あらゆる生き物がそうであるように、私たち人間も生きるために食事をしなければなりません。
ダイエットやファスティング(断食)の経験がある人であれば、飲み食いできない辛さをよくご存知のはずです。
では一方で、自分の意志による食事制限ではなく、完全に食料を絶たれた場合、私たちはどれくらい生き延びられるのでしょうか?
ただし、人体の耐えうる限界は「水なし」と「食べ物なし」とでは少し変わってきます。
そこで今回は、人が飲まず食わずで生き延びられる期間を、2つのケースに分けて説明していきます。
目次
- どれくらい「水なし」で生きられる?
- 「食べ物なし」ではどれくらい耐えられる?
どれくらい「水なし」で生きられる?

水分の摂取は、私たちが生きていく上で最も重要な要素です。
人体には脂肪や筋肉の貯蓄があるため、多少食べ物がなくてもそれを燃やしてエネルギーに変換できます。
しかし、体内の水の備蓄量はずっと少ない上に循環も早いので、こまめに水分補給をしなければなりません。
成人の体は60%が水分で構成されており、それが汗をかいたり、排尿したり、呼吸をしたりすることで絶えず失われています。
呼吸と発汗による水分の損失量は、一般的な条件下では24時間あたり0.3~1リットル程度と言われています。
しかし砂漠のような暑い環境だと、成人で1時間に1.5リットルもの汗をかきます。
また、大人は1日に約1.5リットルの水分を尿として排出しています。
これらすべてを合わせると、人は1日にだいたい2リットル前後の水分を失っていることになります。
なので成人であれば、飲み物や食事から最低限これだけの水分を摂取して、体内の水分バランスを保つ必要があるのです。

では、水分を摂らずに人体が耐えられる日数はどれくらいでしょうか?
専門家によると、人が水なしで生きていける期間はわずか3~7日とのことです。
しかもこれは一般的な気温や湿度の下での話であって、砂漠のような暑い場所であれば、その日数はさらに短くなります。
また、子どもや乳幼児ではもっと短い期間しか耐えられないでしょう。
ちなみに過去に知られている水なしの最長記録は、1979年4月にオーストリア人の男性、アンドレアス・ミハヴェッツ(Andreas Mihavecz)が記録した18日間です。
当時18歳だった彼は、自動車事故の同乗者だったために一旦留置場に勾留されましたが、彼を担当した3人の警官は誰かが解放したと勘違いして、彼の存在を完全に忘れ去っていました。
地下の独房に入れられていた彼は、叫び声をあげてもまったく誰も気づかれず、結局18日間、水も食料もなしで壁に結露した水を舐めて生き延びたといいます。
その後、独房の悪臭に気づいた警官によって見つけ出されましたが、健康を取り戻すのに数週間を要したそうです。
助け出されたときの彼の体重は24キロも減っていたといいます。ちなみに彼の生存記録はギネスに登録されています。
これは極めて稀な事例であり、普通は満足な水分なしに18日間も生き延びることはできません。
そのため一般的には水を摂取できない場合、人間はだいたい3日を過ぎると危険であると考えるのが妥当でしょう。
生活のライフラインである、電気・ガス・水道のうち、水道は料金を滞納しても一番長く待ってくれると言われているのも、こうした事実があるためです。
「食べ物なし」ではどれくらい耐えられる?

人が食べ物なしで生存できる日数は、水なしに比べるとずっと長くなります。
それは先ほど説明したように、筋肉や脂肪の貯蓄があるためです。
一般に人体は、摂取した食べ物を燃料としてエネルギーに変換します。
たとえば、三大栄養素として知られる炭水化物はグルコース(ブドウ糖)に、タンパク質はアミノ酸に、脂肪は脂肪酸に変えられ、エネルギー源となります。
また食べ物の摂取が途絶えても、人体は脂肪や筋肉として貯蓄したエネルギー源を燃やすので、ある程度は食事抜きでも大丈夫です。
専門家は、食べ物なしで成人が耐えられる限界は平均して3週間ほどと考えています。
ところが、それらの貯蓄を使い切ってしまうと、心臓が血液を全身に送り出すのに十分なエネルギーがなくなり脈拍と血圧が下がって飢餓状態に陥ります。
こうなると胃腸の働きが悪くなり、腹部の膨張や胃痛、嘔吐、吐き気、さらには細菌感染などが起こります。
エネルギーを奪われた脳も正常に機能しなくなり、意識がボーッとし始めるでしょう。
そして、食べ物なしで最も長く生き延びた記録は、アイルランドの政治家テレンス・マクスウィニー(1879〜1920)の74日間です。

マクスウィニーは1920年のアイルランド独立戦争中に、アイルランド南部のコーク市長に選出されましたが、扇動罪という名目でイギリス政府により逮捕されます。
これを不当とした彼は、獄中内でハンガーストライキを開始。
警官の出す食事を頑なに拒否し続け、69日目に昏睡状態に陥り、そのまま意識が回復することもなく、ストライキ開始から実に74日後に息を引き取りました。
専門家は、このようなハンガーストライキの事例は皮肉にも、人がどれくらい食事なしで過ごせるかを示す最も信頼できるデータを提供していると話します。
管理された環境での飢餓実験は倫理的にNGですが、ハンガーストライキは意図せず飢餓状態の有力データとなっているのです。
実際、1997年に発表された研究(Michael Peel,BMJ(1997))では、ハンガーストライキで自発的に食事を止めた人は、平均して45〜61日後に死亡していると報告されています。
このため、人が食事抜きで生存できる期間は、3週間(21日)を過ぎると危険域に入ると考えられます。
これを見ても、人体は食事抜きの方が水抜きよりもはるかに長く耐えられることが分かります。
無人島に遭難した際には、こうしたタイムリミットを心に留めて行動するといいかもしれませんね。
参考文献
How long can we survive without food or water?
https://www.zmescience.com/other/feature-post/how-long-survive-no-food-water-052352/
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。
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