火曜日, 5月 6, 2025
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頭が真っ白になる瞬間に脳に何が起きているかが判明!起きているのに眠る脳


私たちは誰しも、頭の中が真っ白になるあの落ち着かない瞬間を経験したことがあるでしょう。

たとえば試験問題をじっと見つめているときや、会話の途中で、ふと頭の中に何も浮かんでいないことに気づく場合があります。

雑念もなければ、内なる声もなく、ただ頭の中には何もない――まさに空虚な状態です。

こうした一瞬の空白は「報告可能な内容がまったくないように思われる瞬間」として、長らく謎のままでした。

しかしフランスのソルボンヌ大学(Sorbonne Université)で行われた研究によって、科学者たちはこの現象(“マインド・ブランキング”と呼ばれる)が脳の一部が“局所的に眠ってしまう、脳内金縛りのような現象であることが示されました。

しかもこのマインド・ブランキングは実に覚醒時経験の5〜20%を占めていることが明らかになったのです。

あなたの脳もいま、この瞬間にこっそりスリープモードへ落ちているのではないでしょうか?

研究内容の詳細は2025年04月24日に『Trends in Cognitive Sciences』にて発表されました。

目次

  • 頭真っ白な状態は「ボーっとしている」とは違う
  • 「脳内真っ白」の正体は脳内金縛りだった
  • “無”が語る意識:静寂もまた脳の声

頭真っ白な状態は「ボーっとしている」とは違う

頭真っ白な状態は「ボーっとしている」とは違う
頭真っ白な状態は「ボーっとしている」とは違う / Credit:Canva

マインド・ブランキングとは、頭の中にまったく何も浮かんでこない、いわば“意識が空っぽになる”状態を指します。

もし「考えようとしても何も思いつかない」「会話中に突然何を言おうとしていたのかさえ忘れてしまった」という経験があるなら、それがまさにマインド・ブランキングかもしれません。

じつは多くの人が、こんな不可思議な瞬間を味わったことがあるはずなのです。

以前は、この頭の空白状態が、いわゆるマインド・ワンダリング(あちこちに思考が飛び回る状態)の一部と捉えられてきました。

ところが実際には、“頭が空っぽ”な感覚と“いろいろなことをぼんやり考えている”状態とでは大きく異なるらしいのです。

白昼夢(デイドリーム)ではたしかに頭の中をイメージや内なる声が漂っていますが、マインド・ブランキングではそれすらなく、報告できる思考の内容がまったくないという点が特徴的。

しかもこのとき、人は眠気を強く感じたり、動作が鈍くなったり、ミスが増えたりしがちです。

まさに「ただのぼーっとした状態」とは何かが違うようなのです。

ある意味で体は起きているのに意識だけが沈黙してしまった「脳内金縛り」のような状態です。

実際、この現象は「うとうとして意識が薄れる」から「ほぼ完全に意識が消失している」まで、定義づけが幅広いことからも、いかに不思議で多面的な状態なのかがわかります。

そこで神経科学者や哲学者たちの国際チームは、こうした頭の空白が起きる瞬間にはどんなことが脳内で進行しているのか、徹底的に解明しようと取り組んできました。

「私たちは、マインド・ブランキングを理解するために80本ほどの関連研究を再検討しましたが、そこには自分たちで行った実験も含まれています。たとえば、参加者が『何も考えていない』と自覚したタイミングで、脳活動を記録してみたのです」とリエージュ大学のアテナ・デメルツィ氏は語ります。

研究者たちはこうして、過去数十年分の成果を洗い直すとともに、新たな脳のデータを加えることで、頭の中の“真っ白”状態がどのような特徴を持つのかを探り出そうとしたのです。

気になるのは、マインド・ブランキングが本当に独立した意識状態と言えるのか、いったいどんなきっかけで起こるのか、そしてそのとき脳が何をしている(あるいは何をしていない)のか。

こうした疑問を解き明かす過程で、私たちが「常に何かを考えているはず」と思い込んでいた日常観が、大きく揺らいでくるかもしれません。

それほどまでに、頭が真っ白になるこの瞬間は不可思議で、人間の意識の仕組みに迫る大きな手がかりになり得るのです。

「脳内真っ白」の正体は脳内金縛りだった

「脳内真っ白」の正体は脳内金縛りだった
「脳内真っ白」の正体は脳内金縛りだった / Credit:Canva

私たちの頭が実際にどれほど頻繁に真っ白になるのか、まず最初に判明したのは、その回数の多さでした。

平均すると、人々は起きている時間の約5~20%をマインド・ブランク状態で過ごしていることがわかりました。

言い換えれば、私たちが1時間起きているあいだに、数分ほどは何も考えていない可能性があるのです。

(これは典型的なマインド・ワンダリングの頻度のおよそ3分の1ですが、それでも私たちの心の活動においてはかなりの割合を占めます。)

興味深いことに、マインド・ブランキングの頻度は個人によって大きく異なり、めったに起こらない人もいれば、ずっと多く体験する人もいます。

たとえば注意欠陥・多動性障害(ADHD)の子どもや成人は、神経学的に定型発達の人々よりもはるかに頻繁にマインド・ブランクを報告する傾向があります。

一方で、まったく頭が真っ白にならないと主張する人も少数ながら存在します。

「マインド・ブランキング」とは何を指すかも人によって違いがあり、それが注意の途切れなのか、記憶が抜け落ちた瞬間なのか、あるいは頭の中の内なる声が突然止まることなのか、さまざまな解釈があります。

しかしいずれの説明であっても、中心的な特徴は同じで、それは「思考内容が何もない」という主観的な感覚です。

では頭が真っ白になるのはいつ起こりやすいのでしょうか?

研究によると、脳の覚醒度が限界近くに追い込まれるような状況で起こりやすいことがわかっています。

マインド・ブランクは、たとえば長く退屈な作業の終盤(長い試験の最後の数問など)や、睡眠不足や激しい運動のあとなど、疲労を感じるタイミングによく起きます。

つまり、脳のエネルギーが不足していたり、極度に疲労していると、頭が真っ白になる状態に陥りやすいのです。

(実際、「頭が真っ白になる(mind going blank)」は不安障害のDSM-5での症状例の一つとしても言及されており、脳卒中、てんかん、外傷性脳損傷、あるいはまれなクライン・レビン症候群などでもしばしば見られる症状です。)

とはいえ、マインド・ブランキングは過負荷や病気だけに起こるわけではなく、まったく正常な覚醒状態でも表れることがあります。

何の作業もしていない休息時でも、人はときどき突然「何も考えていなかった」と報告することがあるのです。

新たなレビューによれば、マインド・ブランクは疲れている時や退屈している時だけでなく、どんなタイミングでも一様に生じうることがわかりました。

要するに、短い間意識が空白になるというのは、多くの人にとってさまざまな状況で起こりうるごく日常的な現象なのです。

それでは、頭が真っ白になったとき、脳内ではいったい何が起きているのでしょうか。

この疑問に迫るため、研究者たちはfMRIによる脳スキャンやEEG(脳波計測)を使い、ボランティアの脳がブランク状態に入ったり抜け出したりする様子を観察しました。

その結果、マインド・ブランキングに先立ち、かつ同時に起こる特有の神経的特徴が見つかりました。

ブランクが起こる直前には、脳全体のいくつかの領域が活動を弱めたり同期を失ったりし始めます。

特に、前頭部、側頭部、そして視覚を司る部分などで変化が観察され、頭が真っ白になる直前の段階で通常の脳内コミュニケーション回路が徐々に停止に向かい、意識が薄れていく下地ができるようなイメージです。

実際にマインド・ブランクが起きている間、脳と身体の活動には全般的に下降シフトが見られます。

心拍数は下がり、血圧はわずかに低下し、瞳孔が縮んで注意力の低下がうかがわれます。

同時に、脳の電気活動には劇的な変化が生じます。

EEG記録によると、通常は複雑で活発なパターンを示す脳の波形が、より遅く同調した波へと単純化していきますが、これは深い睡眠や麻酔下の状態で見られるパターンとよく似ています。

こうした瞬間、脳は仕事中に眠り始めているようにも見えるほどです。

実際、研究者たちはマインド・ブランキングには「局所的な睡眠」エピソードが生じている可能性があると説明しており、人が起きたままでも脳の一部だけが眠りに入っているように見えると指摘しています。

感覚回路も静まり返るため、外界の映像や音は、このブランクの間ほとんど認識されなくなります。

つまり、マインド・ブランクは覚醒状態のまま、一時的に脳が“オフライン”のような睡眠に近いモードへ移行してしまう結果ともいえるでしょう。

この状態は、いわば「脳内金縛り」です。

体は起きているのに、注意や記憶をつかさどる神経ネットワークが一瞬だけ硬直し、入力も出力も動けなくなるイメージです。

金縛りで体が動かせないように、局所睡眠に入った領域は情報をまったく処理できず、視覚や聴覚の扉を閉ざします。

そのため外の世界は通り過ぎるだけで、私たちは「何も考えていなかった」としか報告できなくなるのです。

興味深いことに、頭が真っ白になるのは疲れが原因だけではなく、逆の極端なケース、つまり脳が過剰に刺激されたときにも起こり得ます。

著者によれば、後部(後ろ側)の脳領域で急激な神経活動の高まりが起こった場合、たとえば急速に大量の情報を処理する「高速思考」の最中に、逆説的に思考が止まってしまうことがあるのです。

この場合、思考のオーバーロードが一種のサーキットブレーカーを作動させ、一時的に意識の流れをシャットダウンしてしまいます。

ならば意図的に「頭を空っぽにしよう」と試みたらどうなるのでしょうか。

研究チームは、この点についても調べましたが、参加者に意図的に「何も考えないでください」と指示すると、脳スキャンの結果、主要な認知領域が広範囲にわたって活動を低下させることがわかりました。

たとえば言語を司る領域(前頭葉のブローカ野)、記憶をつかさどる領域(側頭葉の奥にある海馬)、そして自己を省みる働きを持つ領域(前頭皮質の一部)が、同時に沈黙に近い状態になるのです。

このように皮質の大部分を協調して沈黙させる――言い換えれば、脳全体の活動を大きく低下させる――ことこそが、頭を本当に空っぽに近づけるために重要な要素だと考えられます。

これは、意図的に頭をクリアにする行為であっても、脳の通常機能の大半を積極的に停止させる必要がある可能性を示唆しているのです。

こうしたさまざまな経路を結びつけ、頭が真っ白になるという共通点をもたらしているのは何なのでしょうか。

研究者たちは、その答えとして脳の覚醒レベルの揺らぎに注目しています。

覚醒度が低下しすぎ(たとえば眠気や精神的疲労など)たり、高まりすぎ(刺激や認知負荷が過剰な状態)たりすると、意識の流れを保つネットワークの微妙なバランスが崩れてしまうのです。

そうした瞬間に、記憶や注意、内なる声などの主要な認知機能が「うまく働かなくなる」可能性があり、その結果、主観的に「何も考えていない」という感覚をもたらすと考えられています。

要するに、マインド・ブランキングとは、脳の明かりが暗くなりすぎたり、逆に強すぎたりしたときに起こる現象であり、そのどちらの極端も通常の思考の流れを途切れさせてしまうのです。

“無”が語る意識:静寂もまた脳の声

“無”が語る意識:静寂もまた脳の声
“無”が語る意識:静寂もまた脳の声 / Credit:Canva

この新たな「マインド・ブランキング」を独立した精神状態と認める見方は、大きな示唆をもたらします。

まず、起きている限り何かを考えているものだという直感的な考えを覆します。

「マインド・ブランキングは、目が覚めている間は常に思考が流れているという一般的な概念に挑戦します」と、本報告の主執筆者であるトマ・アンドリオン氏は指摘しています。

実際に、私たちの覚醒時の経験には定期的に“空白の時間”が含まれるのです。

こうしたブランクの瞬間を研究することで、科学者たちは意識そのものの理解をより洗練させたいと考えています。

意識はすべてあるかないかの二択ではなく、思考の豊かさにさまざまな段階があるように見えるからです。

ときには頭の中が鮮やかな考えや感覚で満ちあふれ、ときにはぼんやりと空虚になる。

こうしたブランク状態を認めることは、意識がときに変動し、ときにはゼロに近い水準に落ち込むことさえあるという、より繊細な心のモデルにつながるでしょう。

実用的な側面も考えられます。

マインド・ブランクは、個人差を探るうえで有益な手がかりとなる可能性があります。

ある人の内的経験は、注意スタイルや神経学的特性といった要素によって、より空白になりやすいかもしれないからです。

また、不安症や脳損傷などの臨床的状態にも関連が示唆されており、将来的には診断や治療のアプローチを検討するうえでも役立つ可能性があります。

著者たちが特に興味を持っているのは、瞑想などの「最小限の意識」状態との類似点です。

「“頭が真っ白になる”という体験は、何かを考えている体験と同じくらい身近で直接的なものです」と、共著者のジェニファー・ウィント氏は述べています。

これは、内容のない心の状態であっても、なお有効で具体的な経験であることを強調しています。

マインド・ブランクを、瞑想による精神の静寂(頭を空にしようとする)や浅い眠りのぼんやりした意識状態と比較することで、「最小限の意識」がどのような姿をしているのか、またどんな役割を果たしているのかを探ることができそうです。

最終的に、マインド・ブランキングはただの一時的な不注意ではなく、私たちの心的生活において規則的かつ意味のある一部を成しています。

それは、脳が自らの内容を遮断する能力を表しており、“音量を最小まで下げた”ときの意識の状態をかいま見せてくれます。

神経科学者のアントワーヌ・リュッツ氏によれば、今後は、マインド・ブランキングが他の体験とどのようにつながり、なぜ脳がこうしたオフスイッチを備えているのかを「議論し始める」ことが重要だといいます。

次に、ぼんやりと宙を見つめているときに頭の中が空っぽになっていることに気づいたら、その瞬間に起きている逆説的な状況を考えてみるといいでしょう。

脳は起きているのに、一時的に何もない空間へ滑り込んでいるのです。

それは決して「何でもない」わけではありません。

この空白は、にぎやかな思考の街並みだけでなく、その合間にある静かな未知の領域も心の風景の一部だということを示してくれます。

そこに光を当てることで、意識のスペクトラムをより深く理解する手がかりが得られるでしょう。

それは、もっとも鮮やかに彩られた瞬間から、もっとも色のない状態に至るまでを含む、意識の全体像に近づく道筋なのです。

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元論文

Where is my mind? A neurocognitive investigation of mind blanking
https://doi.org/10.1016/j.tics.2025.02.002

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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