鳥インフルエンザH5N1の脅威──なぜ“空気中のウイルス”に注目するのか


高病原性の鳥インフルエンザH5N1は、「鳥インフルエンザ」という名前からもわかるとおり、もともとはニワトリやカモなどの家禽・野鳥の間で大流行を繰り返してきたウイルスです。
しかし、これがもしヒトに広がったらどうなるでしょうか。
過去には、養鶏場で集団発生したH5N1がヒトに感染し、重症化や死亡例が報告されたこともあります。
その数自体は多くはないのですが、問題はウイルスが変異しやすい性質をもっていること。
いったんヒト同士で容易にうつる“呼吸器経路”を獲得すると、新型コロナウイルスのような世界的なパンデミックを引き起こすリスクが一気に高まります。
人類が免疫を十分に持たない未知のウイルスが蔓延するとどうなるか──これはすでに私たちがここ数年で身をもって体験してきたことでもあります。
そこで「空気中にどれだけH5N1が漂っているのか」を素早く測れる技術があれば、感染爆発の芽をいち早く摘むことができるかもしれません。
これまでにもPCR検査のように、遺伝子を増幅してウイルスを高感度で検出する方法は存在しました。
しかし、PCRには時間と手間、そして専門設備が必要です。
近年では、30分ほどで結果を得られる簡易PCR装置も一部で開発されていますが、依然として従来型は大がかりな機器と作業工程を要します。
現場で何十、何百というサンプルを素早く調べることは、大がかりな出張ラボや熟練技術者のサポートなしには難しい状況でした。
一方で抗体を利用した「イムノアッセイ」などの検査方法も開発されていますが、比較的早いとはいえ最短でも数十分以上かかったり、ターゲットとなる病原体に合わせて反応試薬を用意する必要があったりするのが現状です。
そこで今回研究者たちは、もっと簡単かつ短時間で、空気中のウイルスを直接検出できる方法を開発することにしました。