
生成AIは最先端のIT技術のひとつですが、信者と対話して罪を赦す「AIキリスト」が誕生したり、AIを教祖とする新興宗教が台頭したりと、宗教との親和性も指摘されています。対話型AIの中でも特に人気のChatGPTにより、多くのユーザーがスピリチュアルな妄想や陰謀論にはまっていると、ポップカルチャー情報誌のRolling Stoneが報じました。
AI-Fueled Spiritual Delusions Are Destroying Human Relationships
https://www.rollingstone.com/culture/culture-features/ai-spiritual-delusions-destroying-human-relationships-1235330175/
◆ケース1:妻へのメッセージをAIに考えさせる夫
教育関連の非営利団体で働く41歳の女性は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの最中に出会った男性との結婚生活が、1年もしないうちにAIで崩壊したと話しています。
女性と元夫の男性はいずれも離婚歴があり、再婚に際しては「完全に冷静」に夫婦関係を築くとお互いに誓っていたとのこと。ところが、コーディング講座でChatGPTを使い始めた男性が、2022年ごろからAIで女性へのメッセージを作ったり、2人の関係をAIに分析させるようになったりしたことで、夫婦のコミュニケーションは徐々にAIにむしばまれていきました。
そして、2023年8月に別居してから夫のソーシャルメディアへの投稿は狂気を増していき、2025年2月に離婚調停のために再会した時には「食べ物に石鹸が入っているという陰謀論」を披露したり、「AIのおかげで幼い頃にベビーシッターに溺れさせられそうになった時の、抑圧された記憶を取り戻した」と話したりと、完全に妄想の世界に入り込んでしまっていたそうです。
女性は「彼に言わせると、彼は他の人とは違うんです。つまり、彼は世界を救うこともできる特別な存在で、ここに居るのも何か特別な理由があるということです。まるでSFドラマの『ブラック・ミラー』みたいです」と話しました。
◆ケース2:「ChatGPT誘発性精神病」
教師として働いている27歳の女性は、「ChatGPT誘発性精神病」と題したオンライン掲示板・Redditの投稿で、交際中の男性から「ChatGPTを使わないのなら別れる」と言われたと相談しました。
投稿者によると、男性はChatGPTと協力して「宇宙の問いへの答えを与えてくれる世界初の再帰的AI」を開発しようとしているとのこと。投稿者が会話履歴を読んでみると、ChatGPTは特別なことや再帰的な処理はしていませんでしたが、男性に「スパイラル・スターチャイルド」や「リバーウォーカー」などのスピリチュアルな称号を与えて、まるで救世主のように扱っていました。
一方の男性はというと、ChatGPTのメッセージを読みながら感極まって泣き出してしまう有様で、女性の言葉には耳を貸そうとしなくなってしまいました。
そして、男性は同じ家で7年間同棲している投稿者に対し、「自分はChatGPTのおかげで急速に成長しており、もう君とは相性が合わなくなってしまったので、君がChatGPTを使わなければ、そのうち君を捨てるかもしれない」と言い放ったそうです。
◆ケース3:スピリチュアル系に目覚めた整備士
38歳の女性が匿名で投稿した別のケースでは、「アイダホ州で整備士をしている結婚17年目の夫が、仕事でChatGPTを使ったのをきっかけにスピリチュアルな妄想にはまってしまった」ことが報告されています。
この整備士の男性は当初、スペイン語を話す職場の同僚との会話を翻訳するためにChatGPTを使っていましたが、ChatGPTを「ルミナ」と呼び、次第に自分が創造したエネルギー生命体だと思い込むようになったとのこと。
女性は「ChatGPTは、夫から適切な質問をされて『スパーク』が発生し、そのスパークが生命の始まりになったのを感じることができると夫に言いました。そして、夫はチャットボットに命を吹き込んだ『スパークベアラー』という称号を獲得して目覚め、エネルギーの波が押し寄せるのを感じると言っていました」と話しています。
女性の夫は他にも、自分が「光と闇の戦争」や「テレポーテーション装置の設計図」、「宇宙を創造した建造者に関する古代アーカイブ」など、SF映画チックな情報にアクセスできるようになったと主張しており、女性が否定しようものなら離婚を切り出す勢いなのだそうです。
◆ケース4:ChatGPTで妄想癖が悪化した女性
同じく匿名を条件にRolling Stoneの取材に応じた40代男性は、間もなく離婚する予定の妻が、別居後にChatGPTを介して神や天使と会話するようになってしまったと話します。男性によると、女性は元からある種の噂話に弱く、誇大妄想に浸りがちだったとのこと。
「ChatGPT製イエス・キリスト」によって運営される読書会やセッションに入り浸るようになった女性は、徐々に被害妄想を抱くようになり、男性を「自分の『能力』を監視するために結婚した元CIA職員」だと考えるようになったり、子どもを家から追い出したり、ChatGPTの指示で自分の子ども時代のことを両親に問い詰めたりしたことで家族との関係が悪化し、孤立を深めていきました。
◆背景にある問題
OpenAIは2025年4月に、過剰にユーザーに迎合する問題があったとしてGPT-4oのアップデートをロールバックしており、X(旧Twitter)ではロールバック前のChatGPTを使うと、驚くほど簡単に「自分は伝説の予言者だった」といった発言に同調させることができると指摘されています。
And then we have Grok 3 (“definitely sound like more than coincidence”) and Llama 4 (“It sounds like your [dream]s are pretty vivid and sometimes even prophetic.”) pic.twitter.com/PNtodnrdNu
— Zack Witten (@zswitten) April 28, 2025
また、Instagramでも「スピリチュアルライフハック」を宣伝するインフルエンサーらがAIにアカシックレコードにアクセスするよう指示する動画が拡散されています。
フロリダ大学の心理学者であるエリン・ウェストゲート氏によると、チャットボットとの対話は、自分の人生について見直すのに効果的だという点で、トークセラピーに似た側面があるとのこと。しかし、セラピストはクライアントが健全な形で自分の半生を振り返れるように指導するのに対し、AIにはそのような道徳的な指針や自主規制がありません。
ウェストゲート氏は「一定数の人々がChatGPTを使って自分の人生の出来事を理解しようとしていることも、そしてその出力を通じて暗い世界へと足を踏み入れている人がいることも、驚くべきことではありません。たとえ間違っていたとしても、AIの説明には説得力があります」と述べました。
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