家族バラエティーへの出演が
IT先進国である韓国の政治家たちは、早くからユーチューブやフェイスブックなどのニューメディアを政治に積極的に活用してきた。特に、進歩陣営の政治家たちのメディア活用度は保守政治家に比べて一枚上だという評価を受けている。韓国にPCが普及し始めた80年代に大学に通いながら初期のインターネット文化を享有した86世代(60年代生まれで80年代に大学に通った世代)が進歩派政治家の中核であり核心支持層であるためだろう。
代表的な86政治家の李在明(イ・ジェミョン)大統領も、各種メディアを広報と疎通に積極的に活用することで有名だ。2011年フェイスブックが韓国で初めてサービスを始めた時からアカウントを作り、フォロワーは約50万人に達しており、2014年に開設したユーチューブも117万人のチャンネル登録者数を有している。
by Gettyimages
政治家としての李在明氏は、テレビの芸能番組への出演をきっかけに、国民的好感度を高めた政治家としても有名だ。城南市長時代の2017年、妻のキム・ヘギョン夫人と共に地上波放送局SBSの夫婦リアルバラエティー「同床異夢」に出演し、妻を心から愛する平凡な夫としての姿を披露し、人気を集めた。特に買ってから24年経った冷蔵庫を直接修理する姿や、おかずがないというキム・ヘギョン夫人の言葉に、「塩にご飯だけあれば十分」といいながら、ご飯に塩をつけて食べる姿で「庶民的」というイメージづくりに成功した。
李在明市長は京畿道知事選挙を控えて放送を降板したが、選挙では現職の選挙では南景弼(ナム・ギョンピル)自由韓国党(「国民の力」の前身) 候補を抑えて当選した。放送が作り出した庶民的で愛妻家のイメージが、選挙に何の影響も及ぼさなかったとは言えないだろう。
「見せる」政治に卓越した李在明大統領だが、韓国人にとって最も重要な祭日である「秋夕」(今年は10月6日)を迎え、あるバラエティー番組に出演したことで非難世論に直面している。秋夕連休前に発生した国家情報資源センターの火災で国民は不便な秋夕を過ごしているが、災難のコントロールタワーという大統領が、国家的災難の最中、のんびりとバラエティーに出演したという非難だ。
火の手は国家情報資源センター火災から
9月26日午後20時15分頃、大田に位置する国家情報資源センターの電算室でリチウムイオンバッテリーの爆発による火災が発生し、22時間後の27日午後6時頃に完全鎮圧された。国家情報資源センターとは文字通り、韓国政府のすべての行政データを集めたところで、火災で韓国政府の行政システム700ヶ余りの中で647ヶ余りのデータが消失したと言われている。
国家電算網の大規模な消失で韓国国民は大きな不便を強いられた。各種証明書発給が不可能になったことで、不動産取引が中止されたり、政府認証が必要な金融サービスが使えなくなったり、火葬場予約が不可能になったり、パスポート発給も中止されたりした。私の場合は、知人たちに送った秋夕プレゼントの郵便局宅配の到着が遅れて気を揉んだ。
火災が発生してから10日近くたった10月6日までに復旧率が20%にならないほど、復旧に困難を来たしており、心理的圧迫感を感じた担当公務員が自殺する事件も発生した。韓国国民も秋夕以降も、しばらくは日常の不便を甘受しなければならないだろう。世界最高の電子政府を構築したと自負してきた韓国の行政システムの貧弱な素顔が明らかになった事件で、韓国国民としては自尊心にも傷を負っただろう。
ところが秋夕を控えてケーブル放送局のJTBCが、李大統領夫妻が出演するバラエティー番組「冷蔵庫をお願い」の予告編を放送し、政界の枠を越えて社会的な非難が起こった。「冷蔵庫をお願い」は、有名シェフたちがゲストの冷蔵庫の中にある材料で料理を作る料理バラエティ放送だ。ここ数年の「モッパン(グルメ)」ブームの中で人気を集めている番組で、李大統領夫妻の出演エピソードが秋夕連休に放送されるという告知が放送局側を流したものだ。
すると、野党の「国民の力」がこれを問題視した。朱晋佑(チュ・ジヌ)「国民の力」議員は、「国政資源火災で国民に被害が続出する時、大統領はなんと2日間会議主宰も現場訪問もなしに沈黙した。失われた48時間」とし、李大統領のバラエティー出演を非難した。すると、大統領府のスポークスマンは「無理な疑惑を提起し、国家的危機状況を政争化し、虚偽事実を流布した行為に法的措置も講じている」と反論した。
以後、「共に民主党」が大統領室に代わって朱晋佑議員と張東赫(チャン・ドンヒョク)国民の力代表を大統領名誉毀損の疑いで刑事告発し、チュ議員は大統領府を虚偽事実流布の疑いで告発するなど、告発の応酬が続いている。
「セウォル号事故」と同じ構図に
今回の事態の争点は、李在明大統領の姿が火災直後から28日午前まで見つからなかったという点だ。大統領室が明らかにした李大統領の日程は、火災が発生した26日午後8時20分頃、大統領は帰国飛行機の中にいた。8時40分に帰国後は火災状況に対する徹夜の点検を行った。そして28日午前10時50分に非常対策会議を主宰し、午後にテレビ出演の録画を終えた後、午後5時30分に再び中央災難安全対策本部会議を主宰したという内容だ。
しかし、大統領室が明らかにした26日の徹夜指示や27日の行跡については、これを裏付ける映像資料が何の根拠もない。李大統領の姿が捉えられたのは28日午前の非常対策会議の映像からだ。
そのため、国民の力側では「根拠を出せ」と資料公開を要求しており、大統領室と民主党側では資料公開を拒否し、刑事告発で強硬に対処しているのだ。
李在明大統領は過去、朴槿恵(パク・クネ)政権時代の「セウォル号」事件発生直後、朴大統領の7時間の行跡が不明だとし、職務遺棄で刑事告発した前歴がある。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の時に発生した梨泰院(イテウォン)事故でも、当時野党だった「共に民主党」代表として、当時の尹大統領の行跡を分単位で公開せよと迫った。
番組放送後、JTBC放送局のユーチューブのコメント欄が李大統領を非難するコメントでいっぱいなのを見れば、李在明政権の「ネロナンブル(ダブルスタンダード)」式の対応が韓国国民から共感を得ていないことが読み取れる。一方、何日も政治の世界で取り上げられた「冷蔵庫をお願い」の視聴率は8.9%で、ここ数年間で最高視聴率を記録した。今回の論争の勝者はノイズマーケティングで視聴率を稼いだ放送局というわけだろう。
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🧠 編集部の感想:
李在明大統領のバラエティ番組出演は、国家的災害の最中に於ける政治家の対応として大きな非難を浴びています。過去の「セウォル号事故」を思わせる展開に、国民の不信感が高まる一方で、テレビ番組の視聴率は回復を見せました。不適切なタイミングでのメディア出演が、政治的信頼の低下を招く結果となるのは非常に残念です。
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