膨大なタスクに追われ、「本当にやりたいこと」にフォーカスできていないビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。
ITコンサルタントとして数多くの企業改革をリードする江村出さんは『仕事を上手に圧縮する方法 仕事時間を1/5にして圧倒的な成果を上げたITコンサル流 仕事の基本』(日経BP)を上梓されました。
若い頃は人の2倍働くことで「仕事をしている」という実感を得ていたそうですが、実は何の成果にもつながっていなかったと気づいたと言います。
仕事を「圧縮」するノウハウは“一生モノの仕事術”になると話す江村さんに、短時間で成果を上げるコツや考え方を聞きました。
特集「Do Less, Focus On」とは?
目まぐるしく変化する日々、忙しさで「本当にやりたいこと」を見失っていませんか?
この特集では、時間とエネルギーを自分にとって価値あることに集中させ、心豊かな毎日と充実した成果を得るヒントをお届けしていきます。
ビジネスにおいての成果とは「新しい価値を生み出すこと」だと話す江村さん。
今はネットでさまざまな情報が得られる時代で、新しい知見もどんどん発信されている。それをインプットするだけでは仕事とは言えないのです。
「とくにIT業界は、得られた知識をみんなでシェアするというオープンソースが一般的になっています。
無数にある情報の中から必要なものを見極め、引っ張り出してつなぎ合わせて、考察することが求められるのが今の時代。少し前までは価値ある情報を見つけ出すこともひとつの成果とされていましたが、今はそれだけでは評価されません。
インプットするだけでなく、そこにどう自分の考えを積み込めるか。それが重要になる時代。
たくさんのタスクをこなすのは当然で、さらに自分のアイデアを生み出す時間が必要となると、現状の仕事を圧縮する必要があるのです」
ただし「発明のようなすごいアイデアである必要はない」と言います。
今ある技術にちょっと何かをプラスしただけでも価値が生まれることがあり、そのような気づきや発想の転換がビジネスに求められていると江村さんは指摘します。
「そのことを大事にしているビジネスマンが勝っていく時代なのだと感じています」
失っていた時間を取り戻す4つの手段
今でこそ、江村さんは仕事を圧縮して最大のパフォーマンスを上げていますが、20代の頃は「まったく成果を上げられていなかった」のだとか。
「ITコンサルは非常に多くのタスクがあり、テクノロジー理解などのハードスキル、顧客とのコミュニケーションなどのソフトスキルの両方が高いレベルで求められます。
しかし、当時の私は理解力が低い、作業のペースが遅い、考えるのが苦手で、どんなプロジェクトにおいても求められるレベルに達していませんでした。
そのため『人の2倍働こう』と1日15時間労働の日々が続き、危機感を感じたのが仕事を見直したきっかけです」
コンサルティングの仕事はプロジェクトごとにチームや職場が変わる環境。江村さんもそのリセットのタイミングごとに仕事を見直してきました。
その中で「何に時間をとられているのか」を分析し、試行錯誤していくつかのコツに気づいたといい、その一部をご紹介します。
1.「ゴール志向」で手戻り、やり直しをなくす
ビジネスパーソンの多くは、資料作成業務に時間を取られています。加えて「資料作成」が仕事のゴールになっており、「やり直し」で時間を失っていると江村さんは指摘します。
「資料は次のアクションにつなげるためにあるもので、資料をつくること自体はゴールでも成果でもありません。
また、指示を受けて作ったのに上司に提出すると『求められていることと違う』と指摘されることがある。すると、それまでの時間は無駄だったということになります。
言われたとおりにつくったのに、なぜダメなのか。
それは指示の背景やおおもとにある課題を理解していないというケースが少なくありません。
重要なのは『ゴール志向』で仕事を進めること。自分なりの模索でもよいので、この資料は何のためにつくるのか、目先のゴールではなく『本当のゴール』を見極める習慣が身に付けば、手戻りが格段に少なくなります」
自分は「目先のゴール」で仕事をしていないかどうか。
以下の対応表を見てみると、本当のゴールまで考えていなかったと気づくかもしれません。
作業をはじめる前に、不明点は事前にきっちり確認するなど、ゴール志向で「やり直し」業務を減らしていくのが仕事圧縮への近道になります。
『仕事を上手に圧縮する方法 仕事時間を1/5にして圧倒的な成果を上げたITコンサル流』P.129より
2.会議は断ってもいい
これはなかなか難しいかもしれませんが、マネジメント層は頭に入れておきたい視点です。
「呼ばれたからとりあえず出て、何も発言しないという会議なら、その時間を別の業務に使う方が有効です。
ITコンサルは成果主義なので、そういう考え方ができるのですが、他業種でも出なくてもいい会議もあるはず。
その場合は『忙しいので出られません』ではなく、この会議で自分はアウトプットすべきことがあるかどうかで見極めてみてはどうでしょう。
また、マネジメント層はその会議が本当に必要か、参加メンバーの見直しなども検討することでチームの時間を奪わずに済みます」
さらに、職場に蔓延している「謎ルール」も時間を失っている要因になっていると江村さんは指摘します。
「たとえば『とりあえず集まる定例会』『ターゲットを変えて何度も同じ話をする報告会』『少しのミーティングでも作成する議事録』など、やめる提言をすることも大事です」
3. 議事録は会議中に全員に送付して完了
議事録作成の時間も圧縮した江村さん。
「時間が無駄なのでやめましょう、という提言では認められない場合が多く、やめるからには代替するものが必要です。
私はOutlookの会議インビテーションを使って、会議が終わるまでに全員返信でメールを書きます。
本文は『討議』『宿題』『結論』の3つの項目に分け、討議は要点をメモし、誰かが作業を持ち帰るものは宿題に、決定事項は結論に明記します。
会議終了5分前に宿題と結論を読み上げ、全員で認識合わせをしてメールを送信。これで会議後の議事録作成業務はゼロになりました」
4. スキマ時間に小刻み仕事を積み上げる
優秀な人ほどメールの返信が早く、資料の作成も早い。それは能力の問題だけではない、と江村さんは話します。
「彼らは、小刻み仕事が圧倒的に上手い。ほんの少しのスキマ時間で、どんどんタスクを進めていきます。
会議が始まる前の数分、簡単なメールはすぐに返信したり、ひらめいたアイデアをメモしたり。
5分もあれば情報を集めたり、誰かに意見を聞くなど自分の“ラストワンマイル”を高めるために使うことができるはずです」
息抜きも必要だ、と考える人もいるでしょう。確かに、仕事の合間にリフレッシュする時間は必要です。しかし、時間を効率的に使うということはそれ以上にメリットが大きいことも忘れずに。
プライベートの時間が増えるかもしれないし、その分こなせる仕事も増えます。「時間がない」ではなく、これまで失っていた時間で小さな仕事を積み上げていきましょう。
成果を出す土台は「計画力」と「考える力」
最近はビジネスツールも多様になり、ライフハッカー読者でも使いこなしている人は多いはず。しかし、江村さんは、スケジュールはExcel管理、メモはPCとスマホの「メモ帳」機能を使うのみ。
「私のスケジュール管理はシンプルにExcelです。タスク管理用のツールなどもいろいろありますが、あまりツールに頼らないことをおすすめします。
なぜなら、ツールを使いこなすこと自体が目的になってしまったり、そのことに時間を取られるからです。
仕事を圧縮するには計画が命。タスクを分解して、Excelでつくったスケジュール表にタスクと作業時間を全部組み立てていきます。
もちろんずれていくこともあるし、会議でブロックされることもありますが、計画に時間をかけることで、確実に成果に近づきます。
もちろん、新しいツールは『確実に効果を刈り取れる』ということが見える場合は、使ってもよいと思います」
そして、もうひとつ重要なのが「考える力」。日々のスケジュールを組み立てるのも、業務を俯瞰してゴールを「考える」作業です。
「仕事をはじめるとき『とりあえず調べてみよう』と目的もなくスタートすると、方向性が変わってしまうことはよくあります。
まずはちょっとした疑問を持つことや、よりよいアウトプットのために自分なりに考えてみる。
考えるクセをつけることで順番も組み立てられるようになり、初手を間違えなくなります」
この「考える力」を日々のコミュニケーションで具体的にどう活かすか、江村さんは「聞く→話す→考える→理解させる」という思考サイクルを習慣化することを推奨しています。
「まずは話を聞きながら『自分ならどうするか』を同時並行で考える。
あるいは聞きながら自分なりの結論を出すこともできます。
私は話を聞きながら、アウトプットのイメージを同時並行に考えます。
自分が話す際も、話しながら理由などを補足していく。
あるいは理解してもらうように相手の反応を見ながら話す。
この思考を意識して仕事をするようになると圧倒的なスピードアップになり、パラレルでタスクをこなせるようになります」
これらは決して難しいことではありません。私たちは会話をしながらある程度の予測変換ができるようになっているので、話を聞くだけ、話すだけに集中することなく同時に「考える」ことを意識すればいいんです。
「計画力」を磨き、常に「考える」ことを習慣にする。それが、仕事のスピードと成果を圧倒的に高める鍵に。
一気に考える時間を確保する
仕事を圧縮すると、アウトプットの質が格段に上がります。それは「考える時間」がつくれるから。
「たとえば資料をつくるとき、少しずつ部分的に完成させていく人もいるでしょう。そうではなく、できれば最初に全部のストーリーを立てたほうがよい。
一度自分の中で考え切って、骨子を組み立てる。部分的に進めると整合性が取れなくなったり、次にとりかかるときに一度思考を戻すというロスが生じます。
そのためには、じっくり考える時間をとるために他の業務をブロックする必要があります。
考えがいい感じにまとまってきたのに会議の時間になった、就業時間が終わった、となるのはロスでしかありません。ここでも計画が生きてくるわけです」
きっちり「計画」を立て、ゴールに向かって最短コースで行けるように「考える」こと。これが究極の圧縮のコツ。
仕事を減らすには……?
業務を人に振らずに「自分がやった方が早い」という経験は誰しもあるはずです。しかし、いつまでも自分が手を動かさなければならないと仕事は増える一方に。
「タスクに対し、自分が主語になっている人が多いと感じます。自分がいつまでにこれをする、自分が会議を調整する……など。
私が試行錯誤してわかったことは、チームのタスクを大局的にみると、視点が変わります。そのタスクは何のためにあるのか。すると主語は自分ではなくなり、役割分担も変わってくる。必ずしも自分がしなければならないタスクではない、ということもわかってきます」
また、江村さんによれば、意外と手放せる仕事もあると言います。
「先ほどの会議の話もそうですが、習慣を疑ってみることは大事です。一度、手放してみる、やめてみる。それで困ったことになるなら、自分なりに模索して軌道修正すればいいのです。
何も疑問も持たずに習慣的に行うよりも、ずっと意味がある業務になるはずです。そして、マネジメント層の人はメンバーのレビューを50点でよしとしましょう。100点を目指すと時間ばかりかかってしまいます」
仕事を減らす鍵は、「自分がやる」という視点をタスクの「何のため?」という目的に転換すること。そして、習慣的に行っている業務を疑い、一度「やめてみる」勇気を持つこと。
1日1つアウトプットすることを習慣に
誰もが毎日、大変な仕事をこなしています。しかし、それは前に進んでいるのかどうか振り返ってみると……。ただ言われたことをこなしているだけ、調べているだけでは自身の価値につながっていかないかもしれません。
「最初にお伝えした通り、今は自分なりの考察ができるビジネスパーソンが必要とされています。1日に1つでもアウトプットができれば、それは前進であり、思考力も高まっていきます。
そのためには、チームのミーティングや上司に時間をつくってもらって自分なりの発言をぶつけてみるなど、前進する仕掛けをつくったほうがいい。
今までの固定観念を壊し、ブレイクスルーできれば圧倒的な成果を上げられるようになるはずです」
忙しい毎日でも、自分なりの考察を「1日1つアウトプット」する習慣を。これが思考力を高め、ブレイクスルーを生み、自己価値と成果を飛躍させる。
特集「Do Less, Focus On」をもっと読む

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社アソシエートパートナー。慶応大学卒業後、アビームコンサルティング株式会社を経て、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社に入社。現在は、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社のアソシエートパートナーとして従事。ITコンサルタントとして業界を問わず数多くの大企業の改革をリード。「人の2倍働く」をモットーに深夜残業・土日出勤を繰り返していた苦しい状況から、様々な模索や工夫を積み重ね、働く時間を大きく削減。創出した余力を活用し、社内外の活動に広く手がける。2021年に国内大規模ITイベントに登壇し1,200名に講演。2023年には新規ビジネスの提案力と推進力が評価され「BTPチャンピオン」を受賞。また、Udemy講師としてITコンサルの育成講座を展開中。
Photo: 中山実華、編集:丸山美沙(ライフハッカー・ジャパン編集長代理)
編集部の感想:
江村出さんの『仕事圧縮術』は、忙しさに振り回されるビジネスパーソンにとって本質的な考え方を提供しており、時間の効率をしっかり考慮している点が印象的です。無駄を省き、自分の本当にやりたいことに集中できる環境づくりが、個々の成果を高める鍵になることを再認識しました。仕事の質を上げるためには計画力と考える力が不可欠で、これを習慣化することが重要だと感じます。
Views: 2