残業する男性のイメージ写真はイメージです Photo:PIXTA

メンタルを壊して休職する人たちには、ある共通点がある――そう聞いて、あなたは何を思い浮かべますか? もちろん、本人の意志が強いか弱いかは関係ありません。実は多くの人が、無意識のうちに“ある美徳”に従って行動しているのです。真面目で責任感が強い人ほど、その“しょうもない美徳”に心をむしばまれていく。この国の働き方を静かに壊す、美徳の正体とは――。解説は心療内科医で産業医の海原純子さんです。(構成/石井謙一郎)

会議中に脳梗塞になった人が
語った「しょうもなさすぎる原因」

 “病気ではないが、元気ではない”ビジネスパーソンが増えています。会社には惰性で行っているけれど、生き生きと働けない。仕事でもプライベートでも、面白いと感じられることがない。うつ病などの診断には至っていないものの、ギリギリのメンタルで日々を過ごしている人たちです。

 私は心療内科医、産業医として、企業で働くたくさんの人たちの診察や健康指導に携わってきました。面接でストレスチェックをすると、労働環境や職場の人間関係が原因で仕事に行き詰まり、体調を崩す寸前の人が多いことに気付きます。

 むしろ、楽しく生き生きと働いている人のほうがわずかで、全体の1割程度しかいない印象です。社会が目指している「健康経営」「ウェルビーイング」の実現には、ほど遠い現状だといえます。

 メンタルの不調を訴えるビジネスパーソンの方々と接しているうちに、私は「これは働く個人の側に問題があるのではなく、日本の企業風土が原因ではないのか」と考えるようになりました。

 嫌な出来事や困った事態が身に降りかかったとき、「ノー」と言えない体質が蔓延していることが、日本の企業のネックです。「ノー」をはっきり口に出したら、「うるさいヤツだとか面白くないヤツだとか言われるのではないか」とか、「評価や将来に差し支えるのではないか」と考え過ぎて抑えてしまう独特の雰囲気は、大きな問題です。日本の悪しき文化に「我慢は美徳」という考え方があって、企業風土にも沁みついているのです。