天然のクモ糸は地球上で最も強くて丈夫な素材の1つだと言われています。
2018年、アメリカのセントルイス・ワシントン大学(Washington University in St. Louis)に所属する合成生物学者フジョン・ジャン氏ら研究チームは、天然のクモ糸と同等の強度をもつ人工クモ糸を開発しました。
そして2021年、同研究チームは以前の人工クモ糸を改良し、天然のクモ糸よりも高い強度をもたせることに成功。
新しい人工クモ糸は鋼よりも丈夫なのです。
研究の詳細は、2021年7月12月付の科学誌『ACS Nano』に掲載されました。
目次
- 鋼よりも高い強度を持つ人工クモ糸を開発
- 強力な人工クモ糸が「繊維の王様」になるかも
鋼よりも高い強度を持つ人工クモ糸を開発
開発された人工クモ糸は、正式には「高分子アミロイド繊維」と呼ばれており、水に溶けない繊維状のタンパク質です。
この人工クモ糸は、研究者が直接製造するのではありません。
まず遺伝子操作された細菌をつくりだし、その細菌に人工クモ糸を製造させるのです。
2018年には、天然のクモ糸とほぼ同等の強度と性能をもつ人工クモ糸を開発。
そして最近チームは、人工クモ糸のタンパク質配列を変更することで、その強度を向上させることに成功しました。
新しい人工クモ糸の平均引張強度は、1000メガパスカル(MPa)です。
建物の骨組みや機械の部品に用いられる一般的な構造用鋼が450MPa、鉄と炭素の合金である炭素鋼が841MPaであることを考えると、非常に高い強度だと分かります。
またいくつかの天然クモ糸の引張強度も超えています。
では、こうした人工クモ糸の開発は私たちにどのような影響を与えるのでしょうか?
強力な人工クモ糸が「繊維の王様」になるかも

私たちの周囲は、石油で作られるプラスチックであふれています。
特に合成繊維であるポリエステルは軽量かつ高強度なため、世界中で利用されているのではないでしょうか。
しかし石油資源には限界があり、自然界でなかなか分解されないという大きなデメリットがあります。
そのため世界中の科学者たちは代替品の開発に取り組んできました。
その中でも特に注目を集めているのが、人工クモ糸なのです。
人工クモ糸のメリットは、「原料がタンパク質」であることと、「高い強度をもつ」ことです。
豊富なタンパク質から強力な繊維を製造できるため、環境にやさしく、幅広い分野に利用できます。
将来的には使い捨ての袋や容器だけでなく、手術用の縫合糸や人工血管、産業機器にまで適用できると考えられています。
ちなみに研究チームによると、「まだ調査できるタンパク質配列が数千ある」とのこと。
人工クモ糸の強度や性能が高まる可能性はまだまだ残っているのです。
参考文献
Synthetic spider silk stronger and tougher than the real thing
https://newatlas.com/materials/synthetic-spider-silk-stronger-tougher/
元論文
Microbially Synthesized Polymeric Amyloid Fiber Promotes β-Nanocrystal Formation and Displays Gigapascal Tensile Strength
https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsnano.1c02944
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部
🧠 編集部の感想:
人工クモ糸の開発が進むことで、素材科学の新たな地平が開かれると思います。強度や環境にやさしい特性を持つこの繊維は、医療や産業界での応用が期待されます。今後の研究でさらなる性能向上が実現する可能性を考えると、非常にワクワクします。
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