセラレータハードウェアをNVLinkに組み込めるようになる「NVLink Fusion」を,NVIDIAは発表した。
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これは,他社製プロセッサとNVIDIAのGPUを組み合わせたり,他社製プロセッサ同士を組み合わせたりといった,複合的かつハイブリッド的なシステムやASICを構築するための新ソリューションを提供するということだ。NVIDIAにとっては,NVLink Fusionも,今後の同社が力を入れて行く新分野になっていくようだ。
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続いてHuang氏は,「あなたのお部屋がAIインフラになるかもね」というメッセージを添えて,2025年1月冒頭に発表済みの「DGX Spark」を再び紹介した。
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「手の平の上に乗るBlackwell GPU搭載のミニスパコン」として発表となったこの製品が「フル量産に入っている。好調だ」(Huang氏)とアピールしたうえで,上位の新製品として「DGX Station」を発表した。
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そのほかにも,BlackwellベースのGPUを搭載したエンタープライズ向けのGPUサーバー「NVIDIA RTX Pro Server」や,AI時代のデータサーバーソリューション「VAST」,現実世界で活動できるAI搭載ロボット向けの超高効率学習プラットフォーム「NVIDIA Isaac GROOT-Dreams」なども,COMPUTEX 2025での初公開ソリューションとして紹介された。
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ゲーマー向けの新情報は5060無印について
PCゲーマー向けの情報は,無印の「GeForce RTX 5060」が5月19日にリリースすることが公言しただけだ。それ以外に新しい話題はない。
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GeForce RTX 5060は,すでに販売中の「GeForce RTX 5060 Ti」と同じ,Blackwell世代の「GB206」を採用する。
参考までにスペックを下記に示しておこう。
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理論性能値は,デスクトップ版のGeForce RTX 5060が約19.2 TFLOPSで,ノートPC版GeForce RTX 5060は約9.7 TFLOPSといったところ。先代の同クラスからの向上率は,GeForce RTX 4060からGeForce RTX 5060で約27%向上しており,そこそこの性能向上といったところか。
一方で,メモリバス帯域幅の向上率は,先代比で1.5倍以上の448GB/sとなっており,ここが見どころと言えよう。ちなみに448GB/sは,ちょうどPlayStation 5のメモリバス帯域幅に等しい。
北米市場におけるメーカー想定売価は,GeForce RTX 5060が299ドルだ。円安の影響もあり,国内での価格は5万円台後半くらいだろうか。
GeForce RTX 5060 Tiには,グラフィックスメモリ容量16GBモデルが存在したが,GeForce RTX 5060は,容量8GBのみというのは少々痛い。というのも,最近の大作系ゲームでは,12GB以上のグラフィックスメモリを要求するタイトルが増えてきているためだ。
とはいえ,NVIDIAの公式発表ではないものの,カードメーカー独自設計でGeForce RTX 5060の16GB搭載モデルが出てくる可能性が高いと予想する業界関係者は多い。あえてこのタイミングで買い替えるのであれば,16GBモデルを狙いたいところだ。
もし,GeForce RTX 5060の16GBモデルが,6万〜6万5000円前後あたりで販売されれば,ちょっとした台風の目になりそうなものだが……はたしてどうなるだろうか。
NVIDIAのCOMPUTEX 2025特設Webページ
🧠 編集部の感想:
NVIDIAの基調講演では、AI技術が新たなインフラとしての重要性を強調されており、これからの時代を見据えた革新的なソリューションが次々と発表されました。特に、AIデータセンターが「知性を生み出す工場」となるというビジョンには感銘を受けました。今後のAI市場がどう進化していくのか、非常に楽しみです。
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