トランプ米政権は8日、貿易相手国・地域との関税交渉で最初の成果となる英国との貿易枠組み合意を公表した。国際経済の在り方を抜本的に変革する取り組みの第一歩だとトランプ大統領は強調し、歴史的意義を誇示した。
しかし、大統領が合意の詳細を明らかにし始めると、公約していた「完全かつ包括的な協定」や1期目で目指した米英自由貿易協定に及ばないことが明らかになった。
トランプ氏は、旧連合国の欧州戦線での勝利80周年に合わせた今回の発表が、自らの経済政策への信頼回復につながると期待していた。ソーシャルメディアに事前投稿し、スターマー英首相と大統領執務室の電話で話すなど演出に細心の注意を払った。
今回の枠組み合意により、米国は英国市場へのアクセス拡大と通関手続きの迅速化を実現するが、英国は自動車・鉄鋼・アルミニウム関税の軽減にとどまる。他の多くの細目は今後の協議に委ねられる。
米国が輸入する英国製自動車の関税率は、年10万台を上限に現行の27.5%から10%程度に引き下げられる。英政府によると、鉄鋼とアルミニウムへの25%の追加関税もゼロになる。貿易相手国・地域に一律に課す10%の上乗せ関税は維持される。
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米シンクタンク、外交問題評議会の上級研究員ブラッド・セッツァー氏は「欧州、日本、韓国との今後の一層大事な交渉の重要な先例になる」とX(旧ツイッター)に投稿した。
一方、デューク大学ロースクールのティム・マイヤー教授(国際通商法)は「市場一般や米経済に関心を持つ人々の観点からすれば、中身がない。どう見ても枠組みに過ぎず、実質的には協定ではない」と指摘する。

ホワイトハウスの大統領執務室で、英国との貿易枠組み合意を発表するトランプ氏(中央、5月8日)
Photographer: Bonnie Cash/UPI/Bloomberg
スターマー首相は「細部の一部を詰める」必要があると認めながらも、「素晴らしい」合意だと称賛した。トランプ氏は、合意を誇張し過ぎではないかとの質問を一蹴し、「双方にとって素晴らしい取引だ。どの国も取引をしたがっている」と語った。
支持率の低下に直面するトランプ大統領は、自らの関税政策がグローバル市場の安定を損ない、リセッション(景気後退)の可能性を高める状況にもかかわらず、勝利宣言したがっている。短期的痛みはあっても、対米投資を増やす取り組みだと大統領は主張するが、成果を示し、経済不安を鎮めようとしていることは明らかだ。
ナバロ大統領上級顧問はトランプ氏について、「失敗しないぎりぎりの速さで動いている。失敗はしていない。幾つも取引が成立するだろう」とFOXビジネスの番組で発言した。英国との合意発表後の投資家の反応は肯定的で、8日の株式市場では、ほぼ全ての主要セクターの株価が上昇した。

スターマー英首相
Photographer: Darren Staples/Bloomberg
今回の合意では、米国企業が対英通商関係で抱える最大の懸念が一部先送りされた。英国はIT大手にとって打撃となるデジタル課税を維持する方針であり、今後のデジタル貿易協定締結に努力するという曖昧な約束にとどまった。
トランプ政権が近く発表する医薬品への追加関税の扱いも決着していない。英国は米国産農産物への関税を一部撤廃したものの、食品基準の厳格な規制は続く。
原題:Trump’s Scant UK Deal Shows Limits of Frenzied Trade Strategy(抜粋)
(専門家の見解を追加して更新します)
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