
ドナルド・トランプ大統領がアフリカのレソトからの輸入品に50%の関税を課すと発表しました。この発表から2週間も経たないうちに、レソトの通信規制当局はStarlinkの代表者と会合を開き、同国初の衛星インターネットサービスとしてStarlinkを採用したことをThe Washington Postが報じています。
Nations facing tariffs pushed to approve Elon Musk’s Starlink, cables show – The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/business/2025/05/07/elon-musk-starlink-trump-tariffs/
SpaceX’s Starlink has become a big benefactor of Trump’s tariff trade war, leaked memos show | TechCrunch
https://techcrunch.com/2025/05/07/spacexs-starlink-has-become-a-big-benefactor-of-trumps-tariff-trade-war-leaked-memos-show/
トランプ大統領の顧問を務めるイーロン・マスク氏は、航空宇宙メーカーのSpaceXを所有しています。このSpaceXは衛星インターネット事業としてStarlinkを展開しており、Starlinkはレソトでの顧客獲得を目指して、2024年4月にライセンス申請書を提出していました。
このライセンス申請書は承認されないままとなっていたのですが、トランプ大統領がレソトへの50%の関税を発表し、貿易協定を巡る交渉を呼びかけた直後に、レソト政府はStarlinkに対して同国初の衛星インターネットサービスとなるライセンスを供与することを決定しました。このライセンスは10年間有効となる予定です。
PUBLIC ANNOUNCEMENT – LICENSING OF THE FIRST SATELLITE INTERNET SERVICE IN LESOTHO – LCA
https://lca.org.ls/public-announcement-licensing-of-the-first-satellite-internet-service-in-lesotho/
The Washington Postはアメリカ国務省の内部メモを独自に入手しており、これには「レソト政府がアメリカと貿易協定を交渉する中で、Starlinkのライセンス供与がアメリカ企業を歓迎する善意と意図を示すものとなることを期待している」と記されていたそうです。
レソトはアメリカからの関税を回避するためにマスク氏の保有する企業を支援することを決めた唯一の国というわけではありません。SpaceXは2025年3月にインドの供給業者2社と販売契約を締結しており、他にもソマリア、コンゴ民主共和国、バングラデシュ、パキスタン、ベトナムでも少なくとも部分的な合意を取り付けています。The Washington Postは「これは恐らくすべてを網羅したものではない」と報じており、他にも多くの国でSpaceXが有利な契約を結んだ可能性を示唆しました。
The Washington Postが独自に入手した政府内部文書には、アメリカ大使館と国務省がStarlinkを名指ししながら、Starlinkの障害を克服するために各国に圧力をかけてきた経緯が説明されています。トランプ陣営が関税引き下げと引き換えにStarlinkへの便宜を明確に要求したという記述はないものの、政府は幅広い貿易協議を進める中で、マルコ・ルビオ国務長官がStarlinkに対する規制承認取得を政府当局に強く求めるよう指示を強めていることが示唆されています。
インドでは政府関係者がStarlinkの承認を急いでいますが、「これは政権との貿易協定を強化するのに役立つ可能性があるとの認識から」とThe Washington Postは指摘しました。The Washington Postに情報提供した匿名の関係者は、「アメリカとの貿易交渉の明確な要素となる可能性は低いものの、インドはこれ(Starlinkに便宜を図ること)を同意を円滑にする重要な潤滑油になるとみています」と語っています。
The Washington Postからコメントを求められた国務省は、「Starlinkはアメリカ製品であり、世界中の遠隔地でインターネット接続を実現する上で画期的な成果を上げてきました。愛国心を持つアメリカ人ならだれでも、アメリカ企業が世界舞台で特に弱体化した中国の競合他社よりも成功を収めることを望むはずです」という声明を出しました。
ホワイトハウスの報道官であるクシュ・デサイ氏も、今回の報道について「トランプ政権が他国との貿易交渉に置いて唯一考慮するのは、アメリカ国民にとって何が最善かということだけです。これにはアメリカ企業が国内外で成功することが含まれます」「トランプ大統領はいかなる利益相反も容認せず、政府関係者は皆、それぞれの期間が定めた倫理ガイドラインに従っています」とコメントしました。
なお、The Washington Postは他にもSpaceX、インド政府、レソト政府、その他数カ国の広報担当者にコメントを要請していますが、返答は得られていません。
アメリカ政府が世界中の国々に対してStarlinkの導入を奨励したのは今回が初めてではありません。2024年12月初旬にはバイデン政権で国務長官を務めたアントニー・ブリンケン氏の署名入り電報が各国の大使館に送られました。この電報では「低軌道(LEO)衛星」(Starlink)の利点が喧伝されており、「従来のインターネットサービスプロバイダーに代わる堅牢な代替手段」と評されています。この時点で50の在外公館がStarlinkを利用していたそうですが、アメリカ国務省はStarlinkを世界中のより多くの公館に拡大するべく電報を送ったものとみられています。
また、トランプ政権下でもルビオ国務長官の署名入りの電報が少なくとも2本世界中の省庁職員に送信されており、ここでもアメリカの衛星インターネットサービス(Starlinkを含む)の推進が推奨されています。この電報はアメリカの駐在国に衛星インターネットサービスの導入を推奨するもので、電報のひとつにはルビオ国務長官の署名入りの「行動要請」が記されており、「アメリカ政府の支援は世界的な先行者優位性を維持・拡大するために不可欠である」と主張しました。
電報によると、少なくとも2カ国がトランプ政権の関税を回避しアメリカとのより良い貿易協定を交渉する手段として、マスク氏のStarlinkの導入について明確に議論したり、導入に向けた具体的な動きを進めたりしています。
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