アメリカ・ルイジアナ州政府は犯罪者の再犯防止アルゴリズム「TIGER」を用いて、刑務所に収監されている受刑者の再犯リスクをスコア化しています。TIGERはもともと受刑者の経歴を考慮して更生を支援するツールとして設計されましたが、現在ではTIGERスコアだけが受刑者の仮釈放資格を判断する唯一の基準となってしまっていると、調査報道を行う非営利のニュースルームであるProPublicaが報じています。

TIGER, the Algorithm Banning Louisiana Prisoners from Parole — ProPublica
https://www.propublica.org/article/tiger-algorithm-louisiana-parole-calvin-alexander


TIGERとは、「Targeted Interventions to Greater Enhance Re-entry(再出発をより促進するためのターゲット型支援策)」の頭文字をとったもので、2014年にルイジアナ州立大学が再犯防止のために開発したコンピュータープログラムです。

TIGERは、受刑者が再び刑務所に戻るのを防ぐために、どのような授業やカウンセリングが必要かを判断するために刑務所職員を支援することを目的としています。TIGERの開発者の一人であるキース・ノーダイク氏によると、再犯リスクが最も高い受刑者には、刑務所が依存症カウンセリング、セラピー、職業訓練といったサービスを提供し、釈放後に社会復帰をしやすくして再犯しないよう支援することを目的としているそうです。

しかし、2024年ごろから、TIGERの目的が「刑務所職員の支援」から、「仮釈放決定プロセスの唯一の基準」になっていると、ProPublicaが指摘しています。


麻薬関連罪でルイジアナ州の刑務所に20年服役しているカルビン・アレクサンダーは、感情のコントロールセラピーを受け、職業訓練を受け、薬物治療を済ませるなど、早期釈放のために必要なことはすべて実施していました。懲役中の記録も清廉潔白であったため、仮釈放はほぼ確実かとみられていましたが、審問日の2か月前になって急に刑務所当局から「仮釈放の資格がない」ことが通知されました。

仮釈放の基準が変わった理由は、2024年に制定されたルイジアナ州の新法が影響しています。ルイジアナ州の共和党議員らが可決した一連の法案では、「犯罪に対する強硬政策」として、2024年8月1日以降に犯した罪で投獄されたほぼ全員の仮釈放を廃止しました。既に服役中の大多数の受刑者については、別の法律により、早期釈放の可能性を判断するアルゴリズムが導入され、低リスクと評価された受刑者のみが仮釈放の対象となります。

仮釈放のリスクを判断するために用いられたのが、更生対策として開発されたTIGERです。TIGERは仮釈放資格の唯一の基準となり、TIGERスコアによって仮釈放が許可されるかどうか決定しているとProPublicaは指摘しています。

リスク評価ツールの専門家によると、TIGERスコアに依存して囚人の釈放を阻止することには問題があるそうです。アルゴリズムで考慮される要素のほとんどは、犯した犯罪や職歴、初回逮捕時の年齢、以前の仮釈放取り消しなど、囚人の過去からのものであるため、現在どれだけ誠実に更正したとしても、変えることができません。例えば、「職歴に乏しい人は釈放後も職に就けず、結局は犯罪に手を染めてしまう」というケースが多いですが、一般的に低所得地域で育った人々は裕福な地域の人々よりも仕事の機会に恵まれていないため、TIGERの判断に任せると「貧しい人々は裕福な人々よりも仮釈放が認められる可能性が低い」となってしまう可能性があります。

複数の法学者によると、ルイジアナ州の法案は、遡及(そきゅう)的に刑罰を重くする法律を禁じるアメリカ合衆国憲法にも違反する可能性があるとのこと。ルイジアナ州の仮釈放委員会にかつて所属していたキース・ジョーンズ氏は「受刑者がコントロールできないプロセスによって生成されたスコアが、仮釈放委員会の権限と権力を奪うというのは、私には全く理解できません」と述べ、TIGERは仮釈放の決定の一環として多くの考慮要素の1つで用いられるべきと主張しました。

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