半世紀前、金星への着陸を目指して打ち上げられたソ連の探査機が、制御不能のまま地球の大気圏へ再突入する。機体の一部は地表に落下する可能性がある──。
1972年3月、ソ連の宇宙計画はあるミッションに大きな夢を託した。それが金星への着陸探査を目的とした「コスモス482号」だった。しかし、この探査機は打ち上げ直後にトラブルに見舞われ、地球周回軌道を脱出することすらできなかった。そして今、その失敗した宇宙船が思わぬ形で地球に「帰還」しようとしている。
NASAによると、着陸用に作られた探査機本体(ランダー=着陸船)が5月10日頃に地球へと戻ってくる見通しだ。私たちはこれを心配する必要があるだろうか。
「この着陸船は、灼熱の金星大気への突入に耐えるよう頑丈に設計されているため、地球の大気圏再突入でも機体やその破片が燃え尽きず、地上に到達する可能性がある」とNASAは警告している。
同探査機は、打ち上げ時には450kg以上もあり、金星の地獄のような環境を調査するための機器を満載していた。
しかし、この野心的なミッションは、軌道投入直後に深刻なトラブルに陥った。機体は4つのパーツに分離し、そのうち2つは軌道を維持できず早々に燃え尽きてしまった。残った着陸船と上段ロケットユニットは、より高い楕円軌道へと取り残された。「エンジンが誤作動を起こし、金星へ向かうのに必要な速度に達しなかった結果、宇宙船は地球の周りを不完全な軌道で周回し続けることになった」とNASAは分析している。
以来、この探査機は長い年月をかけてじわじわと地球に引き寄せられてきた。そしてついに、その再突入が目前に迫っている。現在の予測では5月7日から13日の間に落下するとされているが、正確な日時や場所までは分かっていない。なにしろコスモス482は制御不能のまま戻ってくるため、どのようなルートを辿るかの予測は非常に難しい。
幸いにも、地球の表面の約71%は海だ。大気圏で燃え尽きずに残った破片は、大抵の場合、人に危険を及ぼすことなく海に落ちるだろう。とはいえ、陸地に落ちる可能性もゼロではない。
しかしパニックになるほどの事態ではないと、科学教育の専門家マルコ・ラングブルーク氏は説明する。彼はこのコスモス482号の動きを追跡し、ブログで再突入の予測を更新している。「リスクは非常に低いが、ゼロとは言えない。隕石が落ちてくるリスクと同じようなものだ」と彼は冷静に指摘する。
1972年の打ち上げと聞くと、はるか昔の出来事のようだ。当時のアメリカ大統領はリチャード・ニクソン氏。映画館では『ラスト・ショー』がヒットし、テレビドラマ『オール・イン・ザ・ファミリー』は大人気。さらに言えば、当時の米国の家の平均価格はなんと2万7400ドルだった(日本円で約400万円、驚くほど安い)。
しかし宇宙開発は当時も今も変わらず続いている。最近の例では、4月末にアマゾンが「プロジェクト・カイパー」として衛星インターネットサービス用の人工衛星27基を軌道に打ち上げた。ただしこれらの衛星は、使命を終えたら安全に大気圏内で燃え尽きる設計になっている。
つまり、コスモス482の再突入はたしかに珍しい現象ではあるが、地下シェルターに駆け込むほどの事態ではないのだ。
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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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