AI技術の発展した現代、誰もがパソコンのキー一つで思い通りのアダルトコンテンツを生み出せる時代が訪れようとしています。
人工知能(AI)がポルノ業界に与える衝撃は大きく、まさに時代の転換点に立っていると言えるでしょう。
カナダのケベック大学モントリオール校(UQAM)で行われた研究によって、「AI生成ポルノ」サイトに対し警鐘を鳴らす発表が行われました。
最新の「AI生成ポルノ」サイトでは、登場人物の顔立ちや体形、場面設定まですべて細かく選べ、しかも静止画や動画はもちろん、仮想の恋人のような相手までも作り出せることが可能です。
AIによる自動生成ポルノ(AIポルノ)は、前例のない速度とアクセスの容易さで大量のコンテンツを生み出し、個々の嗜好に合わせた体験を可能にしつつあります。
こうした急速な変化は、アダルト業界の枠を超え、人間のエロティシズムそのものを劇的に書き換えつつあると指摘されています。
私たちはいま、その利便と危うさがせめぎ合う転換点に立たされているのではないでしょうか?
研究内容の詳細は2025年3月3日に『Archives of Sexual Behavior』にて発表されました。
目次
- ビデオ・DVD・動画そしてAIへ──技術と性欲の相互進化
- 見た目・性格・思い出までフル改造した「AIの恋人」
- 欲望をコード化する時代の倫理
ビデオ・DVD・動画そしてAIへ──技術と性欲の相互進化

ポルノはいつの時代も新しい技術との共存の中で進化してきました。
たとえば1970~80年代、家庭用ビデオデッキの規格争い(VHS対ベータマックス)ではアダルトビデオがVHS形式で積極的に供給されたことが普及の追い風になったとされています。
その後もオンライン配信への移行によって、アダルトコンテンツはより身近で個人の好みに応じたものへと変貌しました。
しかしAI生成ポルノの出現は、それまで受け手であったユーザー自身が能動的に理想のコンテンツを作り出せるという点で、ポルノの歴史におけるさらなる飛躍をもたらしています。
にもかかわらず、こうしたAIポルノの現状を実証的に調査した研究はこれまでほとんどありませんでした。
この未知の領域に踏み込むため、カナダの研究チームが包括的な調査に乗り出しました。
その筆頭著者であるValerie A. Lapointe氏(モントリオール・ケベック大学〈UQAM〉博士課程)は、「近年、私たちは新興テクノロジーが性の幸福にもたらす可能性を探ってきました。」と述べています。
「AIが高度化するにつれ、それがどんな新しい性的体験を生み出すのか興味が募りました」とLapointe氏は述べています。
当時は主にディープフェイク・ポルノ(実在人物の映像を無断で加工したポルノ)が議論の中心でした。
Lapointe氏らは「生成AIが開く可能性はそれよりはるかに広大で、しかもそれがまだほとんど研究されていない」ことに気付いたと言います。
こうして研究チームは、AI生成ポルノという未踏の領域を体系的に調べ、その実態を明らかにしようと考えました。
見た目・性格・思い出までフル改造した「AIの恋人」

今回の研究では、「AIポルノ」や「AI生成ポルノ」といった英語の検索語を用いて見つかったウェブサイトの中から、ユーザー自身が何らかの形でコンテンツ生成に関与できるサイト36件を選び出し、質的な内容分析が行われました。
調査対象のサイトはすべて英語で利用可能なサービスで、研究チームは各サイト上の説明文や案内を収集し、提供されている機能や生成手法、カスタマイズの項目などを体系的に分類・集計しました。
分析の結果、大半のサイトはユーザーに静止画の作成機能を提供しており、その割合は全体の約8割に上りました。
さらに約4割強のサイトでは動画の生成も可能であり、少数ながらアニメーションGIFや音声コンテンツ、VR(仮想現実)のシチュエーションに対応する例も見られました。
また注目すべきは、約44%のサイトで人工知能エージェントとの対話が導入されていたことです。
これはチャットボットやバーチャルパートナーと呼ばれるもので、ユーザーがAIキャラクターと会話したり、ロールプレイ的な交流を楽しんだりできる機能です。
コンテンツを生成する方法としては、主に項目選択式とテキスト入力式の二つに大別されました。
前者ではサイト側が用意した選択肢から、好みのキャラクターの特徴を一つずつ選んでいく形式です。
調査対象の97%ものサイトがこの方式を採用しており、例えばキャラクターの性別、年齢層、身体的特徴、衣服やシチュエーション(教室やオフィスなど)といった属性をメニューから指定できるようになっていました。
一方、約72%のサイトではプロンプトと呼ばれるテキスト入力にも対応しており、ユーザーが文章で細かな情景を説明することでAIがそれに沿ったコンテンツを生成します。
中にはプロンプトの書き方をサジェストしてくれる親切な仕組みを備えたサイトもあり、専門知識がなくても思い通りの画像や動画を作れる工夫が凝らされていました。
サイト上でカスタマイズ可能な範囲も非常に幅広いことが明らかになりました。
ベースとなるキャラクター像は人間だけでなく、アニメ風の二次元キャラやゲーム・映画の架空キャラクター風のものまで多彩に用意されており、ユーザーはほぼあらゆる外見上の要素を自分の好みに合わせて設定できます。
例えば身体のタイプ(グラマー、スリム等)、肌や髪の色、瞳の形、表情、衣装などの見た目から、照明の具合や天候・ロケーションといった背景のシチュエーションまで、細部にわたって自由に選択できるのです。
「使ってみて驚いたのは、どのプラットフォームも想像以上に簡単に操作でき、しかもカスタマイズの幅やリアルさが非常に高いことでした」とLapointe氏は語ります。
実際、あるサービスではユーザーが理想のエロティックな相手を一からデザインできるといいます。
そのAIキャラクターの「恋人」としての関係性の種類(例えば一夜限りの関係から長期交際まで)、趣味嗜好、性格、共有した思い出の設定、そして身体的特徴に至るまで作り込み、出来上がったパートナーとはまるで現実の恋人同士のように継続的でリアルな対話を楽しめるのです。
電話で会話することすら可能なその体験は、もはや従来の「鑑賞するポルノ」とは一線を画すものと言えるでしょう。
多くのAIポルノサイトは基本的な機能を無料で提供していますが、より高度なコンテンツを生成したい場合には課金が必要となるプレミアム機能を備えていることも分かりました。
また、一部のサイトでは現実の人物の写真をアップロードして裸にしたり(いわゆる「ヌード化」)、顔をすげ替えたりするコンテンツ改変系の機能も提供されていますが、そうした機能の利用にあたって本人の同意を確認する仕組みを導入していたサイトは36中たった1つしか存在しませんでした。
さらにユーザーコミュニティ的な側面も各所で見受けられ、投稿された画像・動画を他の利用者が閲覧したり、お気に入りやコメントで交流できるソーシャル機能を備えるプラットフォームも多くありました。
Lapointe氏は「AI生成ポルノのプラットフォームは、ユーザー自身に直感的なツールと低コストでハイパーリアルかつ双方向に没入できる画像・動画・音声・人工エージェントを作り出す力を与えることで、エロティックなコンテンツの制作と消費の在り方を塗り替えつつあります。
言わば、自分の幻想を文字通り“具現化”できる手段を提供しているのです」と指摘しています。
欲望をコード化する時代の倫理

この研究が浮き彫りにしたAI生成ポルノの現状には、明るい展望と深刻なリスクの両面が存在します。
まず技術的な可能性という点では、AIポルノは従来にはなかった形で人々の性に関するニーズに応えるポテンシャルを秘めています。
専門家らは、この技術が上手く活用されれば性的少数者や身体的制約のある人々を含むより多様な人々に安全な空間で性教育を行うことや、セクシュアリティに関するオープンな対話を促すことに役立つかもしれないと指摘します。
また、セラピーや医学・心理学研究への応用も期待されています。
例えば性的トラウマや不安を抱えるクライアントに対して、セラピストがAIで個別に調整した性的シナリオを提示し徐々に慣れさせる曝露療法に利用したり、研究者が実験のために統一された条件の性的刺激をAIで生成して被験者に提示するといった使い方も考えられます。
AIが人間の性的体験をシミュレートし創造することで、教育・治療・研究の各分野に新たな道を拓く可能性があるのです。
一方、リスクや倫理的懸念も看過できません。
誰もが手軽に高度なポルノコンテンツを生み出せるということは、裏を返せば他者の権利や社会の安全に重大な影響を及ぼす危険性を孕んでいます。
例えば、本人の同意なく実在人物の顔写真をもとにわいせつな合成画像を作成する非合意ポルノはすでに世界的な問題となっています。
ある分析によれば、ネット上に存在するディープフェイク動画の98%がポルノ目的で作成されたもので、その被害者の99%は女性だったといいます。
AI生成ポルノはこうした不正利用をさらに容易にしてしまう恐れがあるのです。
今回の分析でも、簡単にヌード化やフェイススワップができてしまうサービスが確認されましたが、そこで本人の許可を厳格に求めていたサイトはわずか1つしかありませんでした。
またこのようなコンテンツに若年層がアクセスしてしまうリスクや、作成された人工物とはいえ出演者の「同意」が存在しないという倫理上の問題も新たに浮上しています。
さらに、AIが生成するコンテンツには児童虐待的なものなど違法または有害とされる題材が含まれる可能性も否定できません。
誰でも自在に作れてしまうからこそ、そうした危険なコンテンツが世に出回るハードルが下がってしまうという指摘です。
規制当局やプラットフォーム運営者にとっても、この状況は大きな課題を突きつけています。
技術が高度化し一般に普及するにつれ、その利用をどのように管理し、個人の権利をどう守るかは極めて難しい問題となるでしょう。
現行の法律やガイドラインはディープフェイクなど一部の問題には対応し始めていますが、完全に追いつくには至っておらず、AIポルノ全般を包含する包括的なルール作りはまだ手探りの段階です。
AI生成ポルノが開けたこの新天地を、私たちはどのように扱うべきなのでしょうか。
研究者たちは未来に対して慎重な楽観主義を抱いています。
Lapointe氏は「開発スピードの速さとユーザーがコンテンツを自在に制御できることには多くの懸念があります。違法または有害なコンテンツの生成・拡散を助長したり、若年層のアクセス、同意の問題などを招きかねません」と述べています。
しかし同時に、「適切な規制の下であれば、こうしたツールは性教育やセラピーなど多くの有益な応用への扉を開くこともできるでしょう。」とも語っています。
私たちは長期的に、この技術を倫理的な取り組みに役立て、危害を減らし責任ある利用を促進するための実証に基づいた枠組み作りを目指したいと考えています。
AI生成ポルノは確かに新たな扉を開きましたが、その先に広がる世界をどう形作っていくかは、これからの私たち次第なのかもしれません。
元論文
The Present and Future of Adult Entertainment: A Content Analysis of AI-Generated Pornography Websites
https://doi.org/10.1007/s10508-025-03099-1
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部
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