ニトロプラスといえば言わずとしれたゲームメーカーで、代表作には『沙耶の唄』、『装甲悪鬼村正』、『刀剣乱舞ONLINE』などがある。近年ではアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」や「PSYCHO-PASS サイコパス」をはじめとした作品を手がけ、日本を代表するエンタメブランドとして名をはせている。そんなニトロプラスが新たにアクションゲーム『Dolls Nest』をしかもSteamでリリースすると聞いて、期待と不安を感じた方も多いのではないだろうか。

今回弊誌では『Dolls Nest』開発の中心的人物の企画・原案を担当した太田幼女氏と、サブディレクター・おがみけいち氏に開発経緯や背景などについて率直に疑問をぶつけてみた。そこで見えてきたのは『ARMORED CORE(以下、アーマード・コア)』ファン社員の熱い情熱と、ニトロプラスらしさの一端だった。ぜひ最後まで読んでほしい。

挑戦作としてのアクションゲーム

――自己紹介とこれまでの経歴について教えてください。

太田幼女(以下、太田)氏:
『Dolls Nest』企画・原案とディレクション、キャラクターデザインなど本作の立ち上げをした太田幼女です。経歴としては社内だと『凍京NECRO〈トウキョウ・ネクロ〉(以下、凍京NECRO)』の背景を一部描いたのが大きく、社外案件だとアニメ「ブラック★★ロックシューター DAWN FALL」のコンセプトデザインや、VTuber「息根とめる」のキャラクターデザインをしています。

おがみけいち(以下、おがみ)氏:
おがみけいちです。ニトロプラスには20年ほど在籍しており、『Dolls Nest』ではサブディレクターという立ち位置です。私は『沙耶の唄』制作中に入社して、以降のニトロプラスやニトロキラル作品では、ほとんど開発に携わっています。代表的な作品では『凍京NECRO』でディレクターをしたり、『みにくいモジカの子』で演出を担当したり。社外で言えば、DMM GAMESさんとタッグを組んだ『凍京NECRO<トウキョウ・ネクロ> SUICIDE MISSION』の監修をしていました。

――お二人は『凍京NECRO』のデザイナーとディレクターという関係があって、『Dolls Nest』につながったのでしょうか。

おがみ氏:
太田との関係で言えば、『凍京NECRO』が最初かもしれないですね。

太田氏:
そうですね。入社してすぐ関わったのが『凍京NECRO』で、その開発直後に『Dolls Nest』の企画を立ち上げているので、仕事での接点はそこになりますね。

――ありがとうございます。それでは『Dolls Nest』の開発経緯について詳しくお聞きできればと思います。

おがみ氏:
開発経緯としては、太田に「メカ少女をカスタマイズして好きに暴れるゲームを作りたい」という気持ちがあって、弊社エンジニアの生麩と一緒に企画のためのモックを作り始めたのが最初です。

太田氏:
本作のリスペクト元として『アーマード・コア』シリーズを参考にしながら、通常業務の後に放課後活動としてモックを作っていましたね(笑)

――なるほど。ニトロプラスは『斬魔大聖デモンベイン』や、『装甲悪鬼村正』などメカ・ロボット系のノベルゲームもリリースされていますが、本作はそもそもカスタマイズ要素が軸だからアクションゲームとして開発されたのですね。

太田氏:
まさにそのとおりで、カスタマイズ要素を実現するにはニトロプラスがこれまでリリースしてきたビジュアルノベルというジャンルが、本作にとっては適切ではありませんでした。

おがみ氏:
太田はニトロプラスのCGチーム「ニトロアーツ」所属なので3Dが扱えますし、『Dolls Nest』は3Dデザイナー中心の企画なのでアクションゲームとして提案されました。例に出された『斬魔大聖デモンベイン』や『装甲悪鬼村正』は、あくまでシナリオライター主導の企画なのでノベルゲームという完成形になったと思っていただければ。

――ニトロプラスはビジュアルノベル中心にリリースされていますが、アクションゲームの企画を通す際に苦労したり、不安視されたりすることはありましたか。

太田氏:
企画を通すときに特にビジュアルノベルじゃなきゃダメという意見や、アクションゲームだから特別不安視されたりすることはありませんでしたね。企画提出が『みにくいモジカの子』(2018年発売)頃だったのですが、その時期はソーシャルゲームが特に盛り上がっていて、ゲームメーカー社員兼いちプレイヤーとしてノベルゲームが伸び悩んでいると感じる瞬間がありました。そのため弊社社長のでじたろうとしても新しいジャンルに挑戦しないとダメかもしれないという意識がどこかにあったのではないかと個人的には思いました。

おがみ氏:
私が昔からニトロプラスタイトルのミニゲームを担当していて、古くはシューティングゲームからレースゲーム、さらに『ニトロ+ロワイヤル -ヒロインズデュエル-』のような格闘ゲームなどを開発していた背景があったので、今回のようなアクションゲームも作れないことはないだろうと思われていたのかもしれません。

――挑戦……ニトロプラスは端から見るとブランドイメージがしっかりある印象ですが、意外と企画は通りやすい?

おがみ氏:
ブランドイメージという側面で考えると、企画の方向性やジャンルの縛りが厳しいのではないかと感じられることもあるかと思うのですが、別にシリアスで銃が登場したり血が飛び散らないとダメだったりということはないんです。逆に世の中であまり見たことがないジャンルや組み合わせ、こういうゲームがあったらいいねと納得させられれば、企画が通る柔軟な会社だと思います。ノベルゲームを中心に作ってきたのでそこでの経験値はありますが、アクションゲームの経験値はあまりなく、『Dolls Nest』は太田の言うとおり挑戦作として評価してもらったのかもしれないですね。

『アーマード・コア』シリーズからの影響

――本作は『アーマード・コア』シリーズから影響を受けているということですが、慣れないジャンルを製品として完成させるのは大変なのでは。

太田氏:
意外とそうでもなかったですね。楽しく開発させていただきました(笑)

おがみ氏:
太田が大好きなジャンルだからこそ、開発上の勘どころが非常に働いているように見えました。たとえ3Dアクションゲームの制作知識が不足していても、参考元を見ながら「パラメーターをこのように設定しているのではないか」と、ある程度知見がある状態だと思うんです。そういった知識やプレイ体験を軸に後から技術面を学習していった流れでしたね。

――経験者を開発チームにアサインするのではなく、あくまで自分にインプットして作り上げていく。そう考えると少し同人サークルみたいですね。

太田氏:
僕としてはそれくらいのイメージで開発していました(笑)

おがみ氏:
たしかに今回はそういうノリが近かったですね。でじたろうは「サークル活動が好き」と言うことがよくあるんです。要は「みんなで頑張っておもしろいものを作ろうぜ」というサークルのノリで開発しがちなのですが、それがニトロプラス全体に伝わっているのかもしれません。

――同人サークルのようなノリと熱意で開発する過程と、商業製品としてパッケージングされたゲームとして売り出される結果に距離を感じるクリエイターも多いと思います。最後までブレずに開発できましたか?

太田氏:
僕が目指しているゴールが商業製品と差があるかと言えば、そうではないと考えていたので、無理やり大衆に寄せようという思考はそもそもありませんでした。自分のやりたいことを突き詰めれば、商品価値がつくだろうっていう思いがありました。

――本作の企画提出は『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON(以下、アーマード・コア6)』発表以前だと思います。『ARMORED CORE VERDICT DAY』から10年ほどシリーズ展開が止まっていた時期ですが、正直な話「ないなら自分で作ろう」という考えもありましたか?

太田氏:
そうですね。『Dolls Nest』の企画発案は、本家『アーマード・コア』シリーズの新作がリリースされていなかったからこそ「自分が作りたい」と考えた部分が大きいです。

おがみ氏:
もっと言えば、企画書にそのまま「無いから作る」と書いてあった気がします(笑)

――(笑)……それでは2022年に『アーマード・コア6』が発表された時は驚いたのでは。

太田氏:
ファンとしてのうれしさと、『Dolls Nest』開発者としての驚きがないまぜでした。システムが丸被りしていないか不安だったのですが、結果としては異なる仕上がりだったので別物としてリリース可能と判断されました。技術力も開発予算も到底及ばない規模だと思うので、比べられたら怖いですが。

――本作の開発で『アーマード・コア6』を意識した部分はありますか?

太田氏:
そもそも『アーマード・コア6』以前のタイトルを想定して企画を立ち上げており、発売時期と開発が被っていたので、踏襲した要素は少ないと思います。

おがみ氏:
デモ版を配信した際に『アーマード・コア6』に寄せたバランス調整をしてほしいという声がありました。『Dolls Nest』は高難易度ゲームを目指している訳ではなく、もとにしたコンセプトも異なるのでバランスを取るのは難しかったですね。

――それでは太田さんが『Dolls Nest』でイメージしている『アーマード・コア6』以前のタイトルでは、どの作品が自分の目指すゴールに近いですか。

太田氏:
難しい質問ですが、個人的にカスタマイズでとんでもない機体が作れたり、機体を組んだ後のプレイングが楽しかったりという点で、『ARMORED CORE V』が一番好きなので意識しました。

――『ARMORED CORE V』をリスペクトしたということですが、『Dolls Nest』ならではの差別化はどのように図っていますか?

太田氏:
『アーマード・コア』では探索要素はあくまでサブ的な要素だと思うので、本作のようにカスタマイズと探索要素を両方メインとしてつなぎ合わせたアレンジ方法に、『Dolls Nest』ならではの色付けが現れているのではないかと。

おがみ氏:
探索要素が強いということでNPCキャラクターもマップに点在しており、道中で会話が 繰り広げられます。そのため出発点はたしかに『アーマード・コア』ですが、体験としては別物で新鮮なのではないかと思います。

――会話要素のお話もありましたが、ニトロプラスからリリースされる以上、シナリオにも期待されている方も多いと思います。どれくらいのボリューム感を想定していますか?

おがみ氏:
従来のニトロプラス作品のボリュームから考えると、シナリオに関するテキストの量は少ないと思います。お話したNPCキャラクターにはそれぞれ物語性が付随されています。また、ストーリーを進めていくことでマップを移動するNPCもいたりします。『Dolls Nest』にはどういった勢力があるのかなど、世界観をフレーバーとして掘り下げられるようになっていますね。
ニトロプラスらしさは「無いから自分で作る」こと

――従来の作品という話も出ましたが、そもそも「ニトロプラスらしさ」とはなんなのかをお二人なりの答えとして聞いてみたいです。

太田氏:
『凍京NECRO』しか社内の仕事をきちんとしていないのですが、先ほどもお話した「無いなら作る」という気持ちがニトロプラスらしさなのではないかと考えています。

――おがみさんも長年働かれてきて、ニトロプラスらしさはどのように考えていますか。

おがみ氏:
弊社の場合は自社開発・自社パブリッシングが基本なので、そういった意識が強いと思います。たとえばニトロキラルを立ち上げ、『咎狗の血』でボーイズラブゲームに挑戦したのも、同ジャンルにおいてハードコアでシリアスなストーリーのタイトルはあまりないと考えたからじゃないか、と自分は思っています。当時から会社全体で、「無いなら作る」という理念が浸透していたのではないでしょうか。

――ブランドの理念として。

おがみ氏:
マニアックな物をどうやったらユーザーに楽しんでもらえるかは、ニトロプラス作品でこれまで腐心してきたことだと思うんですね。今回で言えばタイミング的にも、『アーマード・コア6』に寄せた広い間口でメカアクションゲームを作る方がビジネス的にはリスクが少ないと思いますが、それではただのクローンゲームになってしまい我々のこだわりをユーザーに感じさせるのは難しくなってしまいます。あえてマスを取りに行かないのがニトロプラスらしさなのかもしれません。

――マスを意識していないとのことですが、ニトロプラスはどこに向けた作品を作っているのでしょうか。

太田氏:
あえて言うのであれば「自分」でしょうか。僕としては自分が作りたいから作っています。

――(笑)

おがみ氏:
自分たちに向けて作った作品をプレイしたユーザーに、どれだけ共感してもらえるかで売上が決まっているように感じます。最低限作品として面白く感じてもらおうと工夫していますが、開発としての根本はどの層に対してもマーケティングしていないです。

――現在のゲーム開発では、どれだけユーザーのニーズを満たせるかという意識が強いように思いますが、あくまでニトロプラスは自分向けと。

おがみ氏:
逆にその姿勢のほうが、結果的に多くの人に刺さる可能性も大きいと思っていて、見えているユーザーにだけにアジャストさせると、その層にしか受けないことがあるんです。なので誰にも向けていないタイトルの方が、プレイヤーも「自分だけのタイトル」だと思えて共感してくれるのではないか。以前と比べて会社が大きくなって表面では変わった部分はたくさんあると思いますが、私が入社した20年ほど前から根っこの姿勢は変わってないと思います。

――実際のところ発表してからメディアやSNSでの反応はいかがでしたか。

太田氏:
思っていたよりは話題に挙げてもらっているのかなと感じます。ありがとうございます。

おがみ氏:
ニトロプラスがSteamでアクションゲームをリリースする時点で新参者の気持ちです。 Steamマーケットの新たにニトロプラスを知るユーザー層にも一目置いてもらえるようになりたいですね。

――ブランドとしては歴史・人気・実績があるなかで、新たなジャンルとマーケットに挑戦するのは難しい立場ですよね。

おがみ氏:
以前PCゲームを作っていた時代から考えたら、本当にありがたいことですが「魔法少女まどか☆マギカ」や『刀剣乱舞ONLINE』などで、私たちが考えている以上に名前が広まりすぎているのではないかと感じることはたしかにありますね。

――“あの”ニトロプラスの新しいゲームという期待感と、本作の企画趣旨と開発規模の温度感を合致させるのは少し大変そうですね。

おがみ氏:
アクションゲームではなくノベルゲームを待ち望んでいるニトロプラスファンの方も多いと思うんです。そういった方々に本作をどういう風に評価していただけるのかが正直一番不安な部分ですね。ただ値段も安いので気軽に手に取ってもらえたらと思いますし、プレイしてもらえたら損はさせませんので、これまでとは違った挑戦作という部分を応援していただければと思います。

――たしかに税込2160円は、3Dアクションゲームとして安いですよね。

太田氏:
実は「ニトロ円」という語呂合わせなんです(笑)

――えっ!?語呂合わせで価格を?

おがみ氏:
私たちも驚きましたが、でじたろうの一声で決まりました(笑)。一般的に考えて3Dアクションゲームでこの価格帯は安い部類なので、逆にショボいゲームなのかと不安になってしまう方もいるかもしれません。ですが、自分たちと好みが合えばおそらく値段以上の体験は、必ず味わえるように仕上がっているので、安心していただければ。

――最後に本作でどういった体験をユーザーに楽しんでほしいですか。

太田氏:
自分好みのメカ少女をカスタマイズして、楽しく世界を蹂躙してもらえたら満足です。

おがみ氏:
『Dolls Nest』の魅力はなによりカスタマイズ要素なので、まずは機体を理想の姿にしてもらうことを楽しんでほしいです。そして探索を通してバトルや世界観と本作を隅々まで味わっていただけると嬉しいです。

――ありがとうございました。

『Dolls Nest』は、PC(Steam)向けに4月24日発売予定だ。

[聞き手・執筆・編集:Yuuki Inoue]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]

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