
「おもちゃは子供のもの」という固定観念は薄れ、玩具業界では大人でありながら玩具やゲームを楽しむ「キダルト(Kidult)」層の存在感が増している。
彼らは高額なレゴセットを求め、ぬいぐるみに熱中し、人形とファッションを合わせる。
この購買力旺盛な市場に、玩具大手ハズブロが成長戦略の柱として本格的に照準を合わせた。『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報じたこの動きは、同社の課題と業界の変化を映し出す。
「キダルト」が収益の6割超
成長エンジンとしての期待と再編
ハズブロにとって、13歳以上の顧客は既に収益の約6割を占める。
同社はこれをさらに強化し、スター・ウォーズのフィギュアや『モノポリーGO!』のようなデジタルゲームを通じて、この層からの成長を目指す。ハズブロのCFO兼COOである Gina Goetter (ジーナ・ゲッター)氏は、「この層は購買力と持続力がある」と語り、関連事業への投資を強調する。
パンデミック後の需要減退を受け、ハズブロは過去数年で6億ドルのコスト削減と製品SKU(最小管理単位)の80%削減という大胆な再編を断行。
不採算製品を整理し、サプライチェーンを効率化することで、2027年までに10億ドルのコスト削減を目指す。削減されたコストは収益改善と、マーケティングや新製品開発への再投資に充てられる。来年には自社開発のビデオゲームもリリース予定だ。
キダルト層に人気の既存ブランド活用に加え、プレイ・ドー(粘土)でバービー人形の服を作るなど、大人発のトレンドを取り入れた新製品開発も進める。
モーニングスターのアナリスト Jaime Katz (ジェイミー・カッツ)氏は、キダルト戦略には限界もあるとしつつ、「全ての人にアピールする方が良い。対象市場の可能性を広げる」と評価する。
迫る関税の影、業界安定化への新たな試練
しかし、ハズブロを含む玩具メーカーの努力に大きな影を落とすのが、トランプ政権時代に課された関税の問題だ。
ハズブロの米国向け製品の約50%は中国から輸入されており、関税の直撃を受ける。同社は中国からの輸入比率を2年以内に40%未満に引き下げる計画だが、生産拠点の移行には時間がかかる。
関税を相殺するための価格転嫁や、さらなる製品削減の可能性も示唆されている。
玩具業界は価格比較が難しく、重要な価格帯を超えずに値上げできる余地もあるとされるが、ゲッターCFOは関税が業界の安定化への進展を妨げる可能性を懸念する。「業界はようやく安定点に達しつつあった。そこへ関税がやってくる」と彼女は語る。
「子どもな大人」は、世界のおもちゃを救うか
ハズブロの「キダルト市場」への注力は、変化する消費者動向への適応を示すものだが、国際的な貿易政策という外部要因がその戦略に不確実性をもたらしている。
玩具業界がこの新たな課題にどう対応し、大人たちの遊び心を刺激し続けられるか、注目が集まる。
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