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量子もつれが宇宙最強の「つながり」であることが証明された


ブラジルのカンピナス州立大学(UNICAMP)で行われた研究によって、量子力学の不思議な現象「量子もつれ」は、自然界でこれ以上ないほど強力な“つながり”であることが明らかになりました。

量子もつれによる相関が自然界の上限に達しており「自然界にはこれ以上強い相関を許さない基本原則がある」ということが判ったわけです。

しかしなぜ量子もつれは最強なのでしょうか?

研究内容の詳細は『Physical Review A』にて発表される予定です(印刷中)。

目次

  • 量子もつれが最強な理由
  • 量子もつれが上限ギリギリと判明

量子もつれが最強な理由

量子もつれが最強な理由
量子もつれが最強な理由 / Credit:clip studio . 川勝康弘

量子もつれとは、たとえ粒子同士が遠く隔たっていてもその性質が切り離せないほど密接に絡み合った状態を指します。

エンタングルメントとも呼ばれるこの奇妙な結合では、一方の粒子を観測した瞬間にもう一方の粒子の状態が即座に決まります。

アインシュタインがかつて「遠隔での不気味な作用」と評したように、距離に関係なく影響し合う様子は古典常識を超えた謎めいたものです。

しかし、この相関がいかに強力でも、情報を光より速く伝えること(因果律の破れ)はできず、相対性理論とは矛盾しません。

では疑問が生じます――「もっと強い相関」であっても光速不超過の原則に反しないなら、自然界に存在してもよいのではないか?と……

量子もつれの相関関係はたとえ銀河の端と端にいても、宇宙の端と端にいたとしても、そして距離無限大であっても理論上は成立してしまう圧倒的な「強さ」を持っていますが、それ以上の強い繋がりを持つ関係が絶対に存在しないとは言い切れません。

実際、理論的には量子論を超えた「より強い」相関を持つ仮想的なモデルを構築することも可能です。

その代表例がポプレスク–ロールリッヒのボックス(PRボックス)と呼ばれる思考実験装置です。

これは宇宙の端と端まで関係を繋げられるのに、それでも光の速度を超えた情報伝達はできないという点では「量子もつれ」と同じですが、理論上は量子もつれよりもさらに強い相関関係を持てると考えられています。

量子もつれの時点で距離無限大の関係を結ぶ力があるのに、ポプレスク–ロールリッヒのボックスはそれ以上というわけです。

ただこうした量子理論を超えた相関は理論上はあり得るにもかかわらず、現実の実験では確認されたことがありません。

なぜ宇宙には量子論以上の関係の強さを持つものは発見できないのか?

この問い(量子の相関の限界を決める原理は何か)は、量子論の根本に関わる未解明の謎として長年議論されてきました。

これまで物理学者たちは、この謎に答えるため様々な原理仮説を提案してきました(「通信の複雑性の非自明性」「情報因果律」「局所的直交性」「巨視的局所性」など)。

その一つが「排他性原理」(Exclusivity Principle, EP)です。

難しそうな名前ですが、内容は小学生でもわかるものです。

ここで言う排他性原理を極簡単に言えば、起こり得る全ての確率をいくら足し合わせても、その合計は100%を超えない、という当たり前すぎるルールです。

たとえば投げたコインが平らな地面に落ちた時に、表になる確率と裏になる確率、そして立ってしまう確率、さらに奇跡が起きて微妙に斜めに傾いた状態で安定してしまう確率など、ありとあらゆる可能性を集めまくって合計しても、その確率の合計は絶対に100%を超えません。

表になる確率が55%で裏になる確率も55%で、立ってしまうレアケースが1%で足したら111%というのがあり得ないのは、小学生でもわかるでしょう。

量子の世界は不可思議で直感的にあり得ないことが起こることが知られていますが、一部の理論ではそんな量子の世界も、100%を超えないというルールが適応されると主張しています。

たとえば2010年には物理学者アダン・カベージョ氏らによって、グラフ理論を用いて量子世界にも排他性原理が適応されることが示されました。

そして現実のコイン投げで「表が出る確率と裏が出る確率を同時に高めることができない」のと似たルール(隣接する頂点(排他的な事象)の確率は同時に高くなれない:EP)が存在する可能性があるわけです。

これは一見するとなんでも起こり得ると考えられる量子の世界も、流石に確率の合計が100%を超えないだろうという、縛りを設定したことになります。

そして研究者たちはこの縛りを起点(あるいはライン)に計算を行うことで、自然界に「量子もつれ」より強い関係性が存在するかを確かめることが可能になりました。

絶対に越えられない縛りを設定した上で、量子の関係の強さが縛りの限界と一致するかを見極めるのです。

するとこの方法を使うことで、いくつかの研究では量子もつれの強さが縛りの限界と一致する「最強」であることが示されました。

また中国の物理学者ヤン(Yan)氏の研究もこの結果を後押ししました。

現状最強の「量子もつれ」が持つ関係性の強さを表す数値は2√2(約2.828)であることが知られています。

そこでヤン氏は「同時に起こらない出来事の合計確率は100%を超えない」というシンプルな縛りをベースに計算を行い、理論上考え得るあらゆる関係の強さの値を求めたところ、最も強いものでも2.828と量子もつれの数値と一致しました。

さらに2014年には、アマラル氏らが行った研究(ある測定グラフに対し許される相関の集合は量子論が与える範囲に厳密に一致する)でも、量子力学よりもっと凄い結びつきの強さは存在しないことが示されました。

しかし、これらの先行研究は扱う状況(グラフ)が限定的であり、一般のあらゆる場合に当てはまる保証はありませんでした。

今回の研究の目的は、この原理をより普遍的な形で証明し、「量子もつれ以上の相関が存在しない」という主張を原理的に裏付けることにしました。

調査にあたってはまず、ある測定シチュエーションにおける相関の集合を調べ上げ、それと関係が裏返しになるもう一つの集合を用意し、両方に「確率の合計100%を超えない」というルールをかけました。

これは例えるならば2つはコイン投げの確率を2派閥にわけるという操作を量子の世界で検証したものと言えるでしょう。

すると量子が取り得る相関パターンは“ここまで”という境界線がはっきり現れ、量子力学が予言する上限とピタリ一致。

この結果は、「自然界で実現しうるすべての相関が量子論の枠内にあるならば、排他性原理によって量子論を超えるような相関(超・量子)は一切実現できない」というものです。

つまり量子もつれが発揮できる強さは、すでに宇宙が許す上限ちょうどいっぱいまで来ていて、それ以上の結びつきは原理的に弾かれてしまうわけです。

実際、論文では「排他性原理は基本的な限界を課し、量子論を超える理論の存在を(その原理だけで)否定する」と結論付けています。

この結論は、前述のアマラル氏らの限定的な結果を大きく一般化し、あらゆる状況に適用できるものとなりました。

今回の成果は数学的な証明ですが、現実の実験結果とも矛盾しません。

これまで多くの離れた粒子間の関係の強さを確かめる実験が行われてきましたが量子を超えるの相関は観測されていません。

今回の理論成果は、その観測事実を“なぜそうなるのか”という根っこから説明してくれる、強力な裏付けになったと言えます。

量子もつれが上限ギリギリと判明

量子もつれが上限ギリギリと判明
量子もつれが上限ギリギリと判明 / Credit:clip studio . 川勝康弘

本研究によって、量子もつれが「この宇宙で最も強い絆」であり、その強さには原理的な上限があることが明確に示されました。

これは量子論の基礎に関する非常に重要な知見です。

量子力学は極めて成功した理論ですが、「なぜ量子論はその形をしているのか」を説明する基本原理を欠いているとも言われてきました。

特殊相対性理論では光速度不変や時間空間の対称性といった簡明な原理から「何者も光速を超えられない」という結論が導かれていますが、量子論にはそれに相当する直観的な原理の導出が無かったのです。

しかし今回示された排他性原理による制限は、「なぜ自然は量子もつれ以上に非局所ではないのか」という疑問に対する解答を与えるものです。

言い換えれば、「自然界は奇妙でありうる限り最大限に奇妙だが、それを超えて奇妙にはならない」というわけです。

もちろん、この結論は「量子論が適用できるあらゆる現象で正しく機能している」という前提に基づいています。

将来もし量子論の枠を超えた振る舞い(ポスト量子現象)が実験で発見されれば、排他性原理そのものを再検討する必要が生じるでしょう。

しかし現在までのところ、量子論を超える相関は確認されておらず、自然の振る舞いは常に量子論の予測内に収まっています。

そして本研究は、その事実を支える背後の原理として「確率の合計は100%を超えない」という縛りの真理性を浮かび上がらせました。

今後、この成果は量子情報や基礎物理の分野においてさまざまな波及効果をもたらす可能性があります。

例えば、量子コンピュータや量子暗号の計算原理は量子もつれの強力さに支えられていますが、「これ以上強い相関がない」ことが保証されたことで、それらの理論的な限界がより明確になるかもしれません。

また、量子論の公理化(少数の基本原理から量子力学を導く試み)において、排他性原理が重要なピースになる可能性があります。

研究チームの成果は、量子論が「なぜそのような奇妙さで止まっているのか」という長年の謎に光を当て、自然界の基本的な仕組みを一段と深く理解する手がかりとなるでしょう。

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元論文

Unexpected consequences of postquantum theories in the graph-theoretical approach to correlations
https://journals.aps.org/pra/accepted/1707aNb8Me61582bf2106f18967bac831dd8b07b5

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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