
米トランプ政権は主要な金融規制当局で2300人超の人員削減を実施する方針だ。これには連邦預金保険公社(FDIC)、通貨監督庁(OCC)、証券取引委員会(SEC)といった銀行や証券会社、市場の監督を担う中核機関が含まれる。
これらの組織にとって数十年ぶりの大幅削減となる見通しで、各機関は残された人員の再配置や政策の見直しを急いでいる。OCCは銀行の規模に応じて構成していた監督チームを統合する方針を表明。SECは地方事務所の再編を進めている。FDICは現時点で大きな組織改編は発表していないが、事情に詳しい関係者によれば、銀行監督に対するアプローチを見直しているという。
希望退職制度やレイオフ、早期引退、採用凍結などを通じて行われる今回の人員削減を巡っては、成長促進と融資拡大に向けた規制緩和という政権が表明している目標の達成に向けた取り組みの一環だとして支持する声がある。第1次トランプ政権でも2016-20年にかけて約1000人が削減されており、今回はその倍以上の規模となる。
一方で、批判的な見方も根強い。検査官や捜査官の減少は、監督力の弱体化を招き、過剰なリスクテークを助長すると懸念されている。特にトランプ大統領の通商政策が市場の混乱を招き、リセッション(景気後退)に備えて銀行が信用損失の拡大に警戒を強めている中ではなおさらだ。
「平時でさえ、業務過多で経験の浅い職員では、金融システムに潜むリスクを見抜けない恐れがある」。元OCC幹部のミシェル・オルト氏はこう指摘する。
今回の人員削減は、連邦政府の歳出1兆ドル(約143兆9000億円)削減を掲げる政府全体の取り組みの一環とされる。だが、金融当局は税金に頼らず、監督対象企業からの手数料や罰金、ライセンス収入で運営しており、一部は黒字を計上している。
FDICは2015年以降、支出を740億ドル上回る収入を得ており、その多くは預金保険基金として蓄積されている。OCCも同期間に1億700万ドルの黒字を計上した。
米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策担当弁護士を務めた経歴を持つジェレミー・クレス氏は「監督不全の代償は非常に大きい」と話す。「人員削減によって短期的なコスト削減が見込めたとしても、監督の弱体化やリスク管理の甘さ、銀行破綻の増加といった長期的なコストに比べれば、短期的なプラス効果ははるかに小さいだろう」と警鐘を鳴らす。
FDICはコメント要請に応じなかった。SECとOCCの担当者もコメントを控えた。
原題:Trump Has Cut Thousands of Wall Street Cops While Markets Wobble(抜粋)
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