FRBの利下げ再開は9月以降か、トランプ氏の“無理筋”要求と暴言を受け流すも身動きがとれない実態Photo:EPA=JIJI

5月のFOMC後の記者会見で、パウエルFRB議長はトランプ大統領の利下げ要求が金融政策に影響していないと明言した。だが、大統領の関税政策ゆえに景気とインフレの板挟みの中、動けない状態が続いているのが実情である。今後の関税政策と経済の見通しに基づき、利下げ再開の時期を予測する。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

利下げせよと要求するトランプ氏が
利下げできない原因である皮肉

「全く影響していない」

 政策金利の据え置きを決定した5月7日のFOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見で、トランプ米大統領による利下げ要求の金融政策への影響について問われたパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は明言した。

 トランプ氏は大統領就任以降、FRBへの利下げ要求発言を繰り返し、4月21日にはパウエル議長の解任まで口にし、米国株・米国債・ドル安のトリプル安を招いた。

 相場の動揺への反省からか解任こそ口にしなくなったものの、今回のFOMC後には、利下げしなかったパウエル氏を「愚か者」と呼ぶなど批判を続けている。

 トランプ氏の利下げ要求が金融政策に全く影響がないとの発言は、中央銀行の独立性の観点から言えば当然ではある

 ただ今回の金利据え置きは、トランプ氏の要求を無視したようにも見えるが、実情はトランプ氏の関税政策のために動くに動けない状態にあるがゆえの決定である。皮肉にも利下げしろという人物が利下げできない原因を作っているのだ。

 相互関税、鉄鋼・アルミや自動車の分野別関税など一連の関税導入は輸入価格を上昇させ、企業が最終価格に転嫁すれば物価を上昇させる。

 物価が上昇すれば、消費者は購入を手控える。企業が転嫁を抑制すれば利益が減少する。いずれにしても景気を減速させる要因となる。

 FOMCの声明でも、今回は「失業率の上昇とインフレ率の上昇のリスクが高まっていると判断している」との表現が追加された。

 失業率の上昇、つまり景気悪化を防ごうとすれば金利を引き下げる必要がある。一方、インフレ率上昇を抑制しようとすれば金利を引き上げないまでも引き下げることは難しくなる。

 結果として、両方のリスクが高まっているという状態では、動くに動けないということになる。そこにトランプ大統領の関税の賦課と直後の延期表明といった朝令暮改が拍車をかける。

 声明文では経済見通しの不確実性が一段と高まっているとされ、前回から「一段と」との表現が付け加えられた。金融政策の先行きは「トランプ氏の動向次第ということがにじみ出ている」(小野亮・みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部プリンシパル)といえる。

 では、今後のFRBの政策金利動向はどうなるのか。次ページでは、米国経済の見通しを予測しつつ、検証する。