この1年の間に、「Light Phone III」や「Mudita Kompakt」などのいわゆる「ダムフォン(dumb phone)」がいくつもコンシューマー市場に登場した。ダムフォンとは、通話やメールなどの最低限の機能しか備えていない、スマートフォン以前の携帯電話に似た端末のことだ。今回紹介する「Minimal Phone」は、これらの製品とは異なるアプローチをとっている。このスマートフォンは、電子ペーパーディスプレイと物理的QWERTYキーボードを搭載したAndroidデバイスで、ダムフォンとは違って「Google Play」ストアに自由にアクセスできる。

Minimal Phone
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そのため、この499ドル(約7万1000円、現在は399ドルで予約受付中)のデバイスを買ったユーザーはあらゆるアプリをダウンロードできるのだが、実際には、おそらくそのつもりにはなれないだろう。筆者は最近、実際にMinimal Phoneを2週間使ってみた。最初しばらくはメインデバイスとして、次に2台目のデバイスとして使ってみて、かなりの使いにくさを感じたのだが、最終的にはこのフォームファクターを高く評価するようになった。詳しく説明しよう。
Minimal PhoneはCPUに8コアの「MediaTek Helio G99」を採用しており、最大で8GBのメモリ、256GBのストレージを搭載できる。これはごく標準的なハードウェア構成なのだが、電子ペーパーのディスプレイがボトルネックになって、そのパワーは十分に発揮できない。シンプルなテキストやUIならともかく、それ以上のものを表示しようとしても解像度の低い画像になってしまうため、ご想像の通り視覚的なコンテンツを楽しむのは難しい。しかしそのうちに、それこそがこのデバイスの狙いであることに気付くのだ。
Minimal Phoneは、ダムフォンのようにドゥームスクローリング(悪い情報だけを検索し続けて悪循環に陥ってしまうこと)や、YouTubeを見続けてしまうことを強制的に止めるわけではない。単純に、ユーザー体験の質が下がり、それをやるだけの価値がなくなるため、(通常のスマートフォンと同じく)いろいろなことができるデバイスであるにもかかわらず、自然と最小限のことにしか使わなくなるのだ。
これはなかなか面白いトリックだ。動画を見ることも、Instagramを見ることもできるが、体験の質が低いため、見たいと思わなくなる。電子ペーパーのリフレッシュレートを上限まで上げればある程度はマシになるのだが、動画を数秒も見ればアプリを閉じたくなってくる。
その代わり、もっとこのデバイスに向いている用途である、電子書籍リーダーとしての利用や、オーディオブックの再生に使うようになる。電子ペーパーの4.3インチディスプレイは、解像度が800×600ピクセルで、画素密度は約230ppiと「BOOX Note Max」や「Kindle Scribe」(いずれも画素密度は300ppi)よりも低い。リフレッシュレートの変更がバッテリー消費に影響を及ぼすことや、かなりのゴーストが発生するなどの電子ペーパーの特徴は、すべてこのデバイスにも当てはまる。
しかし、ディスプレイを見ずに音楽やポッドキャストを聴くのであれば、このデバイスでも十分だ。Bluetooth 5.2、ヘッドホン端子、USB-Cポートを備えているため、イヤホンやヘッドホンの一般的な接続方法はすべて揃っている。
デバイスの外観はどちらかと言えば平凡で、現在や過去のさまざまなデバイスに似ている。筐体の角がシャープになっている点も、スマートフォンというよりも、むしろ小さなKindleのように見える上質感を与えることに貢献している。その一方で、35キーの物理QWERTYキーボードを搭載している点では、Blackberryの再来のようにも見える。
デバイスの背面には1600万画素のカメラがあり(そう、この端末にはカメラが搭載されている――それも2つもだ)、おそらく筆者がこれまでに触れてきた中でも最も指紋が付きやすい黒いプラスチック素材になっている。30ドル(約4400円)で買えるMagSafe対応ケースがあるのも素晴らしい。
全体的に作りはしっかりしているが、まだ初代モデルであることもあって、優れた点もあるが、いまひとつな点も見られる。タッチディスプレイのレスポンスは極めて良好で(電子ペーパーにつきもののラグはある)、ディスプレイの下にある3つのタッチボタンは非常に機能的だ。しかし、キーボードについては良いところばかりではない。
2000年代半ばにBlackberryを使っていた筆者にとっては、物理QWERTYキーボードの存在はうれしい。しかし、その設計はもっと考え抜かれたものであるべきだ。Minimal Phoneのキーボードには、もう少し改善が必要だと言わざるを得ない。
キーは非常に小さく、ぐにゃぐにゃとした感触で、素早く入力するのが難しい。それに加えて、スペースバーには2カ所からクリック感が返ってくるような奇妙な感触があり、キー入力をミスしたような感覚に陥る。また、特殊文字を入力する際に、キーの場所を見つけにくい。配置にはある程度規則性があるが、それを覚えるには時間がかかる。
このデバイスにはコンパスやNFCチップも搭載されており、BluetoothとWi-Fi 5の両方に対応しているため、基本的には典型的なAndroidデバイスだと言っていいだろう。純正のAndroid 14が搭載されており、初期状態では「Minimalランチャー」が立ち上がるようになっている。このランチャーは、その名の通り最低限(minimal)のもので、その見た目は文字だけのデザインを採用した「Light Phone III」のディスプレイに似ている。
できれば、「Nova」や「Niagara」などの他のランチャーも試してみるといいだろう。これらのランチャーは、アイコンが高コントラストで表示される電子ペーパーでも見やすいように設計されており、もっとグラフィックを多用したインターフェースになっている。
ビジュアルと言えば、カメラについても触れておこう。まず、500万画素の前面カメラは本体の左下に配置されているが、これは持っている手がかぶってしまいがちな位置で、慣れるのには時間がかかる。
第2に、1600万画素のメインカメラは期待外れだ。このカメラは写真を撮るものではなく、QRコードの読み取りや、「Google翻訳」や、簡単な文書の撮影といった実用的な用途に使うためのものだと考えてほしい。画像はカラーで撮影されるが、それをカラーで見るには他のデバイスに転送する必要がある。
最後になったが、バッテリーについても触れておかなければならない。本来、電子ペーパーのデバイスにはバッテリーの持ちの良さが期待されるものだ。ところがMinimal Phoneは、「Super Retina XDR」OLEDディスプレイを搭載しているわけでもないのに、バッテリーの持続時間が予測しにくい部分がある。
スタンバイ時間は極めて優秀で、待機中のバッテリー消費は非常に小さい。通話やメッセージングなどの基本的な用途に使う場合も、バッテリー消費は許容範囲だ。しかし、アプリを使うとバッテリー消費が目に見えて上がってしまう。
電子書籍リーダーとして使うなら、妥協できるレベルだった。しかし筆者は、もっとバッテリー消費を最適化してほしいと思っているし、将来のソフトウェアアップデートや最適化で改善されるのではないかと期待している。
購入のアドバイス
理屈の上では、Minimal Phoneは非常に個性的なデバイスになれるだけのさまざまな特徴を備えている。しかし実際には、画期的な製品というよりは、電子ペーパーディスプレイを搭載したありきたりなAndroidデバイスだと感じた。これは「ダムフォン」ではないが、ハードウェアの制約によって、現実的な用途を大きく狭めている。
物理的なデザインには改良の余地があるが、そのアプローチ自体は斬新だ。一言で言えば、Minimal Phoneは、スマートフォンの利用を完全にやめてしまいたいユーザー向けというよりは、スマートフォンを使う範囲を減らしたいユーザー向けのデバイスだと言えるだろう。2台目のデバイスとして使うか、メインのスマートフォンを自宅や職場に置いておき、外出するときにだけ持っていくデバイスとして使うことをお勧めしたい。
この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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