コウイカは非常に高い知能を持つ海洋生物です。
そしてこのほど、仏・高等師範学校(ENS)、米セントルイス・ワシントン大学(WashU)らの研究で、コウイカが腕のジェスチャーを使って仲間とコミュニケーションを取っていることが明らかになりました。
その「腕ふり」には主に4つのタイプがあったとのこと。
さらにコウイカの腕ふりは視覚的にだけではなく、腕ふりで発生する「水中の振動」によってもコミュニケーションを取っている可能性が示されました。
さて、彼らの腕ふりはどのようなものだったのでしょうか?
研究の詳細は2025年5月5日付でプレプリントサーバー『bioRxiv』に公開されています。
目次
- 人間の子ども並みの知能を持つコウイカ
- 4種類の「腕ふり」を発見!
人間の子ども並みの知能を持つコウイカ
コウイカは、とても頭のいい生物として知られます。
例えば、コウイカは長期記憶を持ち、過去の経験をもとに行動を変えることが可能です。
また実験では、報酬のある刺激とない刺激を区別し、学習する能力が確認されています。
有名な実験に「マシュマロ・テスト(自制心を測る課題)」がありますが、コウイカにも似たような課題が課されました。
結果、コウイカはより良い報酬のために、目先の小さな報酬を我慢する能力が見られ、人間の子どもやチンパンジーに匹敵するレベルであることが示されたのです。

加えて、コウイカの脳にレム睡眠に似た活動状態が見つかっています。
これは彼らに「夢を見る」「記憶の再構築を行っている」など、高次の脳活動がある可能性を示唆するものです。
それから研究者たちは、コウイカが体色の色彩変化を使って、仲間と視覚的にコミュニケーションを取っていることを知っていました。
またコウイカは柔軟に動く8本の腕と2本の触腕を持っており、それらを駆使して、自由自在に泳いだり、狩りをしたり、岩壁に擬態したりしています。
そして研究チームは今回、コウイカがこれらの腕を意図的に使ってコミュニケーションしているかどうかを調査。
その結果、コウイカは特定の「腕ふり」で仲間と会話している可能性が見つかったのです。
4種類の「腕ふり」を発見!
本調査では、2種類のコウイカ(ヨーロッパコウイカ:Sepia officinalis とバンダコウイカ: Sepia bandensis)を対象に実験を実施。
それぞれの種を大西洋とインド太平洋で採取し、成体のヨーロッパコウイカ8匹と若いバンダコウイカ10匹を水槽内に入れて、腕ふりのサインをビデオに記録しました。
その結果、コウイカたちは明らかに特定の腕ふりによって、仲間とコミュニケーションを取っていることが見て取れました。
さらにビデオの分析から、その腕ふりは以下の4タイプに分けられています。
・1つ目は「アップ(Up)」と呼ばれる腕ふりで、腕をまっすぐ上に持ち上げる動作。
・2つ目は「サイド(Side)」と呼ばれる腕ふりで、腕を横方向に動かす動作。
・3つ目は「ロール(Roll)」と呼ばれる腕ふりで、腕を頭の下でくるりと巻き込む動作。
・4つ目は「クラウン(Crown)」と呼ばれる腕ふりで、腕を左右対称に開くように配置する動作。
それぞれの腕ふりはこちらの動画で確認できます。
(※ 視聴の際は音量にご注意ください)
これらのサインを撮影した映像を「上下正しい向き」または「逆さま」にして別のコウイカに見せたところ、コウイカは正しい向きの映像に対してより頻繁に反応し、しばしば同じジェスチャーを返してきました。
これはお互いに特定の腕ふりの意味合いを理解して、返事を返していることを示唆します。
他方で、逆さまにした腕ふりはコウイカにとって意味をなさないので、返事をしなかった可能性があります。

さらにチームは、コウイカの腕ふりが視覚的にだけではなく、触覚的にも意味を持っている可能性を見出しました。
それは腕ふりで発生する「水中の振動」です。
たとえば、水槽内に大きな岩があって互いに姿が見えなくても、コウイカたちはサインを続けていました。
水中に振動が伝わっており、それが知覚されている可能性があるのです。
これは人間のように話し言葉を持たないコウイカたちが編み出したコミュニケーションスキルなのかもしれません。
しかし他方でチームは、これらの腕ふりがどのような意味を持ち、コウイカたちが互いに何を伝え合っているのかまでは明らかにできていません。
今のところ、求愛行動という説もありますが、幼体も同じジェスチャーをしていたため、これは適切ではないようです。
防御のサインや狩りに関する何らかの動作である可能性、あるいは気分や感情を表現するための仕草の線もあり、研究者らは今後の調査で腕ふりの意味を解き明かしたいと述べています。
参考文献
Cuttlefish Wave at Each Other, And It Could Be a Mysterious Form of Sign Language
https://www.sciencealert.com/cuttlefish-wave-at-each-other-and-it-could-be-a-mysterious-form-of-sign-language
Watch cuttlefish ‘waving’ at each other in what scientists think might be communication
https://www.livescience.com/animals/mollusks/watch-cuttlefish-waving-at-each-other-in-what-scientists-think-might-be-communication
元論文
Cuttlefish interact with multimodal ‘arm wave sign’ displays
https://doi.org/10.1101/2025.04.13.648584
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
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