水曜日, 5月 14, 2025
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収れんする「ぶちゃむくれ」進化で犬と猫が同じ顔になる


一見まったく異なる動物に思えるペルシャ猫とパグ犬ですが、並べてみるとその顔立ちは驚くほど似ています。

アメリカのワシントン大学セントルイス校(WashU)とコーネル大学(Cornell University)などの研究チームによって、進化的に約5000万年も隔たっているはずのペルシャ猫とパグ犬が、数百年という人工的な品種改良の歴史の中であっという間にそっくりな短頭形態(いわゆる、ぶちゃくむれ顔)へと収れん進化したことが明らかになりました。

人間の「かわいい」という好みがもたらしたこの現象は、いったい私たちに何を示しているのでしょうか。

研究内容の詳細は2025年4月28日に『PNAS』にて発表されました。

目次

  • 可愛すぎる進化の背景
  • “ぶちゃむくれ収れん”進化の衝撃
  • かわいい進化の代償

可愛すぎる進化の背景

可愛すぎる進化の背景
可愛すぎる進化の背景 / Credit:Canva

ネコ(ネコ科)とイヌ(イヌ科)は、進化の系統樹で約5000万年前に分岐した遠い親戚同士です。

野生のネコ科動物(ヤマネコなど)はイヌ科ほど鼻面が長くはなく、頭骨の形状も比較的コンパクトですが、野生のイヌ科動物(オオカミなど)は長い鼻面を持ち、両者の顔立ちは大きく異なっています。

ところが人類は古来、犬や猫を好みの姿に品種改良して多様な品種を生み出してきました。

人工選択によってペットの形態は著しく変化し、イエイヌ1種における頭骨の形状バリエーションは野生のイヌ科全体(オオカミ、コヨーテ、キツネなど)で見られる種間差を上回ることが明らかになっています。

イエネコ1種でも、頭骨形状の多様性が野生ネコ科(現生41種)の全体差より大きいことが確認されています。

舌を出した狆(チン)は、極端に平たい顔を持つ愛玩犬の一例で、人間の選択圧が生み出した「かわいい」容姿です。

人間はペットに「赤ちゃんのような」丸い顔立ちや大きな瞳、そして低く潰れた鼻といった幼児的な特徴を特に好む傾向があります。

実際、パグやペルシャといった犬猫の代表的な愛玩品種では、こうした幼児的な顔つきが極端なまでに強調されています。

これらは専門的には「短頭種」と呼ばれ、頭が前後に短く鼻面が平らな骨格形態を示します。

いわゆる平たい「ぶちゃむくれ」顔は人間には愛嬌があって可愛らしく映るため、ペット愛好家の人気を集めてきました。

そこでワシントン大学セントルイス校とコーネル大学の研究チームは、犬と猫の頭骨形状の分布(形態空間)を同じ土俵に載せて比較する大規模な研究を行いました。

“ぶちゃむくれ収れん”進化の衝撃

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Credit:Canva

研究チームは、国内外の動物病院で撮影されたペットのCTスキャン画像や博物館の骨格標本などから、犬と猫およびそれらの野生の近縁種を含む計1810体の頭骨データを収集しました。

頭骨における形状の指標となる47箇所のランドマーク点を設定し、各頭骨の三次元座標を用いて形態を定量的に比較しました。

この包括的な解析によって、犬と猫の家畜化による形態進化の全貌が浮かび上がりました。

まず、犬と猫それぞれの頭骨形状の多様性がいかに飛び抜けて大きいかが改めて確認されました。

イエイヌでは、一種内部の形状バリエーションが野生のイヌ科全体(オオカミやコヨーテ、キツネなど)で見られる差異を上回るほど極端だったのです。

イエネコでも、一種内部の形態多様性が野生のネコ科(ライオンやトラなど)全体よりも大きいことが示されました。

言い換えれば、人間は人工選択によって、短期間でイエイヌやイエネコの形態的幅を野生の近縁種を超えるほど拡大させてしまったのです。

しかし本研究でもっとも注目すべき発見は、犬と猫という別種の間で頭骨形状が「収束」していたことでした。

研究チームが両者の形態空間を重ね合わせて比較したところ、短頭の猫品種と犬品種が同じ領域に重なって存在することが分かりました。

筆頭著者のアビー・ドレイク氏(コーネル大学)は「猫の形態空間が犬のそれに重なっているのを見たとき、『一体何が起こっているの』と目を疑いました」と驚きを語っています。

つまり、ペルシャ猫やエキゾチックショートヘアなどの短頭型猫の頭骨は、パグやペキニーズなどの短頭型犬の頭骨と酷似した形状に進化していたのです。

ペルシャ猫は平たく短い顔と上向きの鼻先を持つ短頭種の代表で、犬のパグやペキニーズと比べても遜色ない「ぶちゃむくれ」顔です。

実際、本研究で測定されたペルシャ猫、パグ犬、ペキニーズ犬の頭骨はいずれも平坦で短い顔と上向きに傾いた鼻口部(マズル)・口蓋を備え、互いに驚くほど類似していました。

こうした「赤ちゃん顔」の頭骨形状は自然界には存在しない特殊なタイプで、計測対象の中には鼻骨が完全に消失してしまったペルシャ猫もいました。

さらに興味深いことに、この短頭形質はネコ科内部でもイヌ科内部でもそれぞれ2回ずつ独立に進化していたのです。

犬では、ブルドッグ系統(欧州原産)とパグ・ペキニーズ・狆・シーズーなど東アジア原産の愛玩犬系統で別々に平たい顔が生じ、猫ではペルシャ(ヒマラヤンなどを含む)系統とビルマ(バーミーズ)系統で独立して短頭形質が進化していました。

これは、犬と猫の間で収れん進化が起きただけでなく、それぞれの種の内部でも収れんが繰り返し起こったことを意味します。

かわいい進化の代償

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Credit:clip studio . 川勝康弘

生物学で言う「収れん進化」とは、本来血縁の遠い生物同士が同じような環境や選択圧のもとで似通った形質を獲得する現象を指します。

鳥類とコウモリが独立に翼を進化させて空を飛ぶようになったり、別系統の海生物がカニのような平たい体型に辿り着く――といった例が典型です。

進化において有利な特徴は異なる系統で繰り返し選ばれやすいため、収れん進化の出現はその形質の汎用的な有用性を示すものとも言えます。

今回明らかになった犬と猫の「ぶちゃむくれ顔」の収れんは、一見すると新たな適応形質のようにも見えます。

しかし重要なのは、これは自然選択による適応ではなく、人間の美的嗜好によって人為的に作り出された形質だという点です。

家畜化された動物では、短い期間でも強い選択圧がかかれば劇的な形質変化が起こり得ます。

ドレイク氏は「人々は進化には何百万年もかかると思いがちですが、遺伝的集団を隔離して強い選択を行えば短期間で驚くほど多様化させられます」と述べています。

ロソス氏も「私たちは5000万年かけて積み重なった違いを実質的に消し去ってしまったのです」と語り、人工選択の強大なインパクトに驚きを示しています。

こうした急速な進化の観察は、進化のメカニズムを理解するうえでも非常に貴重な事例になるでしょう。

一方で、私たち人間が「かわいい」と思うこのぶちゃむくれ顔は、動物たちに多大な負担を強いている面も忘れてはなりません。

短頭種の犬や猫では鼻や喉の空間が狭いため、慢性的な呼吸困難や運動・暑さへの弱さなどの健康リスクが報告されています。

頭骨形状の異常は眼や歯の位置にも影響し、角膜疾患や歯列不正、さらには脳や神経の圧迫による障害が生じるケースもあるようです。

頭部形状が大きく変化したことで、出産時に帝王切開が必要になるケースも少なくないと指摘されています。

このため欧米では近年、極端な短頭種の繁殖を制限しようとする動きが広がっています。

ロソス氏は「これほど極端なタイプを交配で生み出すべきではありません。動物たちの利益を第一に考えるべきです」と警鐘を鳴らしています。

ドレイク氏も「進化生物学的には興味深いですが、健康上の代償を考えると正当化は難しいです。動物の福祉を第一にすべきです」と述べています。

こうした極端な品種は人間の助けなしには野生環境で生き延びることが難しく、私たちが生み出した“収れん進化”の事例であると同時に、その“かわいさ”の裏にあるリスクを改めて考えさせられる研究結果といえます。

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元論文

Copy-cat evolution: Divergence and convergence within and between cat and dog breeds
https://doi.org/10.1073/pnas.2413780122

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部



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