
bokula.のメジャー1stアルバム「MELT」がリリースされた。
「MELT」には初のアニメタイアップとなった「一瞬で治療していたのに役立たずと追放された天才治癒師、闇ヒーラーとして楽しく生きる」のオープニングテーマ「ライトメイカー」や、ゆかりの深い内山ショート(シンガーズハイ)をフィーチャリングゲストに迎えた「magatama feat. 内山ショート」、えい(G, Vo)が好きなTRICERATOPSへのオマージュソング「トラッシュミー」などバラエティに富んだ全12曲を収録。アルバムのタイトルには「リスナーの日常生活に溶け込めるような音楽になってほしい」「情けなくカッコ悪い面も含めてbokula.をもっと知ってほしい」というメッセージが込められている。
全収録曲のソングライティングを担当するえい曰く、「ロック以外のいろんな音楽から自然と吸収したものが落とし込めている」という「MELT」。かじ(G)、さとぴー(B)、ふじいしゅんすけ(Dr)のこだわりのプレイも際立つこのアルバムの聴きどころや制作裏話について、メンバー全員に聞いた。
取材・文 / 西廣智一撮影 / 須田卓馬
──メジャー1stアルバム「MELT」、名刺代わりのような1枚に仕上がりましたね。
えい(G, Vo) ありがとうございます。全曲カラーが違っていて、多方面にアプローチできる楽曲がそろったんじゃないかなと思っています。
──1年前のEP「涙 滲むのは心の本音です.」以降に発表された楽曲はどれも、1曲1曲の濃さやバリエーションの豊かさ、完成度の高さがどんどん強まっている印象があります。主に作詞作曲を担っているえいさんはご自身でどう感じていますか?

えい(G, Vo)
えい メンバーからもそう言ってもらうことが多くて。アレンジに対する探究心を突き詰めようみたいな意識はこれと言ってなかったんですけど、日頃からロック以外にもいろんな音楽を聴くことが好きなので、自然と吸収したものが落とし込めているのかな。だから、「次のアルバムですげえやつを作ってやる!」という感じでもなくて、わりと自然体の中で生まれた曲がそろった印象です。あと、どういうアルバムを作っていくかを松崎さん(bokula.が所属するTOY’S FACTORY内レーベル・factorySのレーベルヘッド・松崎崇)に相談したときに、「もちろん自分が好き勝手に作るのもいいけど、それよりは1曲1曲全部に意味を持たせられるようにしよう」という話になって。
──具体的にはどういうことなんでしょう?
えい 例えば「ライトメイカー」だったらアニメのタイアップを受けてどういう気持ちが乗せられているかとか、「トラッシュミー」だったら僕が父親の影響で聴いてきた音楽を自分のフィルターを通して若い人たちに届けたいとか、誰かと楽曲について話すときにテーマや内容について伝えやすい楽曲をそろえようと考えました。
──なるほど。メンバーの皆さんはえいさんから上がってくる新曲を聴いて、変化を感じる瞬間もあったかと思いますが、それによって皆さん自身も変化や成長を遂げたんじゃないでしょうか。
さとぴー(B) それはめちゃくちゃあると思います。去年メジャーデビューしてからえいは上京したんですけど、それ以降に届く楽曲のクオリティがどんどん上がってきて、曲を受け取る僕ら3人も、自分がやっているパートに対するこだわりが気付かないうちに強くなってきたと思うんです。特にアルバムの制作終盤あたりでは、その傾向がより高まったんじゃないかな。

さとぴー(B)
ふじいしゅんすけ(Dr) 今までの楽曲で考えたら、僕が叩くドラムの上でギターが鳴ってベースが鳴って、そこにボーカルが乗る──それで終わっていたんですけど、新曲のデモが上がってくるたびに「ピアノとか入れたらめっちゃ合うんじゃないかな」とか、ドラムと竿(ギターやベース)だけじゃない楽器もしっかりイメージとして持てるようになりました。
かじ(G) 今回はいろんな方向性を持った曲がそろいましたけど、自分はどちらかと言うと狭い範囲で音楽を聴いてきたから、新しい扉を開けた意識が強くて。上の世代が聴いてきた音楽に触れることで、その世代のギタリストのプレイや手癖を自分なりに解釈して、そうやって培ったものをアルバムにも落とし込めたのかなと思います。
──1年前のEPまではロックバンドとしてどうやって広がりを見せていくかを考えてがんばっていたのかなと思ったんですけど、「MELT」ではそういう次元ではなく、ジャンルに縛られずに自分らしく音楽を奏でていこうという、ポップス職人的な気概が感じられたことが個人的に興味深かったです。
えい 本当ですか。そういうことはまったく意識してなかったです。メンバーの好きな音楽も違うから、そこに対して気を使いながら作曲することもあったんですけど、今はそういう気持ちを完全に取っ払って、自分の武器を最大限に活用できている気がします。なので、メジャーデビューしてからのほうがやりたいことを形にできるようになりましたね。今までのようにライブバンドらしい暑苦しいロックもいけるし、ロックに疎い人たちが楽しめるようなポップスもいけるし。
はっちゃけた曲で正解
──アルバムタイトル「MELT」にはどういう意味が込められているんでしょうか?
えい bokula.として今まで出してきた楽曲は「いつ失ってもいいように.」とか「涙ばっかのヒロインさん」とか、日本語のタイトルが多いんですけど、インディーズで出した「FUSION」と同様にフルアルバムのときは……特に理由はないんですけど、英語にしているんです。それで今回も「MELT」にしたわけで、これについてはnoteのほうでも詳しく説明していて(参照:MELT|えい | note)。「MELT」には“融解”という意味があるので、自分たちの楽曲が日常生活に溶け込めるような音楽になったらいいなという思いで付けてみました。例えば、日常のラップ音だったりノックする音だったり足音だったりがあの曲のリズムに似ているとか、そういう些細なことが音楽につながる状況ってあるじゃないですか。生活の中に存在する音楽のかけらと混ざり合うことでこのアルバムは完成するんだよ、という意味が込められているんです。あと、「MELT」というワードには“情けない”という意味もあって。ライブをしているときはカッコいいかもしれないけど、ステージを降りた自分はそうでもないので(笑)、カッコよくない面も落とし込まれた楽曲を通して、僕のことをもっと知ってほしいと思って選んだタイトルでもあります。
──アートワークはかなり抽象的ですが、「MELT」というタイトルにぴったりですよね。
えい 面白いですよね。これがなんなのか、僕はいまだによくわからないんですけど。
ふじい 砂漠じゃない?

「MELT」ジャケット
──雪山にも見えますし。
えい ですよね。「MELT」っていう自分が掲げたタイトルと相まって、「なんだろう?」と興味を惹き付けるようなアートワークになっているのがうれしいですね。僕は最初、ちょっとフィルム焼けっぽくてドロっとした雰囲気を提案したんですけど、こういうきれいでソリッドなイメージが混ぜ込まれたのは意外でした。
──アルバムリリースに先駆けて、4月4日には「ライトメイカー」が配信されます。テレビアニメ「一瞬で治療していたのに役立たずと追放された天才治癒師、闇ヒーラーとして楽しく生きる」のオープニングテーマとして話題の1曲です。取材時点(※インタビューは3月下旬に実施)ではアニメ放送前ですが、曲調的にはオープニングにぴったりな雰囲気があります。
えい ありがとうございます。ゼノスというキャラクターの境遇がわりと自分と似ていたところもあったので、歌詞はすんなりとできあがったんですね。歌詞を作ってからは、なかなかイメージがつかめなくて悩んでいたアレンジもハマっていって。
ふじい 最初は2ビートを入れることに対して「どうなの?」って言ってたもんな。

ふじいしゅんすけ(Dr)
えい アニメのオープニングテーマで2ビートというと、僕が知っている中では「チェンソーマン」でのマキシマム ザ ホルモンの「刃渡り2億センチ」くらいだったので、あれくらい振り切ってやっちゃってもいいのかなと。それで試してみたら、松崎さんに「カウンターカルチャーになってる」と言ってもらえてようやくホッとしました。毎回そうなんですけど、僕自身は「微妙じゃないかな?」と思ったものに対して自分以外の全員が「いいよ! ハマってるよ!」と言ってくるという。自分がハマってないと思う曲が、実はいい曲なんじゃないかという気すらしています(笑)。この曲も自分の中では王道を行ってない感じがして不安だったけど、結果的にはアニメサイドの人たちにもすごく喜んでもらえました。
ふじい 「ライトメイカー」みたいなはっちゃけた曲で正解だったんじゃないかな。バンド的にもこれから先、いろんな場面で助けてくれる曲になると思うし。
──今後のライブもアニメ経由でbokula.を知ったお客さんが増えるでしょうし、バンドにとってもいい入り口がまた1つ増えましたね。
えい ごくたまにアイドルと一緒になるイベントもあるんですけど、普段のライブからbokula.のファン以外も取り込めるよう意識しているので、bokula.を知るきっかけになる曲が増えること自体すごくうれしいです。
さとぴー イベントでbokula.を初めて観て、そのあとワンマンに来てくれた人もいるし。この曲きっかけに、今までbokula.を知らなかった人がファンになってくれることを願っています。
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──ここからはアルバム全体のお話に移ります。最初にこのアルバムを聴いたとき、オープニングナンバー「優しさに気づけば」とラストナンバー「love!!bow!!flare!!」に「MELT」のすべてが集約されているんじゃないかと思いました。
えい なるほど、それは興味深い意見ですね。実は最後の最後まで、「love!!bow!!flare!!」は収録しないつもりでいたんです。この曲は最初、ライブを想定してみんなで盛り上がる曲が欲しいなと思って書いたんですけど……自分で書いておいてなんですが、歌詞が抽象的すぎて意味がよくわかんねえなと(笑)。アルバムのテーマ的には違うかなと思っていたんですが、レーベル側からは「絶対に入れたほうがいい」とプッシュされたんです。で、試しにもう1曲作ってみたんですけど、そっちもそっちで違うなと感じて、最終的には“アルバムの中にあるいろんな色の1つ”として存在したら面白いかなと思って「love!!bow!!flare!!」を入れることにしました。実際にアルバムを通して聴くと、この曲が最後にあって正解だったなと、あとになって納得できました。
かじ 唯一、最後までどうなるかわからなかった曲だよね。

かじ(G)
えい そうだね。でも、レコーディング自体はすごく楽しかったですよ。ほかの曲と比べていろんな音が入っていますし、ベースもウォーキングベースを入れてもらったりしていて。ドラムもいろいろ工夫されているしね。
ふじい 最初に送ってくれたビートよりも自分が考えたビートのほうが合うんじゃないかってことで提案したら、それを採用してくれて。
えい 「love!!bow!!flare!!」だっけ、僕がかじくんのレコーディングでディレクションをしたのって。
かじ これもそうだし、わりと今回のアルバムはそういう場面が多かったよね。「トラッシュミー」もそうだし「トラウマなんです」もそうだし。
ふじい 「love!!bow!!flare!!」も「トラウマなんです」も制作は短期決戦で、自分の中で走り抜けた感があったなあ。「トラウマなんです」は確か、レコーディングで2テイクしか録ってないし。気持ちがアガッたまま最後まで走り切るみたいなイメージでした。
えい 「トラウマなんです」の話題になっちゃいましたけど、「優しさに気づけば」と「love!!bow!!flare!!」の話でしたよね(笑)。「優しさに気づけば」に関しては……本当に曲名通りなんですよ。この曲を聴いて思いやりの心に気付いてもらえればうれしいし、そういう応援ソングになっているんじゃないかな。ちょっと説教っぽいところもある楽曲なので、「涙ばっかのヒロインさん」とかある程度のSFが入っているものよりは自分のリアルを書いた曲かもしれないです。
──オープニングのこの曲とラストの「love!!bow!!flare!!」は、歌詞の作風的にも対照的ですよね。
えい 完全に真逆ですね。「歌詞を書いた人、絶対に別人だろ」と思われそう(笑)。でも、好きな音楽が散らばりすぎているからこそ、自分の中にいくつもの人格があるような感覚はありますし、それが作詞においても発揮されているのかな。そういう意味では、「優しさに気づけば」は自分が主人公の曲なんでしょうね。
さとぴー、褒められてソワソワ
──ここまでタイトルが挙がった楽曲をはじめ、「MELT」の収録曲は全体的にリズムがタイトで気持ちいい仕上がりだと思いました。
えい それも成長ですよね。特にさとぴーの伸びしろがすごくて。今までは自分がアレンジしたベースフレーズを持ってきて、それをほぼ完コピーしてもらっていて、彼がちょっとだけいじってみても「それ、音が違うよ」みたいなことが多々あったんですけど、今回に関してはけっこうお任せでした。なんなら俺のほうがコードを間違えてることもあったくらい、曲や歌詞に対しての理解度をちゃんと深めてフレーズを持ってきていました。今回はその力量も含めて、彼が一番曲に寄り添ってくれていたんじゃないかな。
さとぴー この1年で、曲への理解をめちゃくちゃ深められるようになりましたね。

さとぴー(B)
ふじい いろんなことしよったもんね。一昨年くらいから楽曲のコードを全部書いて、それを目で見て「どのフレーズが合っているのか」をいろいろ試してみて、1年くらいでそれをちゃんとマスターできるようになって、今はしっかりその成果が形になって表れるようになったわけだから。成長だよね。
さとぴー なんかソワソワするわ、こんなに褒められると(笑)。楽曲との向き合い方が変わったことで、アプローチの仕方もわかってきたというか、曲ごとに何が求められているのかを理解できて視野が広がった気がします。
──さりげなく主張が感じられるベースですよね。ふとした瞬間に前に出てきて、印象的なフレーズで聴き手を惹き付けることができるというか。
さとぴー そこも狙いを定めて弾けるようになったからこそですね。
えい 例えば、4拍あってそのうちの1拍が空くとしたら、そこにしっかりベースを埋め込むのが上手になりましたし。
“超わがままプレイヤー”ふじい、バレない程度に味付けしたかじ
──ドラムに関しては、もはや強い安心感が伝わります。
ふじい おお、うれしい。僕ってもともとは尖った感じで育った“超わがままプレイヤー”なので、「トラウマなんです」のようなテンポが速い楽曲のときは思うままに叩き切るんですけど、最近はメンバーが弾きやすいことを意識して叩くようにもなってきて。その両面を持てるようになったのは、自分の変化として大きいかもしれないです。
──「トラッシュミー」のような楽曲は、まさに後者の意識で叩いた曲かなと思いますが。
ふじい 実は「トラッシュミー」は自分的に新しい課題すぎて、レコーディングに一番時間がかかったんですよ。送られてくる楽曲のレベルがどんどん上がっていく分、高い演奏技術もたくさん求められるようになって、自分的にも挑戦がすごく増えました。「トラッシュミー」は1日がかりでしたけど、苦戦しながら録り終えたものの、あとから「もっといろいろできたかも」と思う部分も出てきたので、それは今後のライブでどんどん実践していこうかなと思ってます。

ふじいしゅんすけ(Dr)
──ギターに関しても要所要所で2本の絡みが用意されていたり、歌メロの裏で鳴る気持ちいいメロディだったり、印象的なプレイが随所にフィーチャーされています。
えい ギターに関しては、僕がある程度フレーズを用意していって、それをかじくんに弾いてもらうことが多かったんですけど、自分には出せないニュアンスが随所にちりばめられていますね。
かじ 自分なりの味付けは、バレない程度にちょいちょい足しているんです。「トラッシュミー」のソロとかね。
えい あれよかったね。
かじ 「こんな僕ですが、何卒」(2023年リリースのEP「Phantom youth」収録曲)の頃は「ギター2人で掛け合いをしてこそロック」みたいな意識が強かったんですけど、今回の「トラッシュミー」では2人のスタイルの違いがモロに出ていて、より洗練されたギターソロを披露できたんじゃないかな。
ふじい ギターの掛け合いに関する2人のやりとりもめっちゃ面白かったし。
さとぴー レコーディングブースの外から見てたよね。
ふじい えいも「そんなんじゃないよ! もっとかじくんを出してよ!」みたいなこと言ってて。
かじ あったね(笑)。
えい そうだっけ。覚えてないわ(笑)。
──「トラッシュミー」での長尺ギターソロでは切り替わるポイントがわかりやすいくらい、2人のプレイスタイルが異なることがしっかり伝わります。
えい 僕はニュアンス重視で自由な動きをするんですけど、かじくんはタイトで精密度の高いプレイだから、動と静みたいな感じで。ギターソロって近年は聴かれずにスキップされたりすると言われてますけど、「トラッシュミー」に関しては楽曲を構成する必要不可欠な要素になっているんじゃないかと思います。
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