玄関ドアのカギを常に持たなくても、スマホや暗証番号など様々な方法で開け閉めできて便利なスマートロック。国内普及率はかつて1.2%(JEITAスマートホームユーザー動向調査 2022年)と低い数値だったが、1~2年ほど前から普及加速の動きを見せている。その一つが賃貸住宅向けのスマートロックで、大手賃貸などがこぞってスマートロックを導入しはじめているようだ。
既存のスマートロックの多くは、ドアに粘着テープで貼り付けるため、デザイン的にも後付け感が否めない課題があった。とはいえ、ドアと一体のスマートロックに買い替えるのはハードルが高い。
そんなスマートロックに新機軸を持ち込んだものがある。大崎電気工業が開発した「OPELO series」だ。どんな特徴を持つ製品なのか取材した。
既存スマートロックの課題とOPELOの解決法
スマートロックを使っている方なら既に知っていても、まだ使っていない方にとってはあまり知られていない問題が5つある。それらに対してOPELO IIがどう新しいのかを順に説明しよう。
【1】デザインと、粘着テープ固定による脱落
見た目の点でいうと、どうしても隠せない“後付け感”がある。本体そのものは各社工夫をこらして洗練されたデザインになっているが、ドアに付けると横からサムターン(カギを開けるつまみ)が見えてしまい、モーターと電池ボックスを備えるため、それなりに出っぱりができてしまう。
新築で使われているドアと一体型になっているスマートロックに比べてしまうと、後付けのスマートロックはデザイン的にどうしても見劣りしてしまう状態が続いていた
また、どんなドアにでも取り付けられるようにスマートロックをドアへ固定する際に、多くは「両面テープ」が使われる。しかし玄関ドアは、冬の冷気と夏の熱気にさらされるため、粘着テープの経年劣化によって短いと1年、平均でも2~3年でテープを貼り替えないと脱落するケースがある。とくにサムターンを回すモーターの力でスマートロックが外れてしまうと、物理的なカギが必要になり締め出しを食らってしまう可能性もある。
一方、大崎電気工業のOPELO IIのモーターはサムターンを回すのではなく、つまみがつながっているシャフト(軸)を回す。しかしシャフトの太さや形状はまちまちなので、OPELO IIは軸とモーターを接続するための変換金具を用意している。この変換金具で、ほとんどのカギに対応できるという。
OPELO II本体をドアへ固定するには、カギ穴を通す2本のネジを使い、本体外側と内側からドアを挟み込んで固定する。これなら粘着テープの経年劣化で外れてしまうこともなく、ドアとの一体感もあるスマートロックになるのだ。
【2】電池切れ
スマートロックで使われる電池は、電圧が高く容量の多い特殊な乾電池を採用している。そのため電池切れになっても単三形乾電池のようにコンビニで購入できないため、各社バックアップ用の電源を持たせたり、緊急用に外部からモバイルバッテリーで供給したりなどの工夫をしている。しかし半年~1年に一度の電池交換が必要で、残量低下に気づかない場合がある(残量警告をスマホに通知するようにはなっている)。
また、Wi-FiやBluetoothなどの無線を動かすものは比較的大きな電力を使う。指紋や顔認証などでの電力や、最終的にはサムターンを回すためのモーターの電力も必要になる。
このようにスマートロックは電力を使う部品が多く、単三形乾電池では容量不足。かといって、本体の大型化につながるほど大きな電池を使うわけにもいかず、小型で大容量の電池を使っているのが現状だ(最近では充電式バッテリーの製品もある)。
OPELO IIは、忘れ物防止タグなどで使われているUWB(超広帯域)無線通信を利用している。UWBは消費電力が少なく、10cm単位でデバイス間の距離を測定できる。忘れ物防止タグの場合、コイン電池(CR2032)で3年間電池交換が不要というほど省電力だ。
顔認証など高度な認証技術では、カメラや映像を処理するために高速なマイコンを必要とする場合がある。しかしOPELO IIは、UWBを使い解錠/施錠などの最低限の機能に絞っているため、ほぼモーターを動かすだけ。そのため容易に手に入る単三形アルカリ乾電池で長期間の駆動が可能となっている。
スマートタグで利用されているUWB無線と施解錠用モーターだけでスマートロックが実現できるのか? という疑問を持つ方もいるだろう。OPELO IIはスマホ側でユーザー認証やワンタイムパスワードの正当性をチェックするため、スマートロック側とスマホの間の通信は、NFC(近距離無線通信)を使用した解錠と施錠ぐらいしかないのだ。その際にスマートロックとの距離を10cm単位でスマホが測定するので、悪意を持って遠隔からスマートロックの操作ができないようになっている。
万が一バッテリー切れになった場合は、外から9Vの乾電池(災害時でも売り場に最後まで残っている角型電池)もしくは、モバイルバッテリーから給電して解錠できるようになっている。
【3】セキュリティ
OPELO IIは、UWB(超広帯域)無線の距離を10cm単位で測れるという機能を併用し、OPELO IIの近くにいるスマートフォンにだけ、サーバーから解錠キーが送られ、それをUWB通信でOPELO IIに送信することで初めてドアロックが解錠される。このためよりセキュリティが強化されているといえる。
なおOPELO IIをスマホで利用するには、UWB無線に対応したスマホが必要になる。現在はGoogle Pixelシリーズ、Galaxy S21シリーズ以降、Apple Watch 6以降、iPhone 11以降などとなっているが、今後増えていくだろう。
OPELO IIをホテルのルームキーなどとして使う場合は、清掃員には無線式のICカードを配布して、これをOPELO IIにかざすことで解錠が可能になる。
マンションの共用スペースにOPELO IIを使う場合は、利用者のスマホにワンタイムパスワードを送信し、そのスマホをOPELO IIにかざすことで解錠することもできる。こちらの機能は、訪問介護や家事代行、ベビーシッターを利用するのにも便利だ。
【4】生体認証とヒトの経年変化
指紋や顔認証などの生体認証は、ヒトそのものが「経年変化」する問題がある。時が経つにつれ顔認証に時間がかかるようになったり、指紋が削れて認証できなくなったりする。それを回避するために、色々な計算で補正したり、正しく認証できるようにしたりと工夫されているが、今度は計算が多くなり先の電池問題にもつながると考えられる。
OPELO IIの標準認証は、暗証番号、無線ICカード、スマホの3タイプとなり、いずれも経年変化がないものとなっている。
【5】カギ交換の必要
賃貸住宅の場合、それまでの借主が退去するとカギを丸ごと交換して、以前の合い鍵を使えないようにする。スマートロックならスマホやICカード、暗証番号だけ変更すれば不正を防止できるのに、「万が一用の」カギ穴があるため借主が変わるたびにカギの交換が必要なのだ。
大家にとってみれば「カギ穴さえなければ、ざわざわカギ本体を交換する必要も経費も必要なくなるのに……」という思いだろう。
賃貸でOPELO IIを使うとカギ穴を使わなくても済むし、もし要望があればカギ穴のある通常シリンダーも利用可能だ。
カギ穴が必要なければ、そもそも賃貸契約をしてもカギをもらうことがない。それゆえ大家は借主が変わるたびにカギ交換をする必要がなくなる。費用と時間、労力が大幅に削減されるだろう。不動産屋も内見の際には客のスマホにワンタイムパスワードを送れば、客自身がカギを開けられるのでスタッフが同行しないという方法もとれる。
賃貸だけでなく公共インフラにも
従来のスマートロックの問題点に対処した大崎電気工業のスマートロック事業責任者である、執行役員 ソリューション事業部 副事業部長兼 事業統括部長の小野信之さんによれば、ここ数年で国内の需要が増加しているという。
「私たちはスマートメーターの開発をしていたので、よく現場で質問されたのは“賃貸住宅で使えるスマートロックがないのか? ”ということでした。現状のスマートロックは、脱落や空き家で電源がない状態だと使えない、セキュリティの問題などで賃貸用のスマートロックとしては不向きです。かといって既存の賃貸をスマートロック付きドアに丸ごと交換するのは大家の負担が大きすぎる。そこで私たちが目指したのは既存のドアのカギに後付けするスマートロックで、課題となっていた多くの問題をクリアしたものです」
賃貸住宅の玄関以外にも、マンションなどの共用スペースや地方自治体が管理する公民館、さらには災害用の備蓄を備えている公園の倉庫などのカギの管理にも有効だという。カギをわざわざ管理室まで取りに行くことなく、申し込みからカギの返却まですべてネット経由で可能。これにより自治体の仕事などを大幅に合理化できるという。とくに災害時などは道路が寸断され、目的の公園に着けない場合でも、町内会の代理人に発行したワンタイムパスワードで解錠できるようにするなど、災害時にも頼りになるとのことだ。
ここ数年で賃貸住宅のスマートロック化が進んでおり、大手賃貸のミサワホームや大東建託、積水ハウスや東建コーポレーションなどがこぞってスマートロックを採用している。目的は業務のDX化や合理化だ。内見をする際にはワンタイムパスワードを発行し、入居希望者が自身でカギを開ける。不動産屋の担当者は、同行することなくスマホ越しに物件を紹介できるというわけだ。
スマートメーター(デジタル電力計)とスマートロックの連携も見据える
大崎電気工業によれば、今後戸建てにも販路を広げる予定で、高齢者の見守りや地震で問題になっている「通電火災」などにも対応できるという。
実は大崎電気工業の主力事業のデジタル電力計、いわゆるスマートメーターには、インターネットとは別に世帯と電力会社を結ぶAルートというネットワークと、家庭内の太陽光発電や電力消費データなどを集めるBルートというネットワークを持つ。ほかにCルートというのもあるが、これは事業向けのネットワークだ。
昨今は、家の電気メーターの検針員を見かけることが少なくなったが、これはAルートネットワークを通して自動検針しているからだ。ガス会社の検針もほぼ見かけないが、こちらは家庭(世帯)内のBルートで、ガス使用量(デジタルガスメーターには10年間駆動できる電池と無線システムを内蔵)をスマートメーターに送り、スマートメーターがAルートを経由して電力会社、そこからCルート経由でガス会社が使用量のデータをもらっているため。地方自治体が運営する水道もいずれはスマート化される予定だが、資金が豊富な東京都ですらまだ実験段階で、資金が苦しい地方はまだまだ先になるようだ。
このように家庭内の家電やさまざまな機器は、インターネット経由のLANとは別のBルートで通信して、お互いの状況を把握しあい総合的にコントロールできるインフラが整いつつある。
高齢者の見守りや通電火災防止にも
ほかの家族と離れて住む高齢者の見守りは、これまでは自治体などの職員が世帯に向かって声がけするしかなかったため、異常に気づきにくかった。しかしスマートロックで在宅状況が把握でき、かつ電力メーターを組み合わせると、プライバシーを守りながら異常にいち早く気づけるようになる。つまり「在宅しているのに、いつも電力消費パターンと異なる」というのがすぐに分かり、異常があればすぐに職員が駆け付けることが可能になる。
また、近年問題視されている、地震による通電火災の防止にも有効とみられる。地震により停電すると、電線のショートやストーブが倒れることなどで「地震直後には火災にならない」場合でも、避難指示などで家を開けているときに、電気が復旧すると先の原因で火災が発生するというものだ。この被害も在宅状況が分かれば、家に不在の状態で電力消費に異常がある場合、火災の発生が疑われるなどの判断が可能になるという。
経費削減や合理化ができることなど背景に、OPELO seriesのようなスマートロックを採用した賃貸物件や不動産、公共施設などが増えつつある。
その一方で、一般的なスマートロック製品も年々機能が進化し、価格も安くなって徐々に普及しつつある。賃貸向けだけでなく、OPELO IIの一般発売も今後始まれば、さらに普及を後押しすることにつながるだろう。
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