ニュージーランドの森にひっそりと暮らす幻のカタツムリが、驚くべき方法で命をつないでいることがわかりました。
その瞬間が、ついにカメラに収められたのです。
カタツムリが卵を産む──そんな話自体は何も珍しくありません。
しかし今回の主役である「パウエリファンタ・アウグスタ(Powelliphanta augusta)」は、なんと首から卵を産むという驚きの習性を持っていたのです。
その決定的な瞬間がニュージーランド環境保全省(DOC)によって史上初めて撮影され、研究者たちの間で話題を呼んでいます。
目次
- 首から産卵するシーンを初撮影!
- 最大で30年も生きられる! 驚きの生態とは
首から産卵するシーンを初撮影!
「パウエリファンタ・アウグスタ」は、ニュージーランド西海岸のブラー高原の限られた地域にしか存在しない希少なカタツムリです。
見た目は普通のおとなしそうなカタツムリですが、肉食性でミミズなどを捕食し、ゆっくりと動きながらも獰猛な生態を持っています。
しかし本種は現在、その夜行性と限られた分布域、そして炭鉱開発による生息地の消失により、絶滅の危機にさらされています。
2006年、彼らの生息地であるマウント・アウグスタスが大規模な露天採掘により破壊されることが決まったため、DOCは彼らをニュージーランドの都市ホキティカに移し、飼育下保護を開始しました。
それから約20年、カタツムリたちは厳しい環境の中でも少しずつ成長を続け、飼育員たちにとってはまるでわが子のような存在となってきました。

そして今回、卵を産む決定的瞬間を撮影したのは、DOCのレンジャー、リサ・フラナガン氏です。
彼女は12年以上にわたり、パウエリファンタ・アウグスタの世話を続けてきました。
「これまで何度も彼らの健康チェックや体重測定をしてきましたが、実際に産卵の瞬間を目にしたのは初めてです」と彼女は語ります。
ある日、カタツムリをひっくり返して体重を測っている最中、首元のある部分から、真珠のように白く輝く卵がにゅるりと現れたのです。
実際の映像がこちら。(※ 視聴の際は音量にご注意ください)
まるでファンタジーの世界を覗き見たかのような瞬間でした。
この貴重な産卵シーンが撮影されたのは世界で初めてのことです。
では、パウエリファンタ・アウグスタはどのような繁殖システムを持っているのでしょうか?
最大で30年も生きられる! 驚きの生態とは
パウエリファンタ・アウグスタが卵を産むのは、殻の中からではなく、首のすぐ下にある「生殖孔(genital pore)」からです。
この孔は首の右側に位置しており、カタツムリがわずかに身を乗り出すだけで、交尾や産卵が可能になります。
また彼らは雌雄同体で、一個体がオスとメス両方の生殖器を持ち、別の個体と交尾して繁殖することもできれば、自分だけで子供を作ることも可能です。
交尾の際には、一方がペニスを伸ばして相手の生殖孔に挿入し、お互いに同時に精子を交換します。
その後、体内に保存された精子を使って卵子と受精させ、やがて卵を産むという仕組みです。
生殖器が首の付け根にあるという構造は、硬い殻の中でも機能を果たすための進化の工夫といえるでしょう。

また、彼らのライフサイクルも驚くべきものです。
パウエリファンタ・アウグスタは非常に成長が遅く、性成熟までに8年もかかります。
産む卵の数も年にわずか5個程度。
しかも孵化までに1年以上かかることもあり、個体数はなかなか増えません。
飼育下にいる個体の中には、最長で25〜30年も生きているものもおり、一般的な庭のカタツムリ(長くて3〜5年)とはまさに正反対です。
今回の映像は、ただの生き物の記録にとどまりません。
そこには自然の巧妙さと、絶滅の危機に瀕した生物の繊細な生命の営みが映し出されていました。
DOCは現在、パウエリファンタ・アウグスタを野生に再導入するプロジェクトも進めており、回復した生息地での定着を目指しています。
それまでは飼育下での管理が続けられますが、このような貴重な映像が、私たちの自然に対するまなざしを少しでも変えるきっかけになるかもしれません。
首から卵を産む──そんな小さな奇跡が、未来の命をつないでいくのです。
参考文献
A DOC ranger caring for a population of Powelliphanta augusta snails has for the first time caught a snail laying an egg on video.
https://www.doc.govt.nz/news/media-releases/2025-media-releases/sex-life-of-rare-snail-revealed/?fbclid=IwY2xjawKJVdJleHRuA2FlbQIxMABicmlkETFBWFo0NUNoV1hGQlhKOTlCAR7IelauPCAP3XGFqKOsoQV-mpcZpvitjIzW0eUcJsMM0OgThDfd3_o-4J7K9A_aem_uMNKtwMlpIfSMPpoQWnXWQ
Watch elusive New Zealand snail lay an egg through a ‘genital pore’ in its neck
https://www.livescience.com/animals/mollusks/watch-elusive-new-zealand-snail-lay-an-egg-through-a-genital-pore-in-its-neck
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
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