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概要
この記事は、奥出雲のたたら製鉄の現場を描いたもので、特殊な技術やプロセスを通じて、高純度の鉄(玉鋼)が生成される過程を詳細に説明しています。主人公たちが職人の指導のもとで行った手作業と、魔法を用いた補助が協力しあっています。
要約(箇条書き)
- 奥出雲でたたら製鉄が始まる。
- たたら製鉄は高温炉ではなく、炭火と砂鉄を使う伝統的な技術。
- 村下が重要な炉の準備をし、地元の粘土と風の管理について解説。
- 小桜が炉の内部を魔法で視覚化し、不純物の除去を手助け。
- 魔法が炉内の温度管理を助け、高純度の鉄を生成。
- 鍛冶場での作業は過酷で、深夜にかかる。
- 最後に玉鋼の塊「ケラ」を取り出す工程が、村下の熟練した勘に依存。
- 完成した玉鋼を見た村下が喜びを表し、作品に誇りを持つ。
- 作業後、小桜と智絵里は疲れ果てて寝入る。
- 朝の光が差し込む中、静けさが戻る鍛冶場。
こうして、たたら場での製鉄作業が始まった。現代の製鉄とは異なり、たたら製鉄は高温の溶鉱炉で鉄鉱石を溶かして精錬するのではなく、炭火と砂鉄を交互に炉へ投入し、長時間かけて炭素を含ませながら鉄を還元する技術だ。特に機械では真似できないのが、炉の土と送風の管理である。村下は炉の準備を進めながら、経験を積んだ職人だけが知る秘密を語った。「この炉はただの土じゃない。地元の粘土を使い、何度も焼き締めて作る。適当な材料で作ったら、一晩と持たんぞ」彼は手を休める事なく説明を続ける。「それに風だ。温度が安定しなければ、鉄は鉄にならん。火が弱すぎると不純物が多くなり、強すぎると脆くなる」炉の準備が進む中、小桜は慎重に足を踏み出し、気づかれないように龍脈とのパスを繋いだ。目を閉じ、静かに魔力を送り込む。狙いは、炉の内部の可視化だ。高温の炉の中で、砂鉄がどのように変化し、どこに不純物が集まるのかを正確に知るためだった。砂鉄が投入されると、作業が本格化する。村下の合図に合わせ、小桜は炉の内部を観察しながら、不純物の排出を手助けする。目に見えないほどの微細な魔力を送り込み、鉄の粒子と不要な成分を探るように意識を集中する。「……ほう、たいしたセンスだな」村下は驚きの声を上げた。今まで数えきれないほどの弟子たちを見てきたが、これほど精密に不純物を除去できる者はそういない。「熱いのは大丈夫か?」小桜は手の甲を軽く振ってみせ、平静を装った。実際には、魔導AIを利用して体表を保護している。だが、あまりに特異な技術を見せると怪しまれるため、「少し熱いけど大丈夫です」とだけ答えた。次に、風を送る工程が始まる。ふいごを踏む役割は重要だ。送風量を調整することで、炉の温度をコントロールし、鉄の純度を左右する。小桜は村下の指示通りにふいごを操作しながら、こっそりと魔法の風を送り込んだ。「不思議と、炉内の温度が安定してるな……」村下は眉をひそめながらも、出来の良さに満足しているようだった。通常なら職人たちの経験と勘に頼るしかない温度管理を、魔法の力で精密に補助することで、より純度の高い鉄が生み出されていく。「低温で時間をかけて純度を高めることで、現代の製鉄では作れない玉鋼ができる。溶鉱炉じゃできねぇ芸当だ」村下の言葉通り、炉の中で少しずつ結晶化していく玉鋼は、近代製鉄の大量生産技術では決して得られない特性を持つ。時刻はすでに深夜に差し掛かっていた。炉の周囲を照らす火の光が揺れ、小桜たちの影を長く引き伸ばしていた。「まだまだ、ここからが本番だぞ」村下が言う。砂鉄の投入は何度も繰り返され、ふいごの音が一定のリズムを刻む。智絵里は最初こそ興味深そうに見ていたが、次第にまぶたが重くなり、あくびを噛み殺している。「智絵里、寝たかったら休んでていいよ」「だ、大丈夫……でも、想像以上に過酷ね……」小桜自身も、ずっと集中し続けているため、疲労がじわじわと身体に溜まっていくのを感じていた。そして、ついに最後の工程。炉の中でできあがった玉鋼の塊「ケラ」を取り出す作業が始まる。これは村下の職人としての勘が最も頼りとなる場面だった。炉の壁を慎重に壊しながら、村下はじっと鉄の色を見極める。少しでも未熟な部分があれば、それは鋼としての価値を損なう。小桜は内心、魔法で補助したい衝動に駆られたが、ここは彼の領域だと考え、一歩引いて見守ることにした。やがて、村下が重い塊を引きずり出し、表面をじっくり観察した。その顔に浮かんだのは、驚きと、ほんの少しの誇り。「……こんな上等なケラ、久しく見てなかったな」彼はまるで大切な宝石を扱うように、それをそっと撫でた。すべての作業が終わった頃には、外の空はすでに白み始めていた。「ふぅ……」小桜はその場に座り込み、深いため息をつく。全身が鉛のように重く、まぶたが勝手に閉じそうになる。「私、ちょっとだけ休むね……」そう呟いたのを最後に、小桜はその場で意識を手放した。智絵里も、片隅の木箱にもたれるようにして、すでに寝息を立てている。村下は苦笑しながら、彼女たちの様子を眺めた。「……まぁ、よく頑張ったよ」
火の灯る鍛冶場に、静かな夜明けの風が吹き込んでいた。
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